春季総合特集Ⅱ(3)/Topインタビュー/帝人フロンティア 代表取締役社長執行役員 平田 恭成 氏/日本企業ならではのモノ作り/収益力のさらなる向上を

2025年04月23日 (水曜日)

 帝人フロンティアの収益力が拡大を見せている。事業利益は2025年3月期には180億円(帝人の繊維・製品セグメントの数値、以下同)に達する見通しで、前期と比べて40%近い増益となる。平田恭成社長は、「事業利益150億円が安定して出せる実力が付きつつある」との認識を示した上で「150億円で満足するのではなく、180億、200億円を目指していく」と強調し、設備投資や拠点構築などに積極的に取り組む。既存事業での成長に加え、「チャンスがあればM&A(企業の合併・買収)についても検討する」とした。

――Gゼロ時代といわれます。日本に求められるものは。

 Gゼロの時代であっても日本の企業や繊維産業に求められるモノが大きく変わることはないと思います。機能性や高品質なモノ作りは日本の企業が追求してきたことであり、今後も要求されるでしょう。環境対応も米トランプ政権で進展速度は鈍ったとしても、長いスパンで見れば必要性は変わりません。

 Gゼロ時代ではありますが、「世界の秩序が変わった」という面白い話もあります。世界最大投資家の一人、ジョージ・ソロス氏を“大儲けさせた”と言われるコンサルタントが指摘しました。日本は「失われた30年」、低成長期が続きましたが、それが終わって再び勝ち組の椅子に座るというものです。

――勝ち組になる理由は。

 世界の経済は米国がリードしています。その米国が必要としているからだと言われています。戦後の冷戦下では強い日本が求められましたが、経済成長が著しく、米国にとって目障りな存在に。変わりに中国が経済相手国に指名されましたが、今度は中国が強くなりすぎました。そこで再び強い日本が必要になるという論理です。

 あくまでもコンサルタントの一人が唱えた説の一つにすぎず、世界の経済や日本の景気が今後どのようになるかは実際のところ分かりません。ただ、30年間続いたデフレが終わり、インフレに移行しています。賃金も上昇傾向にあるなど、多くの人が変化を感じているのではないでしょうか。

――繊維産業はいかがですか。

 繊維産業も一部を除けば、全体としてはデフレ基調が続いてきましたが、これまでとは違うステージへ突入しつつあると言えるのかもしれません。例えば、素材メーカー系を含めた商社のOEMビジネスです。この10年間で生き残りを懸けた戦いが激しくなり、再編が進みました。

 コストだけを求めて海外で生産するというパターンも立ち行かなくなってきました。価格は重要な要素ですが、素材力やデザイン力の高さなどに対応できた企業が優位性を発揮しています。繰り返しになりますが、機能や感性、品質をはじめとする付加価値、環境負荷への対応がより重要度を増していると思います。

――そのような状況ですが、帝人フロンティアは収益を拡大しています。

 24年4~12月期までの業績を見ると結果的には順調だったと言え、事業利益は前年同期比51・9%増の151億円に到達しました。24年度は何もかもがうまくいっているという感がありますが、特に衣料繊維分野が順調です。国内向けの製品、北米や中国向けの生地・製品が良好な動きを見せました。

 けん引役になったのは、ポリエステル長繊維を中心とする化合繊織・編み物を製造・販売する中国子会社の南通帝人です。帝人商事〈上海〉と製品チームとの連携も寄与しました。中国市場は減速がささやかれていますが、スポーツを中心に強い顧客と取り組めたことが奏功したと考えています。

――通期の事業利益予想を180億円に上方修正しました。

 当初の165億円予想と比べて15億円増える見通しで、現時点(3月中旬)では達成できると思っています。衣料繊維分野が第4四半期(25年1~3月)以降も順調な動きを堅持し、産業資材分野は、自動車関連で苦労はしていますが、RO(逆浸透)膜用のショートカットファイバーは成長しています。

 ただし、「180億円は平時の数字ではない」と気を引き締める必要があります。基礎収益として事業利益100億円が安定して確保できるようになり、次のステージが150億円です。個人的な意見ですが、150億円も計上できる実力が付きつつあると感じています。

――25年度が中期経営計画の最終年度です。事業環境は。

 国内の動向に目を向けると、衣料繊維分野と産業資材分野ともに、昨年と比べてもそれほど悪い要素はありません。唯一の気掛かりは重衣料。気候要因などもあり数量が劇的に増える状況ではないのがその理由です。しかし、それ以外は堅調に推移すると予想しています。

 海外は不透明感が強くなっています。中国は景気減速が続いており、当社の衣料繊維分野も24年度のような勢いがなくなる可能性が考えられます。欧州はドイツに元気がありません。北米は消費が堅調で24年度並みとみています。

――どのような方針で事業を進めますか。

 利益をしっかりと出すことが第一です。150億円の利益を安定して計上できる会社への成長を図ります。ただし、目標は150億円ではなく、180億円、200億円を目指していかなければなりません。

 投資は、RO(逆浸透)膜用のショートカットファイバーや東南アジアでの生産拠点構築、環境関連などで検討します。今期の売上収益は3550億円の見通しです。来年度以降は為替動向で違ってきますが、3500億円は維持したいと思っています。ここからさらに成長するにはM&Aも必要になり、価値のあるものに資本を投下します。

〈昭和時代の思い出/1975年の初優勝〉

 広島県出身の平田さんは、1975年の広島東洋カープセ・リーグ初優勝を挙げた。当時の日本シリーズはデーゲームで行われていたが、広島中が盛り上がり「学校は“半ドン”(午後が休み)になった」。中学2年生の平田さんは、父と広島市民球場へ。「父と球場でカープの試合を見たのは、記憶に残る中ではその時が初めて」だった。日本一は逃したが、心に残る思い出だ。今も年に1、2回は同社社員と球場へ出掛ける。「カープも強くなり、観戦が楽しめるようになった」と語る。

【略歴】

 ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員