春季総合特集Ⅱ(7)/Topインタビュー/クラレトレーディング 社長 山田 武司 氏/加工で付加価値創出/顧客が求めるものを提供
2025年04月23日 (水曜日)
「不確実性が高まることを前提に、加工ビジネスで付加価値を創出することが当社の基本戦略」――クラレトレーディングの山田武司社長は強調する。米国のトランプ大統領による関税引き上げ問題で先行きが不透明となる中でも「顧客が求めるものを提供することで、まだまだチャンスがある」として、縫製品ビジネスを中心に業容の拡大を目指す考えだ。
――トランプ大統領の相互関税政策で、文字通り“Gゼロ”の世界となりそうな気配です。
現在、5カ年の中期経営計画の4年目に入りましたが、中計策定時から社会・経済環境の大きな変動があり得るということを社内では指摘してきました。今回、それが現実となったという感じがします。
その中で当社は、単純にクラレの素材を販売するだけではなく、いかに付加価値を創出するかを追求してきました。特に繊維事業は、縫製などの加工ビジネスを拡大することで付加価値を高めることを実現してきました。
日本国内は人口減少もあって市場縮小が進みますから、どうしても海外市場での販売を拡大させる必要性があるということです。当社も既に海外売上高比率は50%を超えています。特にアジア市場の重要性が高まっているのですが、今回の相互関税問題でどのような影響が出るのか心配なところです。
――2024年度(12月期)を振り返ると。
繊維事業は、この3年間で得意分野に集中するすることに取り組んできました。その結果、ワークウエアや中東民族衣装用織物など採算性や資本効率の面で厳しかった分野を縮小し、スポーツ・アウトドア、学販体育衣料、サービスユニフォームなどに重点を置く体制となり、しっかりと利益を確保できる事業体質になりました。
原料から縫製品までサプライチェーン全体でビジネスを展開していることが強みになっています。化学品・化成品事業も中国市場を中心に好調でした。
――25年度も第1四半期(1~3月)が終わりました。
今期は中計の4年目です。これまで目標を順調にクリアしてきたのですが、米国の相互関税問題でどうなるか先行きに不安があります。繊維事業に関しては最終仕向け先のほとんどが日本のため影響も限定的でしょうが、化学品・化成品事業は中国から米国への販売が少しあります。また、販売先が当社の素材を使った製品を米国に輸出しているケースも多く、間接的な影響はあるでしょう。
このため引き続き繊維事業が重要になります。そもそも化学品・化成品事業はクラレグループの販社としての役割が大きいですから、取扱高が大きくても、利益を大きく伸ばすことには限界があります。一方、繊維事業は加工を通じて付加価値を高めることで自前の利益を拡大することができるからです。
ですから、繊維事業は引き続きスポーツ・アウトドア分野を中心に縫製品ビジネスを拡大します。そのためにベトナムの拠点での縫製・加工能力も高めます。これまでもプリント設備やミシンの増強を継続的に実施してきました。
学販体育衣料もこれまでは生地販売が中心でしたが、縫製品にまで広げることでまだまだ拡大のチャンスがあります。国内の縫製スペースが縮小を続ける中、アパレルからのニーズも高まっています。
クラレグループが持つビニロン繊維や液晶ポリマー繊維「ベクトラン」などをスポーツ・アウトドア分野などに提案することも重要です。顧客が求めるものを提供するのが当社の役割。顧客のニーズを実現する素材がクラレグループにはあります。シンジオタクチックポリスチレン(SPS)繊維「エプシロン」といった革新的な素材も商品化しました。こうしたユニークな素材をどれだけ顧客に提案できるかがポイントになります。そのためには人材が重要。現在、20代や女性の従業員も増えています。こうした人材の育成に力を入れます。
現在のように先行き不透明なときこそ、基本に忠実であるべき。下手に取り繕うことなく自然体の経営が大切になります。
〈昭和時代の思い出/自由に挑戦できた時代〉
1984年(昭和59年)入社の山田さん。「当時は新合繊ブームもあり、合繊業界に勢いがあった時代」と振り返る。元々、繊維業界は担当者に与えられる裁量が大きい。「自由に挑戦することができた。私たちは、そうした経験ができた最後の世代かもしれない」。現在の若手に対しても、ぜひ自由に挑戦してもらいたいというのが山田さんの思いだ。ただ「コンプライアンス順守は忘れないように」と一言付け加えることも忘れない。
【略歴】
やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から社長