特集 安心・安全(3)/東レ/素材の力で猛暑に対応/遮熱や吸汗速乾などそろう

2024年08月09日 (金曜日)

 統計を取り始めた1898年以降で最も暑かったとされた昨年の夏。猛暑や酷暑は恒常化し、今夏も「災害級の暑さ」という言葉が何度も耳に入ってくる。暑さ対策は必要不可欠な要素となっているが、遮熱や吸汗速乾といった機能を持つ繊維素材をそろえているのが東レだ。素材の力で社会の要請に応える。

 気象庁の発表によると、2023年夏(6~8月)は、15の観測地点による平均気温偏差はプラス1・76℃だった。これは1898年の統計開始後で最高だった10年夏のプラス1・08℃を大幅に上回り、最も暑い夏になった。今夏の気温も全国的に高く、猛暑が続いている。

 熱中症で救急搬送される人も増加している。消防庁のまとめでは昨年5月から9月に全国で9万1467人が搬送された。前年と比べて2万人以上増加し、過去2番目の多さだった。このような状況下で、東レは猛暑に対応するさまざまな繊維素材を開発し、展開している。同社素材に対する注目度は増している。

〈機能と環境対応を両立〉

 その中でも高い評価を得ているのが「ボディシェルEX」だ。優れた遮熱性と防透け性、紫外線遮蔽(しゃへい)性に加えて、特殊原糸の使用とテキスタイル設計によって従来の汗染み防止機能とは全く異なる「濡れ色抑制機能」も併せ持つ。ゴルフパンツ向けが多かったが、幅広い用途に広がっている。

 酸化チタンの含有率が10%を超える超フルダル糸を使用しているが、一般的な芯鞘構造ではなく、独自の革新複合紡糸技術「ナノデザイン」を駆使した多層構造糸であることも特徴の一つだ。芯部分と薄外層には再生ポリエステルを用い、リサイクル率を76%にまで高めることに成功している。

 遮熱機能を付与した生地では「サマーシールド」の販売も伸びている。フルダルのポリエステルを使った特殊生地に3層構造からなる特殊加工を施したラミネート加工ポリエステル織物で、マイナス4℃以上という遮熱効果を持つ、それに加えて、99・99%以上の遮光率、99%以上の紫外線カット率も実現した。

 日傘用途で実績を積み重ね、大妻女子大学の学生によるブランド「m_r tokyo」(マール トウキョウ)との協業で日傘も作った。コラボレーション商品に用いられたサマーシールドは、リサイクルの事業ブランド「&+」(アンドプラス)の再生ポリエステルを45%以上使用するなど、環境に配慮した製品に仕上がった。

 暑さに対応する多くの機能を併せ持っているサマーシールドに対する注目度は今後さらに高まる可能性が大きい。シリーズには、防炎加工を付与した「サマーシールドPB」もラインアップしており、テントやパラソル分野にも活躍の場を広げている。

〈多様な角度でアプローチ〉

 暑さ対策としてさまざまな角度からアプローチしているのも東レの特徴だ。「フィールドセンサー秒乾」は、高度な汗処理性能を持つ吸水速乾素材。独自のシングルニット構造によって大量の汗で肌面(裏面)が濡れても数秒で表面に汗を移動させる。超ハイゲージによる軽量化・薄地化も実現している。

 「ドットエア」は、特殊原糸と織物構造をベースに、独自の加工技術によって“通気孔”を発現した。これによって高い通気性を実現し、衣服内を快適に保つ。メッシュ調のため軽量感も特徴であるほか、用途によって耐久撥水(はっすい)や吸水といった機能を付与できる。ナイロンタイプもそろい、スポーツからカジュアルまで用途も広がりを見せる。

 「モイストプラス」は、特殊な吸放湿ポリマーを芯部に配した芯鞘構造のナイロンファイバーを使用した素材。運動などで衣服内が急激に蒸れるのを軽減(吸湿)するほか、静電気抑制機能も持つなど、衣服着用時の快適性を維持する。インナー用途が多いが、海外ではTシャツやポロシャツなどでも採用が進む。

〈スポーツ・衣料資材 事業部 部長 中園 真介 氏/事業部間連携でアプローチも〉

 猛暑・酷暑に対応する高機能素材を数多く販売する東レのスポーツ・衣料資材事業部。中園真介部長は「安全・安心の観点からも遮熱や紫外線カットといった機能を持った素材の提案は重要」との認識を示す。中園部長に暑さ対策素材の展開状況や事業部の方針などを聞いた。

――近年の夏の暑さに対応する素材のラインアップは。

 多くの素材をそろえていますが、注目を集めているのは「ボディシェルEX」や「サマーシールド」などです。安心・安全につながることから、これらの素材は小学生向けの引き合いが増えています。今後は学校ユニフォームを扱う機能製品事業部とも連携し、アプローチを仕掛けていきたいと考えています。

――ボディシェルEXなどは以前から販売している素材です。

 機能は進化・高度化しています。例えば通気性です。高いUPF(紫外線保護指数)と高通気という相反する機能を実現すべく、超フルダル糸と特殊な織り、編み構造で開発を行っています。織物、丸編み、トリコットの全てで対応し、UPFと通気度は顧客の要望に応じます。用途も広がり、白Tシャツやドレスシャツ用途の引き合いが増えてきました。

 そのほかの素材も進化し、高い汗処理性能を持つ「フィールドセンサー秒乾」は超ハイゲージ化で軽量化・薄地化を実現しています。競泳用水着素材はタイムを0・1秒でも縮めるための開発にしのぎを削ります。タイムの面では陸上競技なども同様ですので、暑さ対策に加え、ギアとしての進化にも目を向けます。

――事業部の重点方針は。

 一番の使命は日本の糸を使った高付加価値生地を発信することです。素材の進化・高度化にも関連するのですが、開発には力を入れたいと考えています。最低でも1年に一つか二つは新素材を生み出し、発表する方針です。同時に顧客や産地企業と連携を深め、価値のある良いモノ作りを推進します。

〈サニブラウン選手とウエア開発〉

 東レは、陸上短距離のサニブラウン・アブデル・ハキーム選手と共同で高機能ウエアを開発している。「ボディシェルEX」と「フィールドセンサー秒乾」を組み合わせ、汗対策やUVカット、快適な着用感を付与するなど、トップアスリートの要望に素材の力で応えた。

 両者が取り組みを開始したのは昨年の秋。舞台は、高機能素材の性能評価ができる設備がある東レ瀬田工場(大津市)のテキスタイル・機能資材開発センターだ。サニブラウン選手から普段行っている練習やレースでの悩み、選手としてウエアに求める機能について聞き取りを行うなど議論を重ねた。

 完成したトレーニングシャツは、ボディシェルEXの遮熱や紫外線カット、防透性と、フィールドセンサー秒乾の高度汗処理性能を組み合わせた。パンツやタイツにはストレッチ素材「プライムフレックス」やスパンデックス「ライクラ」を使用した。ウエアの一部には再生ナイロンを用いている。

 製品披露の場(特別開発商品発表会)で、サニブラウン選手は「こちらが出した要望に的確に応えてもらった。ウエアの完成度は本当に高い」とコメントした。