ごえんぼう
2025年01月31日 (金曜日)
夕闇の中、街灯に照らされた白梅がほのかに浮かび上がる。いつの間にか満開になっていた▼冬に咲き誇る白梅には凛(りん)としたイメージがある。俳人で国文学者の中村草田男は〈勇気こそ 地の塩なれや 梅(うめ)真白(ましろ)〉と詠んだ。学徒出陣する教え子たちへのはなむけの句。自句自注に「身辺に梅花が凛冽と咲いていた」とある▼「地の塩」は聖書の言葉で人に尽くす信仰者のこと。言論統制下に聖書を引用し、無言で書き記したことを考えると、国のため戦地へ赴く教え子の勇気と“死に急がない勇気を”という悲痛な願いを詠んだのかもしれない▼世界では今も戦禍が絶えない。それによる核使用の恐れや気候変動リスクの高まりなどから、人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」は過去最短の89秒になった。その真偽はともかく、危機感が増したのは確かだろう。時計の針を戻す勇気ある選択と行動が必要だ。