春季総合特集Ⅳ(1)/揺れる米中関係へのメソッド/トランプ関税に翻弄/ASEANへのシフト目算狂う

2025年04月25日 (金曜日)

 トランプ米政権による相互関税で、世界経済が大きく揺らいでいる。米中の関税競争は泥沼の様相を見せ、中国からASEANへのシフトも再考を迫られる可能性がある。貿易赤字が大きい国などへ高い追加関税を課す相互関税は、56カ国・地域に対して一時停止されたが、中国は継続。関税問題は続いており、先行きは見通しづらい。

〈シーインも事業見直しか/米中関税競争の余波世界に〉

 トランプ政権による相互関税は、各国に一律10%の関税を課した上で、国・地域ごとに異なる税率を上乗せする2段階方式。一律10%の関税は5日に発動されたが、上乗せ税率は9日の発動後13時間余り経過した後、一部停止すると表明した。

 しかし、米中の関税競争はエスカレート。トランプ政権は中国への関税を段階的に145%までアップ。中国も米国への関税率を125%に引き上げた。

 米国の2024年の繊維製品輸入は、前年比2・7%増の1077億ドル。繊維製品の貿易バランスは848億ドルの赤字で、前年の813億ドルの赤字から拡大した。輸入国のトップは中国で3・5%増の261億ドル。シェアは24・2%と前年より0・2ポイント上昇した(日本化学繊維協会による米国商務省発表まとめ)。今回の米中貿易摩擦の再燃は、両国の繊維関連ビジネスへの悪影響が懸念される。

 さらにトランプ大統領は、中国の少額貨物に対する関税率を引き上げる大統領令を発表。ジェトロによると、輸入申告額が800ドル以下の少額貨物の輸入に対して、関税支払いなどが免除される非課税基準額(デミニミス)ルールの適用を停止し、国際郵便ネットワークを通じて中国、香港から出荷された貨物に関税を課す。5月2日から従価税は90%に、従量税は75ドルに、6月1日以降は150ドルに引き上げられる。

 今回の規制強化は、越境電子商取引(EC)業者や小口貨物を利用する企業に大きな影響を与える。中国発のECプラットフォーム「Temu」(テム)や「SHEIN」(シーイン)も、同ルールを利用して米国市場での販売を拡大してきたが、事業モデルの見直しを迫られる可能性がある。

 中国から米国への輸出が停滞すれば、滞留した過剰在庫が、米国以外の国へ安価に流れるとともに、中国内販の増加も考えられる。

 生地商社兼北陸産元の一村産業(大阪市北区)の中国現地法人は、米中対立を背景に輸出向け生地工場が内販向けにシフトするケースが増え、内販の価格競争の激化を懸念。そのため、原糸・原綿から差別化する素材開発を強め、市場ニーズに合致したストーリー性のある商材を継続的に提案していくとする。

〈ASEANにも高関税/シフト戦略再考契機にも〉

 ASEANにも高関税が課せられた(一時停止中)。ベトナム46%、タイ36%、カンボジア49%、ラオス48%、ミャンマー44%。高関税の狙いは中国系製品の米国流入を阻止するための迂回(うかい)路封鎖にあるとされる。

 中国からASEANへの繊維企業の生産シフトは、新型コロナウイルス禍を受けたサプライチェーンの混乱と、米中対立の激化で加速した。

 直近もその流れが続いていた。中国・蘇州市呉江の工場で日本製織機256台を導入し、合繊織物の生機を生産する蘇州新金晟紡織は、地政学リスクの高まりも懸念し、試験的にタイのパートナー工場に中国から30台の織機を送り、24年12月に生産を始めた。同工場の生産が増えていくようであれば、出資を検討する。中国で差別化品、タイなどのASEANで定番品を生産する体制にしていく構想だった。

 ベトナムへの恩恵も大きく、米国の繊維製品輸入国で、ベトナムは中国に次いで2位。24年は前年比6・6%増の163億ドルでシェアは15・2%に上る。

 ただ今回の高関税措置で、ASEANの地位が揺らぎかねない。追加関税の90日停止中は、ASEANから米国の輸出が増えると見込まれるが、その後を見通すことは難しく、戦略を見直す必要性も高まっている。

〈日系企業にも影響/米国以外の販路模索〉

 米国市場へ販売する日系企業にとっても影響は大きい。スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)は25年1月期に米国市場向け生地販売を大きく伸ばしたが、今期は「苦戦を強いられる可能性が高い」(瀧隆太社長)とする。

 壁紙製造のエリモ工業(京都府木津川市)は、年間約100万メートルの壁紙を生産し、約7割を輸出する。輸出先は米国が中心で天然素材使いの織物や和紙壁紙が評価され、米国の高級レジデンシャル用途などで採用が広がる。「現(16日)時点では影響は出ていない」とする一方、一極集中の販売戦略を見直す必要性を指摘。9月にシンガポールで開かれる建材・インテリア関連展示会を訪れ、米国以外の販路拡大を模索するとしている。

 日系自動車メーカーにシート表皮材やフロアカーペットなど内装材を供給する繊維関連メーカーにとっても、相互関税の影響が今後出てくる懸念がある。

 ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、トランプ米政権の関税政策について「国際情勢を見て無理がある。おそらく続かない」との見解を示す。時間とともに正常に戻るのか。相互関税による混乱が続くのか。先行きが見通しづらい状況が続く。