特集 アジアの繊維産業(5)/中国・東レグループ/差別化、連携で好調維持/サプライチェーン高度化へ
2024年09月27日 (金曜日)
江蘇省南通に拠点を置く長繊維生地製造販売の東麗酒伊織染〈南通〉(TSD)と、合繊長繊維製造販売の東麗合成繊維〈南通〉(TFNL)、研究開発拠点の東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)に、商社事業を手掛ける東麗国際貿易〈中国〉(TICH)を加えた4社による繊維事業は、差別化とグループ連携が奏功し、好調を維持している。差別化と連携を深化させ、サプライチェーンの高度化に取り組むことで、さらなる成長を図る。
〈6年ぶり過去最高更新へ/TSD〉
TSDの2024年度上半期(24年4~9月)業績は、前年同期に比べ増収増益で、売上高、純利益ともに過去最高となったもようだ。下半期も中国内販と輸出の双方を拡大し、通期業績で18年度以来6年ぶりの過去最高更新を目指す。
中国の景気減速が響き、内販の商況は厳しい。これまで好調だったスポーツ市場も勢いに陰りが見られる。こうした中、「差別化、機能性、感性を追求する商品のブランディングと拡販に注力し、成長を維持している」(秦兆瓊総経理)。
メガスポーツ向けが中心の欧米輸出は、北米向けが顧客の在庫調整が一段落し、回復傾向にある。欧州向けは経済の低迷を受け、全体的に芳しくないが、一部顧客が発注を積極化しつつある。一方、欧米顧客は生産のASESANシフトを続けており、先行きは楽観できない。そのため、サステイナブル素材を核に販売強化を図っていく。
エアバッグ用途の織物は、電気自動車(EV)を中心とした地場メーカー向けを拡大している。半面、EVの内装材用途のスエード調人工皮革「ウルトラスエード」の染色加工は、EV販売の伸びの鈍化を受け、やや苦戦している。
下半期は、近年注力する春夏向け編み物の内販拡大に重点を置く。織物も付加価値品の提案に引き続き取り組み、好調を維持していく。
〈ファイバーけん引し増収増益へ/TICH〉
TICHの2023年度業績は、最高益を更新した前年度から横ばいとなった。ファイバーやスエード調人工皮革「ウルトラスエード」が堅調に推移した半面、複合材料などの市況が悪化した。24年度上半期も微増収にとどまる見通しだが、「下半期にファイバーなどを拡大することで、通期では増収増益を目指す」(溝淵誠総経理)。
テキスタイルの中国内販は24年度上半期、増収増益となった。ファッション市場の市況は芳しくないが、東レの差別化糸と天然繊維との複合糸使いの拡販で成果を上げた。
下半期は東レ本社の原糸・原綿をメインに使用し、中国とベトナムの外注委託工場で生産するファッション用途向け生地ブランド「EVOTRUTH」(エボトゥルース)の、日系と地場の生地商社を通じた販売に注力する。中でも東レの複合紡糸技術「ナノデザイン」の糸使いの訴求を強める。
テキスタイルの欧米輸出は上半期、主力の北米カジュアルスポーツ向けが苦戦する中、ベトナム縫製の一貫生産を武器に、客先を広げた。下半期は、合繊と天然素材の混紡糸使いの新商品を打ち出し、定番品からの入れ替えを狙う。
ファイバーは上半期、約2割の増収だった。靴下やインナー向けの混紡糸の販売がけん引した。下半期は、TFRCと協力し開発したシルクとカシミヤを使った混紡糸の、日系大手SPA向けの販売拡大に取り組む。
〈商品力強化で過去最高益/TFNL〉
TFNLの2023年度業績は、生産設備の高度化と商品力の強化が功を奏し、過去最高益を更新した。24年度上半期もポリエステル、ナイロン事業がともに好調を維持する。
ポリエステル事業は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)使いのバイメタル構造糸がけん引している。同糸の23年度売上高は過去最高となった。競合メーカーの参入で価格競争が激化しているが、品質向上と原価改善に取り組むことで、利益を確保している。グループ各社と連携した新商品開発も、成果を上げている。
ナイロン事業は、23年7月から投入した超細番手のパンティーストッキング向け差別化糸を拡大している。地場大手ブランドへの直接提案を始め「タイムリーな素材開発と提案に取り組み、販売が軌道に乗った」と寺澤裕之董事長は話す。
23年後半にナイロンの仮撚り加工糸(DTY)の生産を本格化した。競合が手掛けない複合DTYに特化し、開発を進めている。2本の特殊なナイロンを複合仮撚りした綿調素材の新開発品は、グループ会社と連携し、地場スポーツブランド向けに縫製一貫で提供することが決まった。
