特集 ニット(1)/事業継続へ多彩な動き/スマイルコットン/藤井/安泰ニット/林田/和歌山ニット商工協組青年部会
2025年05月22日 (木曜日)
国内のニット関連企業の多くが、さまざまな事業領域の開拓に取り組んでいる。新型コロナウイルス禍をきっかけに、各種編み地製造業などが新しいビジネス領域の開拓を進めている。一部では徐々に形になりつつあり、事業継続に向けた模索が続けられている。
〈「モノ作りの資産」の活用進む〉
国内のアパレル市場では、消費者の嗜好(しこう)の多様化・細分化が進み、新たな提案が受け入れられやすい土壌が育ちつつある。一方で、編み地や縫製など既存の主力事業においては、受注・生産ともに低い水準が続いている。
各種のコストアップや労働力不足も顕在化しており、編み地関連企業の各社は「受け身ではなく、主導権が取れるビジネス」の確立を急いでいる。
和歌山産地では、和歌山ニット工業組合の傘下企業が中心となって構成される「和歌山ニットプロジェクト」が、「和歌山ニット」ブランドの認知度向上と海外販路開拓に挑んでいる。
見本市への参加のほか、地場の異業種と連携しての地域おこしなどにも取り組む。
そのほか、各地の企業ごとでも自社ブランドや製販体制の確立に向けた動きが続く。
衣料品のOEM業など最終製品を作れる企業では、自販事業への取り組みが目立つ。
林田(大阪市東成区)、安泰ニット(同旭区)、丸和ニット(和歌山市)は、生産拠点での自社製品販売機能を設け、自社製品の直売を行っている。
製品だけでなく、自社の国内の生産背景そのものを付加価値としてアピールし、観光客や以前にネット通販で購入したリピーターなどへアピールする。
キリンヂャカード(東京都江戸川区)は、自社で長期ストックしている糸を活用して独自製品を作っている。近隣住民などへの販売のほか、サンプルとして製品を活用し、OEMの獲得にもつなげている。
変則的な事例だが、経編み地製造の藤井(奈良県橿原市)は、2024年11月に能登半島地震からの復興と再生を支援する「能登再晴」(のとふたたびはれ)プロジェクトを立ち上げた。
同社の能登工場(石川県中能登町)も軽微ながら被害を受けており、被災地が活気を取り戻す一助となるよう、「能登再晴」を商標申請し、クラウドファンディングサイトで高吸水タオルを販売する。
各社がそれぞれの「モノ作り」の技術や資産を掘り下げ、時代に合わせたビジネス展開を図る動きは今後も続きそうだ。
〈健康支援ウエア訴求強化/スマイルコットン〉
丸編み地製造のスマイルコットン(三重県川越町)は、健康づくりを支援するセルフメディケーションウエア「レゾナバイオ」の認知度向上と訴求強化に取り組む。
レゾナバイオは、超微粒子化した鉱物の天然特殊混合パウダーをポリエステルわたに練り込み、紡績・製糸・編み立てを経て作られる。着用時の臨床試験も実施済みで、一般医療機器の家庭用遠赤外線血行促進用衣として届け出も完了。効果が持続するリカバリーウエアとして訴求を強める。
製品から放射される遠赤外線と、個人差はあるが人体から放射される遠赤外線が共振共鳴する仕組みを生かす。商品はダンボールニットとポンチのアウターウエアとルームウエアの2種類。それぞれ長袖トップスとロングパンツを展開する。
片山英尚社長はレゾナバイオについて「健康志向のブームに乗るつもりはない。効果・効能の証明データを多角的に収集し、その良さを理解してもらえる販売先に向けて大事に販売する」と話す。
今期(2025年10月期)足元の商況は過去最高売上高を達成した前期からは減収傾向も、前々期並みの水準を維持する。「素材が大事だ」(片山社長)との考えの下、生地・製品販売事業を手掛ける。
〈機能素材として開発・提案/藤井〉
編み地と編み地製品の開発、製造を行う藤井(奈良県橿原市)は、糸の特性と自社の編み立て技術を反映した機能性の提案を重視している。
現在、提案を強化している丸編みパイル地では、高吸水性と速乾性を訴求ポイントとしている。
芯糸に極細の合繊系を、鞘糸にはそれよりやや太い異型断面糸を用いる。これにより糸内に最適な空隙を確保し、毛細管現象を促進する。
吸水性だけでなく生地の中で水分を短時間で拡散、乾燥させられることで、タオルや寝具などの製品にした際の快適性につながる。さらに乾燥時に発生する気化熱で周囲の温度が下がることによる接触冷感機能も打ち出す。
