2025年春季総合特集(10)/Topインタビュー/クラボウ 社長 西垣 伸二 氏/選ばれる商品の開発力強化/繊維事業は投資拡大へ
2025年04月22日 (火曜日)
クラボウは今期(2026年3月期)から3カ年の新中期経営計画をスタートさせる。30年にイノベーションと高収益を生み出す強い企業グループを見据える「長期ビジョン2030」の第3ステージに入り、西垣伸二社長は「長期ビジョン達成に向けた非常に重要な3年間となる」と話す。繊維事業の独自技術製品、化成品事業の高機能樹脂製品や機能フィルムなど、「成長分野を確実に伸ばす」考えだ。外部環境の変化にしなやかに対応しながら、「ここでしっかりと加速し、できれば前倒しでの目標達成を目指したい」と語る。
――世界経済の不確実性が増す「Gゼロ」時代に入りつつあります。
変化の激しい時代に素早く対応するのは難しくなりつつあります。顧客や協力会社はもちろん、場合によっては競合他社とのアライアンスも視野に入れるべきかもしれません。1社だけでなく、グループやチームとしてグローバルに対応できる仕組みを構築することが重要になってきます。
さらに商品力・開発力の強化も徹底していかなければいけません。今回のような相互関税の発動といった障害があったとしても、顧客や市場に「この商品でなければならない」と選ばれるような、圧倒的な魅力を持つ商品開発が不可欠です。そのためには開発力の強化を急ぐ必要があります。
繊維事業では、テキスタイルイノベーションセンター(TIC、愛知県安城市)、染色加工の徳島工場(徳島県阿南市)が中心となり、独自技術を磨いていきます。
化成品事業では、3月末に竣工した熊本イノベーションセンター(KIC、熊本県菊池市)が核になってきます。KICは、特に成長が期待される半導体分野をターゲットに、他の事業部とも連携しながら開発を推進する拠点となります。単なる生産拠点ではなく、開発機能も大幅に強化し、イノベーションの核となる場所にしていきます。
グループ全体の総合力を高めるため、グループ内での情報共有、技術交流、人材のローテーションなどを積極的に進めていきます。また、常に変化を予測し、想定されるリスクへの対策を事前に講じておかなければいけません。
さらに成長戦略と並行し、事業の選択と集中を進めていきます。前期(25年3月期)には、紡織拠点だった安城工場(安城市)の閉鎖(6月末予定)と、自動車向け軟質ウレタンモールド製品製造販売の広州倉敷化工製品の事業譲渡という大きな決断を下しました。今後も、事業ポートフォリオの見直しは継続的に行っていきます。
――国内では紡績工場の減少が続いています。
安城工場の閉鎖は、エネルギーコストの高騰と、建屋や設備の老朽化による競争力低下が背景にあります。設備の一部は、より競争力のある海外への移管を検討中です。
TICには試紡・開発用に6千錘の紡機を残します。羽毛代替となる中わた材「エアーフレイク」や、裁断片などを独自の開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」関連の設備は安城に存続させ、技術開発の機能は維持、強化に努めます。
――25年3月期の見通しは。
第3四半期までは順調でしたが、第4四半期に半導体設備向けの高機能樹脂製品の受注が急減速しました。これは、中国における半導体設備の内製化投資が一巡し、設備の立ち上げ時期に入ったことなどが要因と考えられます。また、繊維事業も計画対比でやや苦戦しました。ただ、営業利益ベースで見ると通期では中計の目標水準レベルとなりそうです。
繊維は独自技術の製品群が事業の推進力となり、前期は一つの“転換期”でした。原綿改質の機能綿糸「ネイテック」は、UV遮蔽(しゃへい)・遮熱機能を持つ素材の投入で、秋冬物だけでなく春夏物にも展開でき、インナーからアウターまで用途が広がっています。
暑熱リスク・体調管理システム「スマートフィット」もスマホレス型ウオッチの販売や、見える化レポートが大手企業も含め導入のきっかけになっています。売り上げは前の期に比べ3倍強も増えました。
化成品事業は堅調です。高機能樹脂製品では第4四半期に受注が急激に落ち込んだとはいえ、前期並みの高水準を維持しています。25年後半から26年にかけて本格的な回復期に入るとみており、それまでにしっかりと新しい技術や商品を準備し、回復以上の拡大を目指します。
また、前期はフィルム事業も転換期でした。特に三重工場(津市)で生産する太陽電池向けフィルムは、フル稼働が続いています。太陽電池や半導体工程向け、リチウムイオンバッテリー関連向けといった、より成長性の高い市場へのシフトが進みました。
――今期から新中計がスタートします。
成長分野を確実に伸ばしていきます。繊維事業では前期に転換期を迎えた独自技術の製品のさらなる拡販に取り組みます。前中計の期間よりも設備投資額を増やす想定で、海外で最新鋭の生産設備の導入も検討しています。
化成品事業の半導体関連は足元で市況調整の影響を受けていますが、今年後半からの回復を見据え、KICを核とした開発力強化により、回復局面での飛躍に備えます。
環境メカトロニクス事業では新設したライフサイエンス部を中心に、研究開発現場の自動化(ラボラトリーオートメーション)など、ソリューション提供に注力していきます。
新中計は「長期ビジョン2030」の第3コーナーを回った時期に差し掛かり、長期ビジョン達成に向けた非常に重要な3年間となります。ここでしっかりと加速し、できれば前倒しでの目標達成を目指していければと考えています。
〈昭和時代の思い出/未来がそこにある〉
「当時8歳で、兵庫県北部の漁村から行ったが、パビリオンのきらびやかさ、未来的な雰囲気は子供心に強烈な印象を残した」。西垣さんの昭和の思い出は1970年の大阪万博。月の石を見たり、太陽の塔の中に入ったりして「手塚治虫先生が描いたような未来を感じ、大人になったら素晴らしい未来が待っているという夢を見させてくれた」。今回の万博も今の子供たちにとって、「当時の私たちが感じたような夢や希望を与えるものになることを期待している」。
【略歴】
にしがき・しんじ 1986年4月クラボウ入社、2014年化成品事業部産業資材部長、18年兼熊本事業所長兼務、執行役員、22年6月常務執行役員、23年6月取締役常務執行役員、24年6月から社長