特集 スクールユニフォーム(2)/早期対応で納品安定
2025年05月29日 (木曜日)
ブレザー化の波によって高水準で制服のモデルチェンジ(MC)が増える中、今春は学生服メーカー各社が早めの対応を取ってきたことで、安定した供給につなげられたようだ。一方、安定供給を重視し備蓄に力を入れたことから各社の在庫が増える結果となった。今後は在庫の適正化がポイントとなる。また、あらゆるコストが高騰する中で価格改定の交渉も引き続き課題となる。今春の入学商戦ではお下がりやリユースの増加傾向も見られた。
〈生産、納品ともに安定/計画的な早期対応実る〉
ニッケの調査によると、2025年度のMC校数は722校と、引き続き高水準の状況となった。20年ごろから続くMC増の影響もあって、23年には一部で納品遅れも発生するなど混乱も散見されたが、各社が対策を講じたことで、昨春に引き続き今春も納品は比較的順調に進んだようだ。
菅公学生服の黒田健介専務は「ここ2~3年で一番スムーズに流れた」と話す。各社が早期対応に注力したことが安定した納品につながった。例えば、新規の注文を1学期中までとするなど、注文の締め切りを早めたほか、素材の手配なども早めに行ったことが奏功した。
「受注活動や材料の準備まで含め、計画立てて行えた」と語るのは明石スクールユニフォームカンパニーの柴田快三専務。さらに、「属人化を取っ払っていった」ことも効率化につながったと言う。トンボも計画的な先行生産を行いながら、順調に納品することができた。
〈静かな入学商戦/在庫の適正化が課題〉
今春はトラブルなく納品がスムーズに進んだ一方、業界内からは「静かな入学商戦だった」との声も多く聞こえてくる。その大きな要因が学生服メーカーによる在庫調整だ。
入学商戦での納品を最優先して備蓄生産を強化した結果、各メーカーの在庫が積み上がる要因となった。このため、各社が在庫調整に動いた。併せて、今春は「最後の駆け込み需要も少なかった」との声も出る。ある副資材関連企業は「毎年3月は休日出勤するが、今年は手が空くような状況だった」と明かす。
在庫の適正化は各社の今後の課題となる。トンボは今後、在庫の削減を強化ポイントの一つに掲げる。藤原竜也社長は「備蓄生産を絞った上で、一昨年の期末在庫高レベルにまで戻していきたい」と話す。制服の別注化が進んでいることも在庫増の一因となっており、ブレザーの素材や型を集約するなどして、効率化を図る。
菅公学生服の尾﨑茂社長も「在庫を計画的に圧縮していく」とし、備蓄期には「営業情報を工場と一気通貫し、無駄なモノを作らないということが至上命題になってくる」と説明する。明石スクールユニフォームカンパニーも生産の不透明さから在庫を前倒しで積んだ影響で、「結果的に在庫が増えた」(河合秀文社長)。今後は「しっかりと計画を立てて生産を行っていく」とする。
在庫調整とともに価格改定も課題だ。原材料費や人件費など、さまざまなコストの高騰が各社の利益を圧迫する状況が続いている。このことから、各社は値上げに向けても動いてきた。
トンボは価格改定で「目標の80%までは達成できた」(藤原社長)。今期にできなかったものは、来期、来々期での改定を目指す。菅公学生服も「営業部署の頑張りによって価格改定の活動が進んでいる」(尾﨑社長)ほか、明石スクールユニフォームカンパニーも「想定していた数字に近いところまではできている」(柴田専務)とする。
価格の改定に関しては、「昔のように5~10年で10%とかではなく、3~5年で3%とか5%とか上げていかないといけないかもしれない」(菅公学生服の黒田専務)との意見も。一方、物価高の中で「消費者はうんざりしており、(値上げによる)制服離れが怖い」(学生服メーカー)といった懸念の声も聞かれる。
〈お下がりが増加/消費者の意識が変化〉
今春の入学商戦では「お下がりやリユースが増えた」との指摘も多かった。入学者の2割がお下がり着用といわれる中、明石スクールユニフォームカンパニーでは今春、新規物件の獲得が順調に進んだ一方、「生徒減やリユースの影響が顕著に表れた年で、想定よりも伸びなかった」(柴田専務)とする。
「新型コロナウイルス禍があったため」(学生服メーカー)というのが、お下がりが増えた一つの要因として挙げられる。コロナ禍では通学時などで洗濯が容易な体育着の着用が広まった。そのため、学生服が奇麗な状態のまま残った。
お下がりに対する意識の変化もある。一般消費者の環境配慮への意識の高まりに加え、若年層を中心にリユースへの抵抗感が薄まっている。以前は家庭の経済的な負担を減らすという面からお下がりを利用するケースも多かったが、現在は「リサイクルという違った視点が大分加わっている」(菅公学生服の黒田専務)との指摘もある。ある学生服メーカー関係者も「お下がりが気にならない人が増えた」と話す。
ブレザーへのMCでは、自治体単位でデザインを統一した標準服を導入する地域共通型のケースも広がった。これにより、今後もお下がりが増える可能性がある。また、学生服のリユースショップも出てくるなど、ニーズが高まりつつある。
そのような中、学生服メーカーがリユースに取り組む事例も出てきた。明石スクールユニフォームカンパニーはメーカー認定のリユース制服の展開を今春から本格化させている。提携する学校で制服を回収し、クリーニング、修繕、検品、仕上げを行った後、販売する。複数校で取り組みが進んでおり、一部では販売にもつながった。