特集 スクールユニフォーム(3)/市場環境の変化捉える

2025年05月29日 (木曜日)

 市場が激変する中、中堅学生服メーカーは知恵を絞りながら、独自の取り組みによって売り上げ、利益につなげている。学生服市場においては今後、高校の授業料無償化の影響が出てくる可能性があり、動向の注視が必要になりそうだ。

〈高校無償化の影響は/制服の二極化進むか?〉

 自民、公明、日本維新の会の3党は今年、高校の授業料無償化について合意した。現行法では公立、私立の高校に通う高校生の子供がいる年収910万円未満の世帯向けに年11万8800円が支給される。この所得制限を2025年度に撤廃。26年度からは、私立校に通う子供がいる世帯向けの上乗せ分についても所得制限をなくし、私立校の授業料の全国平均である45万7千円に引き上げる。

 これにより、私立校人気が高まる可能性があり、公立校離れの進行が指摘される。

 実際に影響が顕在化した地域も。名門校である大阪府立寝屋川高校では25年度の一般選抜で倍率が1倍を切り、SNSなどを中心に〝寝屋川ショック〟として注目を集めた。菅公学生服の黒田健介専務は「今年の春は高校授業料無償化の影響が結構あると感じた」と振り返る。また、トンボも「高校の授業料無償化の影響からか、専願での私立高の生徒増加が目立つ」としている。今後、公立校の統廃合が進む恐れがある。

 制服への影響を口にする学生服メーカーもある。トンボの藤原竜也社長は「私学では制服によりこだわろうという流れになってくるのでは」と指摘。その一方で「公立校はポリエステル100%使いの制服など、より安価な流れに進む可能性がある」。この動きが強まれば、「国内素材の採用だけでは立ちいかなくなる恐れがある」とみる。実際に同社は海外メーカーの調査を始めている。

 このほか、生徒の獲得競争が激しくなる中、「学校として何らかの特徴を打ち出す必要がある。今後は高校でのモデルチェンジが増えてくる」(ニッケの衣料繊維事業本部販売統括部の幾永誌木ユニフォーム部長)との指摘もある。

 政府の支援は高校の授業料のみで、通学費用や制服代といったその他の費用は変わらずかかってくる。このほか、石破茂首相は先月、多くの都道府県で採用されている、受験生が1校しか受験できない「単願制」の見直しを関係閣僚に要請するなど、公立離れを防止する手立てを講じる構えを見せた。高校の授業料の無償化も含め今後も動向に注視が必要になる。

〈中堅は独自の取り組み強化/ニーズに沿った提案で〉

 少子化の進行や制服のブレザー化など、学生服市場の環境が変わる中、中堅学生服メーカーもニーズを捉えた提案などによって開拓に努めている。

 オゴー産業(岡山県倉敷市)は、制服などのモノとコトの抱き合わせで学校からの支持を獲得する。同社の東京営業所では、校長会などで地道に信頼を獲得する。また、2023、24年には東京都内で展示会も開催。片山一昌取締役は「アパレルメーカーとしての提案がファン作りにつながった」と語る。

 吉善商会(東京都中央区)では、独自の高ストレッチ性ポリエステル生地が、価格を抑えて日頃のメンテナンスの手間を省きたいというニーズに合致し、注目が集まっている。社会課題解決に注力する企業との協業によるジェンダーレスに対するプロジェクトも今後推進を検討する。今春の入学商戦では、私学人気の再燃もあり、受注は好調に推移。価格改定も浸透しており、25年7月期は増収増益を見込む。

 このみ(新潟県妙高市)は制服ブランド「コノミ」を展開する。インバウンドの恩恵もあり、東京の原宿や大阪の梅田の実店舗売り上げが前期比2桁%増で伸長している。今春投入した、パンツの裾長さ問題を解決する新製品、「くるりん裾上げパンツ」は、高評価を得る。

 金原(横浜市)は、今春の学生服商戦、価格改定によって利益確保も順調に推移した。業務提携するこのみとは、神奈川県内で採用実績を積み増している。昨秋、老舗販売店をグループに迎えており、今後は商圏を広げる。

 「生徒減など、業界が変わる中、販売店が地域に貢献できるような仕組みを考えたい」と話すのは、ベンクーガー(倉敷市)の難波祥介社長。同社は学生服販売店の支援に向けた取り組みを進めている。最近では地域イベント向けなどにTシャツなどの衣類へプリントをする事業を販売店へ提案するなど、「学校と販売店との距離を縮めるような動きをしている」。販売店向けの勉強会も今年開催予定だ。

〈業務効率化を推進/協同〉

 服飾資材製造卸の協同(岡山県倉敷市)は、ワッペンなどの服飾資材の企画支援システム「別注便」の活用に力を入れている。併せて、業務の効率化による労働環境の改善も進める。

 別注便はインターネット回線を介して同一のシステムに接続し、ワッペンやボタン、バッジマークなどの企画依頼から納品までを一元管理できるシステムだ。

 制服をブレザーへモデルチェンジ(MC)する動きが全国的に活発になる中、新規制服採用を決めるコンペの件数が増えており、同支援システムによって増加するMCに対応している。また、企画情報の拠点間共有や過去の意匠をデータベースとして活用する。

 働き方の改革も強化している。昨年の10月から業務フローの見直しを進めており、業務の属人化を解消させることに加え、業務の定型化を進めた上で分担し、仕事を休む人がいても業務が滞ることのない環境を作っている。

 2026年1月からは、年間休日を114日から120日に増やす。労働時間が減る中で、生産性を2・5%以上向上させることでこれを補う考えだ。このほか、同社では健康経営アドバイザーの取得も奨励しており、改善案を自発的に提案できる環境作りも進めている。