特集 人工皮革/用途広がり進化する価値/クラレ/旭化成/東レ/帝人コードレ
2024年11月29日 (金曜日)
いまや天然皮革の単なる代替品ではなくなった人工皮革。さまざまな用途で採用が拡大している。用途の拡大に加えて環境配慮型原料の採用や新製法による環境負荷低減など、その価値の進化が一段と加速する。
〈リサイクル原料へ転換加速/新製法「CATS」に優位性/クラレ〉
クラレは人工皮革「クラリーノ」で基材原料をサステイナブル素材に転換する動きを加速させている。また、主力のシューズ用途だけでなく、自動車やラグジュアリー分野での販売拡大にも力を入れる。
クラリーノの販売は2022年度(12月期)の活況の反動で23年度はやや苦戦したが、24年度に入って回復傾向が続いている。特に主力のシューズ用途が安定して拡大しており、リサイクル原料への転換が進む。
その一つとして、婦人靴・かばん企画販売のダイアナ(東京都渋谷区)とスニーカーブランド「プラスダイアナ」向け人工皮革を共同開発した。クラリーノの基材となるマイクロファイバー不織布にペットボトル由来再生ポリエステル繊維を採用した。
一方、自動車内装材は大きな落ち込みがないものの、欧州を中心に自動車メーカーの業績が悪化していることで先行きが不透明になってきた。高級バッグやハイブランド宝飾品の店頭什器(じゅうき)などラグジュアリー分野も勢いがない。中国市場でラグジュアリーブランドの販売が伸び悩んでいることが背景にある。このため25年度に関しては慎重な姿勢を強めている。
こうした中、引き続き基材に使用するポリエステル繊維やナイロン繊維をリサイクル素材に転換する取り組みを進める。シューズ用途は取引先ブランドがサステ素材の採用を拡大しているため対応が急がれる。
その上で、新製法「CATS」による生産・販売の拡大をシューズに加えて自動車やラグジュアリー製品用途でも取り組む。CATSは従来製法と比較して温室効果ガス(GHG)、水使用量が削減でき、水系ウレタンを使用するため有機溶剤の使用量も事実上ゼロ。現在、欧州を中心に有機溶剤規制が強化されていることから、優位性が高まる。
〈さらなる開発と品質向上/フル生産フル販売続く/旭化成〉
旭化成は、人工皮革「ディナミカ」で、さらなる品質向上と商品開発、製造プロセス革新に向けた研究に力を入れる。主力の自動車内装材用途は堅調が続いているが、人工皮革を取り巻く環境が厳しくなる中、環境配慮なども含めた新たな価値の創造に取り組む。
世界的に自動車の販売台数が伸び悩む中、2024年度上半期(4~9月)は主力の自動車内装材向けは計画通りに推移した。家具やコンシューマーエレクトロニクスなど自動車内装材以外の用途も濃淡はあるがおおむね計画通りに推移した。このため下半期も市況が軟化する中で計画達成を確保し、フル生産フル販売を維持したい考えだ。
ただ、市場の変化で従来型の商材だけでは拡大が難しくなりつつある。このため品質の向上と新たな開発に一段と力を入れる。特に各国で環境規制が強化されていることから、それに対応した開発が重要になる。ディナミカは基材のリサイクル原料転換がほぼ完了し、ウレタンも水系化している。今後は原料の変更だけでなく、製造プロセスの革新も含めた研究を進め、もう一段の環境負荷低減の実現を目指す。
〈バイオ由来原料を拡大/アパレル含め幅広く提案/東レ〉
東レは、人工皮革「ウルトラスエード」でバイオ由来原料の使用拡大を進める。自動車内装材用途で一服感が強まっていることから、家具、店舗内装材、コンシューマーエレクトロニクス、アパレルなど幅広い用途への提案に力を入れ、ブランド力の向上にも取り組む。
2024年度上半期(4~9月)は、自動車内装材用途の販売が鈍化した。電気自動車(EV)シフトがやや一服したことに加え、人工皮革を採用しない中低価格帯の車種が増加したことが要因。一方、航空機内装材は堅調を維持しており、店舗内装材も好調。家具も有力ブランドに採用されるなど成果が上がる。アパレル用途もデザイナーブランドを中心に安定的に採用されており、海外でもアウトドアブランドの部分使いで採用が拡大した。
今後に関して、自動車内装材の需要が下振れしていることから、増設した製造設備の稼働もやや遅れる見通し。24年度末から25年度前半に立ち上げたい考え。また、リサイクル原料や部分バイオ由来原料の使用拡大にも取り組む。将来的には100%バイオ由来原料の実用化も目指す。
〈スポーツ向け好調続く/CO2削減に対応/帝人コードレ〉
帝人フロンティアグループの帝人コードレが製造販売する人工皮革「コードレ」の好調が続いている。主力のスポーツ用途はサッカーシューズやボールとも堅調となり、供給がタイトな状態となった。
2024年上半期(4~9月)は、スポーツ市場自体はやや勢いがないが、シューズはハイエンドモデル向けが多いため好調が続いた。23年度は低調だったボール向けも流通在庫の整理が進んだことで販売が回復した。同社は輸出比率が高いため、円安も利益面で追い風となった。現在の好調は下半期も続くとみている。26年のサッカーW杯に向けて25年からはシューズ用途での特需への期待も大きい。
一方、課題は環境配慮への対応だ。現在、製造工程で使用する有機溶剤の削減を進めており、ウレタンの水系化に向けた開発にも取り組む。製造工程で発生する二酸化炭素削減への要望も強く、対応を進める。また、資材分野を含めた新規用途に向けた商品開発にも力を入れる。