春季総合特集Ⅳ(9)/Topインタビュー/空調服 社長 市ヶ谷 透 氏/海外販路開拓に本腰/戦略商品投入で売上高65億円へ

2025年04月25日 (金曜日)

 電動ファン(EF)付きウエア「空調服」を開発した空調服(東京都板橋区)は、企業納入が9割近くに達するなど品質に対する信頼度は業界トップクラスだ。業績も2024年12月期の売上高が新型コロナウイルス禍前以来の50億円の大台に乗るなど好調に推移する。今期は戦略商品の投入などによる裾野拡大で65億円を目指す。

――Gゼロ時代に突入し、より先行きが不透明になる中、国内そして海外で改めて強化していく取り組みは。

 一つは生産体制の強化です。今期は生産量をかなり増やしていることや、前期にウエアの納期遅れが一部で発生したことがあり、その対応策として日本企業とパートナーシップを組んで、東南アジアの縫製工場を新規に2カ所開拓しました。中国においては、おそらく来期になるとは思いますが、小ロットに対応できる工場を計画しています。

 もう一つは海外販路の拡大を目指していきます。現在は、米国やインドネシアで小規模に販売している程度なのですが、本格展開に向けた足掛かりを作っていきます。まずは7月に大阪で開催される見本市「はたらく現場の環境展」と、11月にドイツで開催の「A+A2025 国際労働安全機材・技術展」に出展することを決めています。また、欧州のCEマーキングをはじめとする各国の認証取得に向けた準備も進めていきます。

 国内ではウエアの小ロット対応を強化します。企業別注でコンペが増えているので、その際に協業できるようなデザイナーとの接触を図っています。

――今期の見通しは。

 売上高では過去最高となる65億円を目指しています。昨年の猛暑によって流通在庫、店舗在庫共に薄い状態だったので、今夏向けはウエア、デバイスの定番品生産を前期比倍の規模で計画しています。今年も猛暑が続くとの予報が出ているため、順調に進めば大幅な販売増が見込めます。既に物流業界からの大口の引き合いもあり見通しは明るいです。

 さらに戦略商品として投入する防爆型空調服と、最大電圧25ボルトの新型デバイスの投入によって市場の裾野も広がるとみています。特に防爆型空調服は2月の展示会で初披露した際に好評を得ており、これまで空調服と接点がなかった職種からの問い合わせが多く入っています。今期はテスト販売の位置付けで6月をめどに5千~1万セットを販売予定です。

 また、今期だけでなく来期以降も継続して伸長していくための取り組みも同時に進めています。展示会にコンセプト製品として出展した「空調服サイフォンクールベスト」もその一つで、空調服のインナーとして着用することで冷却効果をより高めることができます。

 胸元に配置するボトル内の水がサイフォンの原理で背面の保冷剤を使った冷却ユニットと吸水拡散素材に行き渡って気化熱冷却を促進する仕組みで、汗をかきにくい人にも向きます。本格展開は来期ですが、今期は千点ほどをテスト販売したいと考えています。

――戦略商品の防爆型空調服と新型デバイスはどのような製品ですか。

 本質安全防爆構造の防爆型空調服は、第2類危険箇所で使用可能な製品です。ファンとバッテリーが対の仕様になっていて、最大電圧7ボルトで稼働した場合、最大風量毎秒45㍑で約8時間稼働します。

 最大電圧25ボルトの新型デバイスは、長時間の強風が欲しいというニーズに応えました。25ボルト設定時に最大風量毎秒103㍑を2時間送り続けることができます。逆に12ボルトに設定すると同48㍑で16時間稼働するため、都度充電する手間が省けます。

――今期は初となる10カ年の長期経営計画を策定されました。

 人材育成と魅力的な製品開発、そして海外販路という三つのステージを主軸に10年後のあるべき姿を示しました。成長には次世代リーダーの育成と顧客満足度の向上に継続して取り組むことが大切です。今期は早速、融合をテーマにして部署の垣根を越えた新しいモノ作りをプロジェクト形式でスタートしています。

【略歴】

 いちがや・とおる 2004年2月空調服入社、06年4月営業部長、08年11月取締役、14年2月常務取締役、16年2月代表取締役社長

〈昭和時代の思い出/パソコン〉

 まだパソコンが一般家庭に普及していなかった昭和末期。市ヶ谷さんの父(市ヶ谷弘司会長)は、自宅に専用のパソコンとプリンターを持っていたそう。ある時、パソコンで何をしているのか聞いてみると、株価を予想する投資システムを作っていた。バブル真っ最中の当時、「もしヒット商品にでもなっていたら、現在とはまったく異なる世界が広がっていたかもしれない」。ただ、この投資システムがその後どのように活用されたのかはいまだに分からないと言う。