繊維用加工剤メーカーの動向/PVA、景気後退で伸び悩み/繊維加工剤はさらに減少
2002年05月31日 (金曜日)
世界のポバールの生産能力は、中国を除き年間50万トンと推定されている。そのうち半分近くのシェアを占める日本のポバール生産は減少傾向だ。
我が国におけるポバール需要量は昨年の前年比7%減と漸減状態になっており、今年も昨対比減のペースで推移している。
用途別では、繊維加工剤やフィルムが毎年確実に減少する一方、これまで着実に増大してきた製紙用が昨年減少に転じている。一昨年までポバール需要を支えてきたのが「その他」に分類されるように以前は項目として上げるほど数量は大きくなかった分野の集まりだが、この「その他」も昨年に関しては前年比13%減と大幅に減少した。
その他の項目のうち、自動車のフロントガラスに貼るブチラールフィルムなどは依然として増加傾向にあるが、昨年のIT不況によりセラミックのバインダー向けが大幅に減少したことが要因の1つとみられる。また、同じフィルムでも、従来からの主力用途であった衣料包装用フィルムはファッションのカジュアル化の中で減少傾向にあるのに加え、小売り上代価格のデフレ化に伴い安価なポリエチレンに市場を侵蝕され、毎年減少。昨年は前年比14%の大幅減少となっている。
日本酢ビ・ポバール/事業統合でシナジー効果/ポバール展開強化図る
日本酢ビ・ポバールはこの5月1日に発足したばかりだ。
同社は、ユニチカと信越化学工業が共同で行ってきた酢ビ(酢酸ビニル)・ポバール事業のそれぞれの販売部門と、同事業の生産子会社2社の信越酢酸ビニル、ユニチカケミカルの統合会社。日本酢ビ・ポバールは、信越化学とユニチカのシナジー効果を強化することを目的に事業統合により誕生したもので、今後酢ビ・ポバール業界におけるトップクラス企業として存続を目指す。
信越化学は酢酸ビニル製造子会社として信越酢酸ビニルを持ち、これにユニチカが49%を出資。また、ユニチカはポバール製造子会社としてユニチカケミカルを持ち、同じくそれに信越化学が49%を出資。両子会社は大阪・堺市に隣接しており、信越酢酸ビニルが製品の約6割をポバール原料としてユニチカケミカルへ供給していた。また、両社本体の販売部門は両子会社からの相互調達を含め、酢ビモノマーとポバール両方を販売していた。
協力関係にありながら製販4部門が独立した形で運営していたロスと無駄を排除し、事業統合による効率化で収益力を一段と強化するのが日本酢ビ・ポバール設立の狙いだ。
日本酢ビ・ポバールの取り扱い品目は酢酸ビニル、カルボン酸ビニルエステルモノマー、ポバール、酢酸。このうち、酢酸ビニルはエチレンと酢酸を原料として生産され、ポバールの原料のほか酢ビエマルジョンなどの接着剤やEVAなどの原料として使用される。
また、ポバールは代表的な親水性合成高分子。ビニロン原料として使用が始まり水溶性、被膜形成性、結晶性、接着性、高界面性、乳化性、耐油性などの特性を持つ。用途分野はビニロンのほかフィルム、ブチラール樹脂、スポンジ、繊維糊剤、紙加工剤、接着剤、酢ビエマルジョン用乳化剤、塩ビ懸濁剤など幅広い。
日本酢ビ・ポバールのポバール生産能力は年産4万トン。同社が生産するポバールの需要構成比は大まかに、輸出が30%、ビニロン向けが35%、残りの35%は国内ユーザー向け出荷となっている。さらに国内ユーザー向け供給の内訳は繊維と紙がそれぞれ25%、フィルムが10%、接着剤が15%、その他が25%。製造する品種は約50種類で、うち繊維糊剤用は15品種だ。
ユシロ化学/ユーザーへきめ細かく対応/環境にも配慮したモノ作り
織物の多様化が一段と進む中にあって、ユシロ化学工業は繊維用糊剤メーカーとして、ユーザーの要望に沿った開発とともに、サービスの強化を図っている。
繊維用糊剤の中で、いまや配合糊剤の低着糊量タイプが主体となっている。同社ではその低着糊量タイプに注力し、好評を得ているのが「ユシロクィックサイズ」シリーズである。
こうした中、同社の代表商品では、綿素材で40以上50、60、100番手など細番用に対応した「T―931」。中番手用として40番手周辺をカバーする「T―942N」と「T―942KS」、さらに太番手用では「T―973」を主力に「T―950S」を揃えるなど、ユーザーの要望に応えていくとともに、技術を含めキメ細かいサービスを推し進めるとする。
一方、合繊糸用では低着糊で高性能を発揮するのが「T―911」。更にテンセル、モダ―ルなどレーヨン系素材に対しては「T―930」などといった具合で展開している。
また、同社では、補助油剤「SG―173」を紹介しユーザーに好評だ。同油剤は予想以上の効果をもたらしていると同社では分析している。それは同油剤の特性でスベリが優れていることから、経糸のさばきが良く、サイジングの作業性で効果を上げている。また、レーヨン系素材のみならず、綿、T/Cのほか、麻の毛羽処理など使用範囲が広く好評とする。
同社ではより高度な配合糊剤の提案、技術・情報サービスなどキメ細かく対応していく方針だ。また、同社では公害等を出さない商品展開を推し出し、環境にも配慮したモノ作りを進めている。こうしたモノ作りに対する一環で同社では既に「ISO9002」の取得をはじめ、富士、兵庫の2工場には「ISO14001」を取得している。
クラレポバール/産地の差別化をサポート/技術サービス徹底強化へ
クラレポバールカンパニーは、国内織物産地がさらに差別化の方向へ向かう傾向にあることから、サイジング糊剤面での技術サービスを充実させる方針だ。
織物産地は、中国などアジア諸国の織布設備能力の拡大に伴う定番商品の受注が大幅に減少。代わって、海外ではできない製織難度の高い織物の受注ウエートが高まる一方、少量多品種・短納期や高品質が強く要求され、整経糊付け工程での品質向上が一層重要になっている。
とくに経糸サイジングは、糊濃度により製織性の低下や糸切れ回数の増加など製織効率や品質に直接影響するため。最適な糊濃度がポイントとなる。そのため、同社ポバールカンパニーでは加工メーカーと連携し、糊剤ユーザーにおけるサイジングマシンの連続運転をトレースしながら糊濃度をピンポイントでコントロールする技術サービスと併せて、ポバールや配合糊剤の販売促進を行う方針。片山哲也ポバール販売部長は「糊剤メーカーとして産地の差別化をフォローする」としている。
クラレは世界ポバール生産(中国を除く)に占めるシェアが31%の大手サプライヤー。また、同社生産量のうち約半分が繊維産業向けとなっている。
生分解性に優れる新規水溶性ポリマー「エクセバール」の展開を開始して今年で3年目だが、糊剤用セミ配合商品を含め好調な売れ行きだ。とくに平滑性に優れていることでユーザーから高い評価を受けている。片山部長は「クラレトレーディングと連動しながらユーザーに密着したきめ細かいサービスを徹底」し、織物産地の品質アップや差別化に貢献したいとしている。