特集スクールユニフォーム(1)/MCは都市部から地方へ
2024年10月31日 (木曜日)
性的少数者(LGBTQ)配慮の観点から、学校制服を性差の感じさせないブレザーへとモデルチェンジ(MC)する動きが2020年ごろから強まっている。その動きは都市部から地方へと移り、来春も高いMC校数を維持する見込みだ。学生服メーカー各社は増加するMCに対応するため、安定的な納品に向けた取り組みに注力する。加えて、原材料価格や人件費など、あらゆるモノの値段の高騰が続いていることから、製品の価格改定も今後の焦点となる。
〈公立校で刷新傾向〉
従来の詰め襟とセーラー服という、性差のはっきりとした制服の採用比率が高い公立中学校で、男女共通デザインのブレザーへと制服を刷新する動きが近年広がっている。
ニッケの調査によると、今春の入学商戦のMC校は735校(中学校609校、高校126校)で、過去最多を記録した23年の748校(同578校、同170校)に次ぐ多さだった。来入学商戦のMC校も9月末段階で710校に達したとし、3年連続で700校を超える見込みだ。
ニッケ衣料繊維事業本部長の金田至保常務執行役員は「東北地方の学校でもMCが出てきた」と指摘する。学生服メーカーからも「MCの動きが速かった東京や愛知など都市圏は下火になってきており、地方でMCがピークを迎えている」との声も聞かれ、MCの動きは地方へと波及しつつある。
〈確実な納品に向け動く〉
来入学商戦におけるMC校数も高水準が見込まれる中、学生服メーカーには引き続き確実な納品体制が求められる。
昨春は生産、納品面でタイトな状況が続き、一部では納品遅れも発生した。この反省を生かし、今春の入学商戦では、大手メーカー含めて比較的順調に納品を終えることができたようだ。来春に向けても各社は新規注文の締め切りを前倒すなど、引き続き早めの対応を取ることで確実な納品につなげる。
一方、制服の供給体制ではほころびが顕在化してきた。北海道内で学生服の販売店を展開していたトンボのグループ会社、大万スクール(札幌市)が今年に全店舗を閉店。トンボは供給に向けて手立てを講じている。後継者不在のほか、採算の悪化で廃業やM&A(合併・買収)を選択する制服販売店が今後も増えてきそうだ。
今春の入学商戦では「お下がりの比率が増えた」(学生服メーカー)との声も聞かれる。新型コロナウイルス禍では体育着での通学が増えるなど、制服を着る頻度が減り、制服が比較的奇麗な状態なまま残っているケースが多いほか、衣類のリユースなどサステイナブルな意識の高まりで「保護者の価値観が変わってきた」(縫製工場)ことなどの要因が絡む。このことで「生産時の原反の数の見定めが難しい」との声も上がる。
〈価格改定は最優先課題〉
増えるMCに対応したことで、大手学生服メーカーは受注量を増やし、売り上げも増収を確保した。一方で、燃料費や原材料費、運送費、人件費などあらゆるコストが高騰しており、利益を押し下げる原因となっている。
各社はこれまで生産の効率化などコスト吸収に向けて手を打ってきたが、それだけでは限界を迎えつつある。そのような中、大手メーカーを中心に値上げへの動きが出始めた。
今期の注力ポイントについて「絶対的に価格改定」と言い切るのはトンボの藤原竜也社長。同社では3年計画で改定を進めており、今期は「目標とする7割ほどの学校の理解を得られている」とする。菅公学生服の尾﨑茂社長は24年7月期を「厳しい1年だったとしか言いようがない」と総括。「価格改定、それしかない」として、徐々に交渉を進めている。
明石スクールユニフォームカンパニーの河合秀文社長は「価格改定に向けて先頭を切って動いた」とし、「この間もコスト上昇の状況について顧客の理解をもらえている」と説明する。
価格改定に加えて在庫の圧縮も課題となる。制服の安定供給を重視し、在庫を積み増したことが各社の在庫増の要因となった。適正な在庫量にするために、各社は生産調整に動いている。
〈中堅は独自の取り組み〉
大手メーカーがシェア拡大に向けて攻勢をかける中、中堅メーカーは大手と差別化した取り組みを進めている。
オゴー産業(岡山県倉敷市)は、制服といった“モノ”に加え、「全国地域安全マップコンテスト」など“コト”の提案にも注力。展示会なども開きながら自社の強みを発信している。吉善商会(東京都中央区)は社員の能力向上によって新規案件を獲得する。高ストレッチ性ポリエステル100%生地を来年度から本格展開するなど新商品も拡充。短納期体制を目指し、埼玉県草加市内に新物流拠点も設置した。
学生服販売店との協力関係を強化するのは金原(横浜市)だ。グループ会社のユース(栃木県佐野市)による縫製OEMのビジネスも堅調に推移する。同じく学生服販売店との関係を重視するのはベンクーガー(倉敷市)。ビジネススーツ販売やTシャツなどへのプリント事業など、販売店支援の動きを強めている。
このみ(新潟県妙高市)では、新サービス「セレクト型学校制服」と、短期利用者をターゲットとしたオンラインレンタルサイト「ネトカリ」が堅調。アイテムの組み合わせによるコーディネートや短納期対応などが好評で、通信制学校などで採用が広がる。