春季総合特集Ⅲ(17)/Topインタビュー/KBツヅキ 社長 武内 貞継 氏/奇をてらわず原点回帰/時代に合わせた新商品を開発

2025年04月24日 (木曜日)

 KBツヅキは綿糸やタオルなどで新商品を投入し攻勢をかける。業績は不振が続くほか、先行きの不透明さも色濃いが、こうした状況だからこそ綿糸、タオル共に原点に立ち戻った商品が必要と判断。これまで培ったノウハウを生かして開発を進めた。国内だけでなく輸出も視野に入れながら、時代に合わせた商品として訴求する。

――Gゼロ時代の到来で先行きがより不透明になる中、改めて強化していく取り組みを教えてください。

 国内の綿糸の業界は厳しい状況が続いています。輸入糸との競争に加えて、合繊の攻勢によって苦戦を強いられました。その中で、大手紡績は事業の多角化を進めてきましたが、それには一定の技術や資金、マンパワーが必要で、中小企業にとっては難しい。

 では、どうするか。やはり、オーソドックスなことしかないと考えています。具体的には、時代に合った新商品を開発し供給していくことでしょう。技術開発が鍵になると思われますので技術力(製品・開発・生産管理)の強化を通じ、常に市場性のある新製品を提供し、今後さらなるブラッシュアップを図っていきます。

 不透明な時代だからこそ、奇をてらったことをしても成功はしません。地味ですが、これまでやってきことを愚直に追求し、そこに少しの新しさを加えていく。当社にとってはそれが新商品の開発であり、そこにビジネスチャンスを見いだしていきます。

――では、その新商品について教えてください。

 当社の出雲工場での生産を意識し、古来の日本を思わせるネーミングにしました。綿糸は「たをやか」、タオルは「さやくも」(彩雲)と名付けました。綿糸の特徴は毛羽落ちがしにくく、米国のサンホーキン綿並みのソフトな肌触りを備えます。高品質ながら価格競争力もあります。機能については、抗菌や消臭、疎水、紫外線防止など顧客の要望に応じて後加工できます。従来の綿糸も良い商品ですが、どうしても時代からのズレが生じます。絶えず時代に合った商品が必要と考え開発を進めてきました。

 タオルについても、ソフトで肌に優しく、高い吸水性というタオル本来の原点を徹底的に追求し商品に仕上げました。膨らみ感を変えた2種類を用意しており、乳幼児から高齢者まで年齢を問わず幅広い消費者に向けて販売を進めます。ネット販売も考えています。

――手芸糸の販売も始めましたが、その狙いは。

 当社はタオル向けの比率が圧倒的に高いため、新たな事業分野を模索する必要がありました。そこで手芸という趣味の世界に狙いを定め販売したのが、綿の手芸糸「イズモコットンボール」です。幾つかの種類をそろえていますが、基本的には綿100%でソフトな質感や吸湿性、抗菌機能を備えています。改めてストーリー性を含めて、糸をブランディングして消費者に訴求しています。公式のオンラインストアも立ち上げました。

 趣味の世界は消費者自身が気に入ったものしか使いませんから事業としての参入は難しいですが、一度気に入ってもらえれば、末永く使ってもらえる可能性があります。しかも今は若い人を中心に手芸ブームが起きていますので、その波に乗っていきたいです。

――前期(2024年12月期)を振り返るといかがですか。

 糸売り、タオル売り共に厳しい状況が続きました。新規の開発が遅れていることもあって、一層厳しい年だったという以外に言葉が見つかりません。そもそも綿紡績という業態は開発途上国で盛んになるもので、日本のような成熟し切った国で継続していくことは本来難しいことです。不況という問題以前に時代の流れで、こうした状況になっているのだと感じます。

――今期足元の状況はいかがでしょうか。

 前期の流れを継続しており苦戦を強いられています。ただ、新綿糸とタオルの販売もようやく可能となり、まだ光はあると考えています。新商品が市場からどのように受け入れられるかにもよりますが、後半で黒字へ浮上していければと考えています。

〈昭和時代の思い出/貧しさから繁栄までを知る〉

 「振り返ると良い時代に生まれたなと思う」と話す武内さん。終戦直前の1943年に生まれ、日本の発展とともに人生を歩んできた。戦後の貧しい時を経て、高度成長を成し遂げ、国としても繁栄していった昭和の時代。「当時の日本は今では驚くぐらいどんどん成長していた」と語る。さまざまな出来事が起こる怒涛(どとう)の日々だったが、それだけに「実はあまり記憶に残っていることはなく、ただただ夢中だった」と笑う。

【略歴】

 たけうち・さだつぐ 2004年都築紡績事業管財人。05年から同社(現・KBツヅキ)社長