特集 コットンの日(3)

2025年05月09日 (金曜日)

〈無視できない綿花の環境負荷〉

 綿花は環境問題と切り離せず、栽培で非常に多くの水を必要とする作物として知られている。例えば、世界自然保護基金(WWF)によると、Tシャツ1枚を作るのに約2700㍑の水が使われるとされており、特に乾燥地域での栽培では地下水の枯渇を招くこともある。旧ソ連地域におけるアラル海の縮小は、綿花栽培による過度なかんがいが原因の一つともされる。

 また、世界の耕作地のうち綿花が占める面積は約2・5%とされているが、全農薬使用量の約10%を占めるとの試算もある。農薬による土壌・水質汚染に加え、防護措置が不十分な発展途上国では、栽培者の健康被害も深刻な問題となりつつある。

 国連食糧農業機関(FAO)によれば、綿花の単一栽培(モノカルチャー)は、土壌の栄養バランスを崩し、地力低下を招くと指摘する。結果として化学肥料への依存が進み、さらに環境負荷を高める悪循環に陥ることも少なくない。

 こうした課題に対応するため、各種の認証制度が整備されつつあり、消費者や企業の“選択”が問われる時代に入っている。

〈多様化する認証制度〉

 サステイナブルな綿花を巡っては、幾つかの認証が国際的に普及しつつある。最も厳格とされるのがGOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)で、農薬・化学肥料を排除した有機栽培に加え、加工や流通段階の環境・労働条件も審査対象とする。

 信友は最近、GOTSに加え、OCS(オーガニック・コンテンツ・スタンダード)、リサイクル関連のGRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)など五つの国際認証を取得。既存取引先からの要請が増えていたことを背景に、国内外への販路拡大を狙う。

 開発途上国の綿花生産者に対して適正な価格を保証し、労働環境の改善や環境保全を促進する国際的な認証制度「フェアトレード・コットン」も、少しずつ広がりを見せ、企業や消費者の間で注目されている。

 シキボウは豊田通商や信友とともに、フェアトレード認証コットンを糸に8%以上使用する「コットン∞」(コットンエイト)の普及を進めている。導入のハードルを下げ、国内外での持続可能な繊維調達を促進する狙いだ。

 現実的な生産改善を志向するのがベター・コットン(旧BCI)。農薬や水の使用を最適化し、労働環境の改善にも取り組む。世界の綿花の約20%以上がベターコットンに関わっているといわれる。

〈USCTP着実に成果〉

 米綿のサステイナビリティー・トレーサビリティー検証・認証システム「USコットン・トラスト・プロトコル」(USCTP)は、20年の設立以来、環境への配慮とサプライチェーンの信頼性向上を目指し、着実に成果を上げつつある。

 USCTPは、米国の綿花産業における持続可能性と透明性を推進する自主的なプログラム。2023/24年度の年次報告書によると、USCTPへの参加農地面積は前年から31%増加し、210万エーカーに達した。これは全米綿花農地の約25%を占め、プログラムへの関心と信頼が高まっていることを示している。

 今年からは、ブランドや小売業者向けの会員制度が、従来の収益ベースから綿花消費量ベースに変更。これにより、企業規模に関わらず、公平な参加が可能となり、持続可能な調達の促進が期待される。

 また、高級超長綿ブランド「スーピマ」と、トレーサビリティー強化に向けた統合プログラムを開始。米農務省の恒久ベール識別制度(PBI)と「テキスタイルジェネシス」を活用し、サプライチェーン全体の可視化も推進する。

〈GALY/植物細胞培養綿の開発進む〉

 米気候テック企業のGALY(ギャリー)は、細胞農業技術を活用したラボ育ちの綿花「GALYコットン」の商業化を進めている。昨年10月に3300万㌦の資金を調達したと発表。調達先には、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が支援するブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズが主導し、H&MグループやZARAの親会社インディテックスなどが参加した。

 GALYコットンは、植物細胞を培養して綿花を生産する技術で、従来の綿花栽培と比較して水使用量を99%、土地使用量を97%、CO2排出量を77%削減できるとされる。同社は、品質の向上とプレ工業スケールでの生産体制の構築を目指す。

 GALYのCEOのルシアーノ・ブエノ氏は、「気候変動が農業サプライチェーンを脅かす中、ラボでの安定生産が鍵になる」と語り、今後は綿花に限らず、他の植物細胞製品にも技術を応用する計画。気候変動や環境負荷の軽減に向けた新たなアプローチとして注目されている。

〈豊島「オーガビッツ」20周年〉

 豊島は、展開するオーガニックコットン普及プロジェクト「オーガビッツ」が今年8月29日に20周年を迎える。昨年からさまざまな記念イベントを実施している。

 同プロジェクトは、オーガニックコットンを10%以上使用した商品を広く普及させることで、環境や生産者への貢献を目指している。これまでに約150のファッションブランドが参加、累計約1100万点以上のアイテムが生産された(2023年6月末時点)。

 コラボレーションや新しい協業の提案、イベントの開催などを実施。20周年を記念したオリジナルアイテムの販売も進める。