合繊スポーツ素材/市場シェア変化の契機か/具体化する化学物質規制対応
2025年02月21日 (金曜日)
欧州を中心に化学物質規制の強化が進められる中、透湿防水生地など合繊スポーツ素材も規制への対応が具体化している。加工剤やベース素材の変更によって性能変更も一部であることから、市場シェア変化の契機となる可能性も指摘される。日本の合繊メーカーにとっては新たな商機となりそうだ。
(宇治光洋)
化学物質規制の中でも特に影響が大きいのが撥水(はっすい)機能素材で使われている有機フッ素加工物(PFAS)問題。欧州では2028年までには製造・流通・販売が禁止となる見込みだ。米国は州によって規制が異なるが、27年以降はかなりの州でPFASを含んだ製品の製造・流通・販売が禁止される可能性が高い。このためスポーツ・アウトドアブランドの多くは採用する透湿防水生地のPFASフリー化を進めている。
こうした中、透湿防水生地「ゴアテックス」を展開する米国のWLゴア&アソシエイツは、25年内にスポーツ・アウトドア向けのゴアテックスのPFASフリー化すると発表した。透湿防水生地の代名詞にもなり、世界的に高いシェアを持つゴアテックスだけにスポーツ・アウトドア分野でのPFASフリー化が一気に加速するのは確実だ。
日本の合繊メーカーも早くからPFASフリー化に取り組んできた。東レは透湿防水生地「ダーミザクス」のPFASフリータイプを実現しており、販売量も拡大が続く。旭化成アドバンスもPFASフリーの透湿防水生地「インパクトΣ」を重点戦略商品と位置付けて提案している。
一方、透湿防水生地のPFASフリー化は、加工剤や透湿防水メンブレンなど素材の変更を伴う。例えばゴアテックスの場合、透湿防水機能の要であるメンブレンがフッ素樹脂である延伸ポリテトラフルオロエチレンから延伸ポリエチレンに切り替えられた。WLゴア&アソシエイツは従来品と同等の性能を確保しているとしているが、素材変更によって厳密には性能に変化があることもまた事実だ。
このため需要家であるスポーツ・アウトドアブランドは性能を再評価した上で、価格とのバランスも考慮しながら採用の是非を検討するケースも出てくる。つまり、これまでの実績やブランド力とは関係なく、全てのメーカーの透湿防水生地が比較検討の対象となるチャンスが生まれることになる。
こうした動きは、透湿防水生地の市場シェアを変化させる契機となるかもしれない。この分野は長らくゴアテックスが圧倒的なブランド力を保持してきたが、そこに日本の合繊メーカーが割って入るチャンスが生まれる。
今後、同様のケースが透湿防水生地以外でも起こるのは確実だ。世界的な化学物質規制、さらには環境規制全般の強化は合繊スポーツ素材の市場シェアを大きく変動させる要因となる。これを日本の合繊メーカーが商機として生かすためには、規制への対応をいち早く実現する技術力が不可欠となる。