藤井幹晴社長は「繊維の構造や特性を組み合わせ、機能を付与することを目指す」と話す。構造による高機能化は「合繊系、天然系を問わず幅広く応用できる」こともメリットとして挙げる。
検査機関での試験を通じ、吸水性などの機能を数値化することを重視する一方で、パジャマなどに採用した場合の「肌離れの良さ」などの感性面も強調する。
見本市への出展やクラウドファンディングなどを通じ、同社製の編み地を幅広く訴求する。
〈「オーダーポロシャツ」の浸透図る/安泰ニット〉
丸編み地製品OEMの安泰ニット(大阪市旭区)は、グループ企業との協業で進めているポロシャツやカットソー製品のオーダーメード販売の知名度向上に取り組んでいる。
大坪武彦社長は「ポロシャツのオーダーメードは開始から約20年たつが、まだ一般消費者に十分に知られていない」と指摘する。
一度購入すればリピーターとなるケースが目立つほか、衣料品メーカーからOEMの打診があるなど、潜在需要は感じられると言う。SNSや百貨店での期間限定店開設など「全方位でアピールを継続する」(大坪社長)。
インターネット関連での施策では、オーダーメードポロシャツのオンラインショップ「ニットガーデン」を4月にリニューアルした。スマートフォンからアクセスした際の操作性を向上させ、縦型の画面で見やすく、直感的に操作できるデザインとした。
ニットガーデンでは、利用者から頻繁に寄せられる質問と回答を掲載するページを用意するなどサービスを充実させるほか、日本製品であることも強調する。
本社内に設けたカフェ「工房cafe Antai」で実物を確認しながらの対面販売が可能であることも強調するなど、インバウンド需要も見込んだ拡販を図る。
〈製販一貫の強み生かす/林田〉
ニット衣料品製造卸の林田(大阪市東成区)は、田辺工場(和歌山県田辺市)の製販両面での活用を広げている。
林田誠司社長は「糸から先は全部できるようにする」と話し、自社で企画した高級丸編み地のストックを強化、シャツやカットソーのパターンオーダー製品の提案幅を広げている。
生産設備も2024年に縮絨(しゅくじゅう)機、25年に最新型の生地の自動裁断機を導入、高機能・高効率化を進めている。
生産拠点としての活用に加え、ファクトリーツアーの開催を通じて、観光客や顧客の誘致にもつなげている。
同工場には24年にショールーム兼ショップを開設しており、開設以降、旅行代理店を通じた複数のツアーにも組み込まれている。
林田社長は「好評を得ており、ユーザーの新規開拓につながっている」とし、今後も活用拡大を図る。
百貨店内を中心に出店する直営店事業は新型コロナウイルス禍の間、あえて出店を増やしたことが奏功し、販売増につながっている。
コロナ禍が落ち着いた後は競合業態の再出店が進んできたこともあり、自社ブランド製品を横断的に取り扱うなど、品ぞろえを充実させることによって店頭での提案力を強化する。対面販売の強みを生かせるオーダーやリペア事業もアピールし、差別化を図る。
〈和歌山ニット商工協組青年部会/万博で「和歌山ニット」発信〉
和歌山ニット商工業協同組合の青年部会は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の関西パビリオン内・和歌山県ブースで、4月30日から5月3日にかけて「和歌山ニット」をアピールした。
同青年部会は、ファッション雑誌「ビギン」との協業により立ち上げた「和歌山大莫小」ブランドで各種アパレル製品を展開しており、今回の万博参加もその活動の一環として実施した。
青年部会に加盟する16社のうち11社のニット生地を使ったTシャツとスエットパーカを展示・販売した。
製品は共通デザインと黒のカラーで統一し、各社の特色ある編み立て技術が伝わるよう工夫した。
万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」に合わせ、環境負荷の低減や持続可能性に貢献する素材を選定した。東洋紡せんいの新方式リサイクル綿糸「さいくるこっと」とSPiber(山形県鶴岡市)の構造タンパク質繊維「ブリュード・プロテイン」を採用した。
一部製品には、フジボウテキスタイル和歌山工場での加工を施し、独自の風合い変化も打ち出している。
産地では海外市場の開拓も活発化しており、生地から製品まで一貫対応できる産地の総合力を改めて強調した。