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ポリウレタン弾性糸/機能糸と環境対応に活路/トランプ関税問題も変数に

2025年05月13日 (火曜日)

 ポリウレタン(PU)弾性糸の国際競争が一段と激しくなる中、旭化成と東レ・ライクラの日系メーカー2社は2025年度(26年3月期)も引き続き機能糸の拡販と環境負荷低減の取り組みに活路を見いだすことになりそうだ。ここに来て“トランプ関税”問題も新たな変数として浮上している。(宇治光洋)

 PU弾性糸は長らくザ・ライクラ・カンパニー(旧デュポン、旧インビスタ)の「ライクラ」、旭化成の「ロイカ」、韓国・暁星の「クレオラ」の3ブランドが国際市場でしのぎを削る展開が続いてきた。だが近年は中国の大手メーカー、華峰集団などが急速に存在感を高め、汎用(はんよう)糸を中心に日韓勢からシェアを奪っている。

 国際競争が激化する中、旭化成は徐々に汎用糸による量的拡大戦略から機能糸を中心とした高付加価値品による質的高度化戦略にかじを切ってきた。また、東レ・ライクラは、東レとザ・ライクラ・カンパニーの合弁であり原則として販売テリトリーが日本国内に限定されるため、やはり量的拡大よりも用途や商流の開拓を重視している。

 旭化成の近藤尚明ロイカ事業部長は「全世界のPU弾性糸生産量に占める当社のシェアを考えれば、汎用糸で競争することは難しい。引き続き機能糸を中心に品質、機能、技術サポートを含めたサービスという強みを磨く」と強調する。東レ・ライクラの山地修社長は「販売テリトリーである国内はアパレル、衛材用途ともに市況は厳しい。機能糸の拡販に加えて、工業資材など新規用途の開拓も重要になる」と指摘する。

 もう一つ大きな切り口は環境負荷低減への取り組みだ。近年、ストレッチ素材が定番化し、PU弾性糸を使った生地が広く普及する一方、繊維リサイクルへの社会的要請が高まる中でPUはリサイクルの障害と指摘される傾向も強まっている。

 こうした状況を打開するために、旭化成は生産工程で発生する端材を原料に再利用した「ロイカEF」、生分解性を持つ「ロイカV550」の提案を強める。マスバランス方式によるバイオマス由来原料と、再生可能エネルギーを組み合わせることでカーボンフットプリント削減を実現したタイプも実用化した。

 東レ・ライクラは滋賀事業場(大津市)に試験機を導入し、使用済み繊維製品からPU弾性糸を分離・回収して糸に再生するポストコンシューマ型リサイクルの技術確立に取り組んでいる。また、ザ・ライクラ・カンパニーがバイオ由来基礎原料を採用する取り組みを進めている。東レ・ライクラも市場ニーズや需要家の要望に合わせながら、バイオマス由来原料の採用を進める。

 ただ、ここに来て大きな変数となっているのが米国の関税政策だ。各国との交渉の行方が不透明な中、場合によっては国際的なサプライチェーンの組み替えが加速する可能性がある。このため旭化成は「これまで以上に海外拠点の連携を強化する必要がある」として、多くの国とFTA(自由貿易協定)やETF(経済連携協定)を結ぶタイの製造拠点、タイ旭化成スパンデックスの活用を視野に入れる。