炭素繊維協会 EUの規制案に異議
2025年05月13日 (火曜日)
日本化学繊維協会の炭素繊維協会委員会(炭素繊維協会)は9日、欧州連合(EU)が検討している自動車への炭素繊維使用規制に対し異議を表明するポジションペーパー(立場表明書)を発表した。
炭素繊維は環境負荷低減のために不可欠な素材であることを強調すると同時に、規制理由の一つとされる有毒性に対して疑問を呈した。
欧州議会は現在、廃自動車(ELV)の環境負荷低減のための規制を定めたELV指令を規則に格上げするための修正案を検討している。この中で自動車の部品・材料への使用を制限する有害物質に炭素繊維が追加された。
これに対して炭素繊維協会は、これまで使用が規制されていた鉛、水銀、カドニウム、六価クロムなど明確に有毒性が確認されている物質と炭素繊維は同等ではないとして修正案77第5条3項、同78第5条4項(a)、同79第5条4項(c)から炭素繊維を削除することが適切と主張する。
その上で「炭素繊維は水素社会に不可欠」「炭素繊維は高性能自動車には不可欠」「炭素繊維は欧州の主要産業にも不可欠」「炭素繊維はリサイクル可能な材料」「炭素繊維は健康影響を与えるという十分な証拠はない」という5点の意見を表明した。
炭素繊維は、燃料電池自動車の圧力容器、高性能スポーツカー、航空機の構造体、ロケットのモーターケース、風力発電用ブレードなどに不可欠だと指摘。使用制限はカーボンニュートラルを担う水素社会の到来を遅延させ、欧州の自動車産業を停滞させ、主要産業の革新的な技術開発を抑制すると指摘する。
また、廃棄炭素繊維は既に電炉鉄鋼の加炭材としてケミカルリサイクルされており、リサイクル炭素繊維はBMWがパーツ材料に採用していることなどを挙げ、炭素繊維がリサイクル可能な素材であることを強調した。
規制案の要因と考えられている健康影響に関して、炭素繊維は人体が吸引した場合の健康影響が懸念されるWHOファイバーの規定(直径3㍃㍍未満)に抵触しないように直径約5㍃㍍以上となるように意図的に製造していることや、自動車で多く使用されるPAN系炭素繊維は裂けて細くなりにくいとする。また、炭素繊維そのものは生物親和性があり、毒性を示す直近の学術論文も見当たらないとして、健康影響に対して疑問を呈している。
炭素繊維メーカーも賛同
炭素繊維協会によるELV指令修正案に対する立場表明書に対して東レ、三菱ケミカル、帝人、大阪ガスケミカルなど日本の炭素繊維メーカーも賛同を表明した。