一方、競合の地場大手合繊メーカーも差別化品の開発を進めている。そのため今後は、差別化原糸の開発を加速しながら、グループで連携し、原糸から縫製までの事業全体で収益を拡大していく。
〈大型開発品の投入相次ぐ/TFRC〉
TFRCが研究開発に関わった製品の2023年度利益貢献額は、大型商品の相次ぐ投入で過去最高を更新した。中でも日系大手SPA向けに開発したサステイナブル素材と、現地プロジェクト向けの環境インフラ素材が貢献した。
24年度上半期は、サステ素材や、東レの複合紡糸技術「ナノデザイン」の研究に力を入れている。衣料リサイクルや、バイオ材料を用いた合繊素材の製造方法についての研究開発も進めている。
上半期の研究開発の大きな成果が、シルクとカシミヤを使った混紡糸だ。この糸は、TICHが現地の産地から調達した原料を外注工場で紡績し、日系大手SPAに提供する。19年に立ち上げた短繊維専門の研究開発棟が、成果を上げた形だ。清水敏昭総経理は「大きな生産規模になりそうだ」と期待する。
昨年まで好調だった環境インフラ素材は、競合メーカーの参入が続き、競争が激しくなっている。そのため、新しい試験・評価設備を導入し、新素材開発を加速していく。
同社の研究開発成果である素材や技術はこれまで、中国の上海・南通地域と日本本社の工場で展開されるケースがほとんどだった。それがここ数年、中国の沿岸部全域からASEAN地域、さらに南アジアにまで広がっている。
そのため、こうした地域で活躍する研究開発員が逼迫(ひっぱく)しつつある。下半期から人材の確保や育成にも力を入れていく。
〈インタビュー/在中国東レ代表 東麗〈中国〉投資 董事長 三木 憲一郎 氏/高度化で中国の先頭走る〉
――中国経済の現状は。
景気の鈍化が続いています。特に不動産関係が厳しいです。政府は対策を打っていますが、庶民が期待するほどのインパクトがありません。住宅価格がいつ底を打つかはっきりせず、様子見が続いています。そのため、消費にお金がなかなか回っていきません。
――こうした中、御社の中国事業の現状は。
2024年度上半期は、前年同期比で1割強の増収になりそうです。下半期も上半期の勢いを維持し、通期で売上高を1~2割増やせるとみています。これまで仕掛けてきたものが、下半期に幾つか花を咲かせそうです。
――世の中の雰囲気とは対照的に、繊維をはじめとする各事業が好調です。
差別化戦略が功を奏しています。TFRCが後ろ盾となり、各社の技術部隊も力を発揮し、差別化素材市場で東レグループのブランド価値を高めてきました。それが各社の元気につながっています。
――グループ連携をここ数年、強めています。
その成果がいろいろ表れています。例えば、これまでは各社がそれぞれ外注工場と付き合っていましたが、TSDとTICHが連携を始め、それぞれの外注工場を相互に活用できるようになりました。
中国のテキスタイルメーカーのレベルがどんどん上がっており、こうしたメーカーとの協業が重要になっています。外注工場の共有化により、TICHだけでは分からなかったそうした工場の強みが、TSDとも組むようになって発見できるケースもあります。
グループ連携の促進で、外注工場の活用の最適化が図れています。自社工場と外注工場を組み合わせ、市場ニーズに最適な提案ができる体制ができつつあります。
――市況の低迷を受け、定番品が厳しくなる一方、差別化素材のニーズは拡大しているようです。
当社にとって追い風です。市況が振るわない中、特徴のないものが売れなくなり、ファッションでも、スポーツでも、差別化、機能性の素材が求められています。ブランド側からわれわれに対し、差別化素材についてのさまざまな要望が寄せられています。この市場はまだまだ伸びると思います。
――下半期以降の計画は。
戦略的プライシング(創出した価値を価格に適切に反映させるプライシング戦略)を、もっと浸透させていきたいです。これまでのように、購入規模が大きいから値段を下げるのではなく、東レしか提供できない価値の高いものについては値上げします。逆に、競合品と差別化のレベルがそれほど変わらない場合は、シェアを上げるために値下げすることもあるでしょう。
繊維事業はまだまだやれることがあります。TSDはニットテキスタイルを本格化し、新規顧客の開拓に力を入れています。TICHは、マレーシアのペンファブリックのTC(ポリエステル綿混)織物の内販を始めました。
今後も各社の連携を進めながら、サプライチェーンと素材の高度化で、中国の先頭を走っていきます。