創刊75周年記念特集(5)/歴史を紡ぐ~ロングセラー商品~/クラレ「ビニロン」/東レ「シルック」/旭化成「ベンベルグ」

2025年04月28日 (月曜日)

〈東レ「シルック」/60年で「地球100周分」/最新「シルック美來」登場〉  

 東レが販売する「シルック」は、1964年に誕生した高級シルク調ポリエステル素材だ。シリーズも順次市場投入され、長きにわたって高い評価を得てきた。2024年には発売60周年を記念した「シルック美來」が登場した。シリーズの新たな歴史が始まっている。

 合成繊維の黎明期だった60年代。同社は「絹」の特徴を捉えて生かすことを開発の原点とし、絹の光沢感やドレープ性、膨らみ感に加え、絹鳴りと呼ばれる独特の音色まで追求した。その中から生まれたのがシルックで、日本の絹織物と合繊技術を融合させた生地として、和装用で展開が始まった。

 絹の風合いや外観を追求した60~70年代は「シルックⅡ」や「シルックⅢ」「シルックⅣ」が市場投入され、80~90年代には合繊の新質感を付与した「シルックシルデュー」「シルックティファラ」などが登場。洋装向けの展開も増え、販売は最盛期を迎える。

 90年代後半から2010年代には特殊ポリマーや加工技術との融合の時代に入り、「フェミノス」「シルックデュエット」「シルック奏美」「シルックジュピテール」などが販売された。初代のシルックのほか、シルックⅢ、シルックシルデューなどは現在も展開されている。

 婦人・紳士衣料事業部によると「シルックシリーズは累計で40万㌧の糸を生産。使い方によって変わるものの、生地に換算すると約400万㌔㍍、地球100周分になる」と言う。東レが販売する衣料素材の中で「消費者に最も知られているブランドの一つ」と話す。

 そのシルックシリーズの最新製品であるシルック美來は、60周年を記念して開発した。シリーズとしては「13年のシルックジュピテール以来の新素材」(婦人・紳士衣料事業部)となった。これまでの技術に、複合紡糸技術「ナノデザイン」と植物由来PET原料を組み合わせた。

 ナノデザインは、繊維の成分や形をナノレベルでコントロールすることが可能で、この技術によってより複雑な異形断面糸を創出した。シルクタッチや着崩れ防止、自然な光沢、耐洗濯性、糸加工技術との融合によるバリエーションといった特徴を付与している。

 ナノデザインでは、初めて植物由来PETを約30%使用し、環境負荷低減やビーガン(非動物性)に対応する。現状はエチレングリコールを石油由来から植物原料由来に置き換えているが、将来はテレフタル酸も置き換え、植物由来原料100%を目指す。

 25春夏物から販売を開始し、大手百貨店アパレルの婦人服などで採用され、和装にも広がる。今後は海外のラグジュアリーゾーンにも提案する。婦人・紳士衣料事業部は「ナノデザインには無限の可能性がある。シルックシリーズもまだまだ進化する」と強調した。

〈クラレ「ビニロン」/産業用途で再び脚光/戦後繊維産業復興の象徴〉

 クラレが手掛ける合成繊維「ビニロン」が、誕生から70年以上を経た今も進化を遂げている。戦後の国産技術による開発に始まり、時代のニーズに応じて用途を変えてきた。

 ビニロンの源流は1939年、京都大学の桜田一郎教授らによる「合成一号」にさかのぼる。クラレは50年、この技術をもとに世界で初めてビニロンの工業化に成功、日本の繊維産業復興を象徴する存在となった。当時の資本金の6倍、14億円(現在換算で約500億円)を投じた国家的プロジェクトでもあった。

 ビニロンは高強度・耐候性・耐薬品性・親水性といった特性を備え、学生服や漁網、ロープなど日用品分野で広く普及。1960年代には「ビニロン学生服」「クレモナ万漁」が大ヒットし、クラレの収益を大きく支えた。

 一方で、ポリエステルやナイロンの普及とともに衣料分野での存在感は後退。だが、その後は耐アルカリ性や安全性を生かし、セメント補強材や無水銀アルカリ乾電池用セパレーターなど、産業用途で再び脚光を浴びている。

 特に欧州では、アスベストの代替素材としての需要が高まり、環境対応素材としての役割も担う。持続可能性と高機能性を兼ね備えたビニロンは、着実に世界の市場へ広がりつつある。

〈旭化成「ベンベルグ」/圧倒的なブランド力/アウターでも存在感増す〉  

 旭化成のキュプラ繊維「ベンベルグ」は、1931年の製造開始以来、今日まで圧倒的なブランド力を築いてきた。

 キュプラ繊維(銅アンモニアレーヨン)は、1897年にドイツで製造原理が発明された。1928年に旭化成の創業者、野口遵が日本に技術・設備を導入し、31年に製造を開始した。現在、世界でキュプラ繊維を工業生産しているメーカーは旭化成が唯一となる。

 滑らかな肌触りと光沢、優れた吸放湿性を生かし、服地のほか裏地、インナー、インドの民族衣装分野で圧倒的なブランド力を持ち、再生セルロース繊維のため生分解性があることへの注目も高い。欧州、インド・パキスタン、中国、韓国を中心に現在の輸出比率は80%を超える。

 近年、特に力を入れているのがアウター分野での拡販。欧州や中国に加えて、民族衣装用途が中心だったインドでも現地アパレルと連携し、洋装アウター用途のプロモーション活動を積極的に展開中だ。

 また、特殊加工や加工時の環境負荷低減のための研究開発にも力を入れ、それを需要家に提供する技術サポートも強化した。9月には「インターテキスタイル上海」にも単独出展する。日本を代表する“オンリーワン素材”として、引き続き確固たる地位を維持していくことを目指す。