春季総合特集Ⅱ(8)/Topインタビュー/豊島 社長 豊島 半七 氏/リスクヘッジし多彩に挑戦/異業種連携で新価値の創造も

2025年04月23日 (水曜日)

 豊島は異業種との連携に力を入れている。これまで培ったノウハウや商材、ライフスタイル提案商社としての機能を生かすことで、連携先企業の困り事に対応し新たなビジネスチャンスを見いだす。豊島半七社長は「きっかけや縁を重視する」と述べ、幅広い業種との出会いを模索。ベンチャーやスタートアップなどの協業も深めており、互いの知見を出し合うことでシナジーを発揮させ、新たな価値創造へもつなげる。デジタル技術で社会を変革するDXやAI(人工知能)の活用にも取り組み、ソサエティー5・0の実現に向けて歩みを進める。

――Gゼロ時代到来で先行きの不透明感が増す中、国内もしくは海外で改めて強化していく取り組みを教えてください。

 リスクヘッジしながら、いろいろなことにチャレンジしていくことが重要でしょう。その一つが輸出。米国トランプ政権による相互関税の発動といった不安材料もありますが、それよりも国内の人口減少による市場規模の縮小を考えると、外に目を向けていくしかありません。圧倒的に多い輸入との均衡を図っていくことが急務です。

 トランプ政権の相互関税については、直接当社への大きな影響はなさそうですが、消費が冷え込んでしまうことが心配です。新型コロナウイルス禍が落ち着き、賃金の上昇をはじめとした明るい材料が見えてきたところでしたから。関税の影響で消費マインドが落ち込むのは残念です。

――今期(2025年6月期)の素材、製品部門の状況を教えてください。

 素材は減収減益を見込んでいます。織物は比較的健闘しましたが、糸の販売が振るいませんでした。国内産地企業の商況が厳しいため、その影響を受けました。

 製品は名古屋が前期並みで推移、東京が減収増益となりそうです。今後は期末までに期中のオーダーがどれだけ取れるのか、在庫の出荷がスムーズに進むのかによります。健闘したと言えますが、納期遅延でエアーでの輸送が増えたケースもありました。計画生産をはじめ、段取りをきちんと整えていれば防げたミスだったと思います。

 全体では減収で経常利益は前期並み、もしくは少し上回るところまで来ています。営業部署の頑張りがあったと言えるでしょう。

――では、輸出の状況はいかがでしょうか。

 少しずつですが伸びてきています。海外の展示会へ積極的に出展しており、顧客からの反応にも手応えを感じています。高強力繊維「ダイニーマ」や、食品残さを染料に活用する「フードテキスタイル」などの差別化商材を提案しています。現状ではラグジュアリーやスポーツ関係で採用が決まっています。三国間貿易などもありますが、純粋な日本からの輸出という意味では欧州向けが増えています。冒頭述べたように関税の心配はありますが、今後も力を入れていきます。

――トヨタ自動車やTOPPANなど異業種との連携を進めていますが、その狙いやメリットを。

 当社のサステイナブル商材はもちろん、商社ならではの機能や知見を生かすことで、相手企業が慣れていない分野や領域について、「当社はこんなお手伝いができます」ということをアピールしています。また、お互いが未知の分野でも知恵を出し合うことで、新たな価値を創造できます。今後も異業種との接点を増やしていきます。

 最近では従来の金属製チェーンの代替として、ダイニーマが異業種向けで広がりそうです。鋼鉄より強度がありながらも水に浮くほどの軽量感を備えており、現場作業などでの安心安全に寄与します。これまでも、アシストスーツやペルチェ素子式ベスト、熱中症リスクを知らせるウエアラブルデバイスなど、作業者の保護という観点での商品を提案していました。そうした土壌があったからこそ、ダイニーマも受け入れられやすかったのだと思います。

――昨年開業した名古屋のオープンイノベーション拠点「ステーションAi」へパートナー企業として参画しています。

 スタートアップとの新たな出会いを求めて参加を決めました。興味深いスタートアップとは定期的に連絡を取るようにするなど関係性を深めています。そこで得られた情報やデータは会社で集約し、全社員に対して開示しています。人によって価値観は異なりますから、多様な意見を吸い上げるためです。

――AIなどの活用事例は。

 柄の作成や自動採寸などでサービスとして打ち出しているほか、社内業務でもDXを進めるための一つのツールとして活用しています。AIによるペーパーレス化や柄出しなどで時間短縮や業務効率の向上を図ることができています。

 道半ばですが、サイバー空間と現実空間を融合させたシステムで経済発展と社会課題の解決を両立するソサエティー5・0の実現に向かえればと考えています。DXはもちろん、サステやカーボンニュートラルなどもソサエティー5・0に組み込まれていることだと考えていますので、理想とする会社像や社会の姿を目指しながら、当社としてやれることにしっかり取り組みます。

――素材部門の今後の戦略を。

 これまでは天然繊維を軸としていましたが、機能性を生かした合繊素材の提案のほか、産業資材向けの開拓や輸出、新たな素材開発などを含めて今後もさまざまなことにチャレンジしていくことが重要です。いつまでもしがみ付くのではなく、諦めることが必要になるケースも出てくるかもしれません。いずれにせよ、産地を含めて国内市場が疲弊していくことは間違いありませんので、多彩なことに挑戦していかなければなりません。

〈昭和時代の思い出/銀行員時代の思い出〉

 「年齢を重ねるほど昔のことが思い出される」と話す豊島さん。特に鮮明に浮かぶのが銀行勤めをしていた時だ。大学卒業後の1977年に東海銀行(現・三菱UFJ銀行)へ入行。当時は就職難だったため、「上司から『給料分働いていない』と叱られた」と語る。しかも、違うものは違うと指摘する性格だったこともあり上司とはよく衝突。反面教師のような上司がいた一方で、「今でも忘れない」と尊敬できる上司も。「楽しかったことも含めて全てが良い思い出」。在りし日を振り返る。

【略歴】

 とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職