2025年春季総合特集(8)/Topインタビュー/帝人 社長 内川 哲茂 氏/壁を乗り越えて企業連携/強靭かつ柔軟な基盤構築
2025年04月22日 (火曜日)
2カ年の中期経営計画を進行中の帝人。1年目の2024年度(25年3月期)について内川哲茂社長は「ステークホルダーと約束したことにきちんと取り組んだ。従業員の頑張りもあり、“やれる帝人”を見せることができた」と一定の評価を与えた。仕上げの1年である今年度は事業を取り巻く環境は厳しいと予想しつつ、強靭(きょうじん)かつ柔軟な経営基盤を構築する。収益性の向上にも目を向けているが、「特殊要因を除いた帝人の本当の姿を示したい」とした。26年度には次の中計を始動し、成長のステージに入っていく。
――Gゼロ時代といわれます。何が求められますか。
Gゼロ時代と聞いて、元英ユニリーバCEOのポール・ポルマン氏が書いた「ネットポジティブ」を思い出しました。その中に、国境をまたいで全てがつながる時代に問題や課題を解決するのは国ではなく、グローバルでビジネスを展開する企業の役割であるという言葉が記され、印象に残っています。
企業には文化の壁はありますが、乗り越えられない障壁はありません。企業が連携して社会問題の解決に貢献する時代が来たのだと感じています。日本の企業でも世界との関わりなしには生き残れません。自分たちの殻に閉じこもらず、さまざまな壁を乗り越えて連携していくことが重要なのだと思います。
――連携は可能なのでしょうか。
可能かどうかではなく、連携して問題に当たらなければ解決できないと思います。サーキュラーエコノミー(循環型経済)やカーボンニュートラルがそうでしょう。例えば、航空機や自動車です。製造から廃棄まで10年、20年という時間がかかり、これまでのように製造者責任だけでは成り立ちません。
製造した時にリサイクルを約束したとしても、廃棄された航空機や自動車が戻ってくるのは10年以上先です。その処理方法を製造段階で100%決めておくことは困難です。それは自動車メーカーだけでなく、素材メーカーも同じです。時間軸を超え、かつ使用者(消費者)も一体となった連携が求められます。
――Gゼロ時代の帝人は。
当社の歴史を改めて振り返ると、1980年代半ばに在宅医療を始めています。高齢化社会という言葉がまだ一般的ではなかった時代に、医療機器ではなく、在宅医療に焦点を当てていました。問題が発生する前から課題を探り、解決に向けて取り組んできたことになります。それが今、花を咲かせています。
会社としての姿勢や考えは連綿と続いています。現在も「地球環境にとって最も良いソリューションを考えている会社」と言われたいと思っています。良かったのは、パーパスを社員と一緒に作り、「何に取り組むのか」を先に決めておいたことです。Gがゼロでも7に戻っても、われわれがやるべきことは変わりません。
――事業の話をすると、24年度は中計1年目でした。
私たちにとっての24年度は、顧客や株主をはじめとする多くのステークホルダーと約束したことにきちんと取り組んだ1年になりました。数字や企業文化を含めて、たくさんの約束をしたのですが、従業員はよく頑張ってくれたと感謝しています。“やれる帝人”を見せることができたと考えています。
24年4~12月の業績は、増収で大幅増益を達成しました。ただ、中国経済の鈍化が欧州の自動車メーカーに波及するなど、業績の中身は濃淡が濃くなってきました。良かったのは、欧州の苦戦を、繊維・製品事業でカバーできたことです。元々リジットで折れやすい会社でしたが、柔軟性ができてきました。
――中国はかなり厳しいのですか。
アラミド繊維で例えます。アラミド繊維が使用される光ファイバーケーブルは通信インフラに不可欠ですが、そのインフラへの投資がスローダウンしています。アラミド繊維は、中国などのインフラ需要と自動車関連需要で年率6%程度の成長を続けてきました。22~24年は成長が止まっているかもしれません。
――25年度に入りました。事業環境は。
かなり厳しくなると予想しています。中国の経済が戻っておらず、EV(電気自動車)の拡大も遅れていますので、われわれのハイパフォーマンス商品の販売も苦しい状況が続くとみています。
事業別では、繊維・製品は、昨年は日系自動車向けが苦戦しましたが、25年度は回復が期待でき、衣料分野との両輪で順調に進みそうです。アラミド繊維は定期修繕の年ですので厳しさは残るでしょう。複合成形材料は、トランプ関税の影響も懸念された北米拠点の売却に合意しました。
――どの辺りに重点を置きますか。
不測の事態に対応できる強靭かつ柔軟な経営基盤の構築に力を入れる方針です。収益面では、特殊要因を除いて「これだけ稼げるようになった」という帝人の本当の姿を示したいと思っています。
中計の発表時に「提供価値主体の事業に変わる」と表明しました。その良い事例が在宅医療と樹脂コンパウンド、繊維・製品です。いずれも扱っている商品はコモディティー化しているのですが、顧客からの信頼などで価値が提供できています。
――将来への取り組みでは。
これまでは約束通りポートフォリオの絞り込みに取り組んできました。25年度は上半期の早い段階で絞り込みを終了し、残ったポートフォリオの中からモビリティーとインフラ、ヘルスケアに資する未来のポートフォリオをどのように作っていくかを議論します。それが次の中計につながっていくのですが、成長のステージに入れると信じています。
〈昭和時代の思い出/ウェルビーイング〉
昭和について内川さんは「社会が浮かれ、会社が浮かれ、人も浮かれていた」とし、「幸せな時代だった」と話す。マイカーやマイホームを手に入れるために頑張り、頑張れば結果が得られ、「今風の言葉で言えばウェルビーイング」と語る。そのウェルビーイングだが、「中国企業に勤める人たちの間で向上していると耳にした」と言う。中国企業が人材を大切にしてきた結果とし、「日本企業も見習うところがある。品質や技術で勝っているだけでは駄目になっている」と指摘した。
【略歴】
うちかわ・あきもと 1990年帝人入社、2017年帝人グループ執行役員マテリアル事業統轄補佐兼繊維・製品事業グループ長付、20年同複合成形材料事業本部長、21年4月帝人グループ常務執行役員兼マテリアル事業統轄、同年6月取締役常務執行役員などを経て、22年4月代表取締役社長執行役員