特集 スクールユニフォーム(11)/素材メーカー/ニッケ/御幸毛織/東亜紡織/シキボウ
2025年05月29日 (木曜日)
〈制服から“衣”への関心を/広がる体験型教育プログラム/ニッケ〉
ニッケは、体験型教育プログラム「ウェアディ」と衣料循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)を連動させ、制服を教育の題材として活用する取り組みを強化している。SDGs(持続可能な開発目標)教育が広がる中、「生徒にとって最も身近な制服を題材にすれば関心を高められる」として、教育現場との連携を進める。
2022年に開始したウェアディでは、ウールの特性を学ぶ出張授業ウールラボやマナーセミナー、海外SDGs研修などを展開。24年には千葉県総合教育センターの依頼で、県内の中学校教員向けにウールラボ活用研修を実施した。全国での受講校は前年比2倍の531校となり、受講者は7323人だった。
ESD(持続可能な開発のための教育)を推進する自治体からの関心も高く、ウールラボ関連の教材貸出も増加。食育に比べ衣に関する指導が手薄な現状を踏まえ、制服を教材として浸透させる考えだ。
一方、不要になったウール制服を回収・再生し、廃棄ゼロを目指すワヲナスも進展。自治体と連携し、環境配慮型の学生服地「エミナル」使いの制服を、ワヲナスを通じてエミナルへ再生する循環スキームの構築に着手した。卒業生の制服を原料として新入生の制服に生まれ変わらせる取り組みも進める。
再生原料使いのエミナルはバージン原料使いと遜色ない品質にまで向上。PFAS(フッ素系化合物)を含まない撥水(はっすい)加工「ロハスコート」との組み合わせで、より環境に配慮した生地供給にも注力する。
〈ウール低混率品の需要増/学生服地の在庫調整図る/御幸毛織〉
御幸毛織ユニフォーム部の2025年3月期は、学生服地、官需、民需、ファイバーの4分野全てで売り上げ予算を達成した。
このうち、売り上げ構成の6割を占める学生服地は在庫消化が進まず苦戦。「生産と在庫のバランスが回復するにはあと1年ほどかかる」とみる。官需がけん引役となって好調に推移し、民需はオフィス向けが失速する中、交通系の更新を取り込んだ。ファイバーは東洋紡マレーシアでの生産品を尾州産地に販売するルートが堅調だった。
学生服のブレザー化や低価格志向の影響を受ける中、ウール20~30%の低混率製品の需要が高まっている。学生服メーカーとの協業でこれらのニーズに応えるとともに、ストレッチ性などの機能性を備えた付加価値品に注力する。ウール50%製品については、価格競争になると厳しいが風合いと機能の差別化で新規の取り込みに貢献している。ウールに特殊なポリエステルファイバーを複合させた主力品「プロタック」も引き続き訴求していく。
今後、高校のブレザー化拡大が予想される中、学生服地の意匠企画力を高めていくことが大切とのスタンスを示す。柄や織り柄によって独自性を引き出すことで他社製品との差別化を図っていく。
SDGs(持続可能な開発目標)活動の一環として四日市農芸高校と共に取り組むウールの生分解プロジェクトも継続中。生産段階で生じた廃棄ウールを肥料に生産したお茶は一般販売も行っている。
〈サステ素材の販促加速/開発力と生産基盤強化を軸に/東亜紡織〉
東亜紡織は2026年の入学商戦に向け、開発力と生産基盤の強化を軸に、学販市場でのシェア拡大を図る。高強力・高耐久素材や生分解性ポリエステルとの複合繊維など、サステイナブル素材の提案を本格化する。
今期(25年12月期)は、学生服メーカーの在庫調整の影響で受注が減少。しかし、性的少数者(LGBTQ)配慮に伴うブレザー化の流れで制服モデルチェンジは高水準を維持しており、「制服物語」など意匠権付き素材で販売を下支えする。
生産面では、宮崎工場(宮崎県都城市)にワインダーを増設。ニット製品を手掛けるトーアニット(岡山県真庭市)ではデジタル技術で企業を変革するDXを導入し、生産効率の向上やロス削減に寄与。他拠点でもDX化を進める。女子制服を縫製するトーアアパレル(佐賀県吉野ヶ里町)では、女子用セーラー服の需要減を受け、学販以外の新規分野にも取り組む。
今期は前倒し生産による混乱もなく、新素材提案の機会が増加。環境配慮型素材を軸に攻勢を掛ける。具体的には、紳士服地の技術を応用した2ウエーストレッチ素材「デュアルアクティブ」に加え、高耐久のウール・ポリエステル混「フェルテラ」、生分解性ポリエステル混の「バイオハーモニー」の3本柱を拡販する。さらに尾州のソトーなどと連携する「グリーンウールバリューチェーン」(GW)の提案も本格化。持続可能な調達・製造工程のトレーサビリティーを確保し、独自ラベルを通じて学校現場の環境意識に応える。
〈快適なスクールライフ支える/進化系「アゼック」で/シキボウ〉
シキボウは、校倉(あぜくら)造り構造織組織の高通気「アゼック」の進化系素材を拡充している。既存の加工技術を組み合わせ、スクールライフで高温化する夏をより快適に過ごせる素材を豊富にそろえる。
アゼックは春夏向けユニフォーム用途を中心に採用が進んでおり、気温上昇の影響から通年での受注が拡大している。近年はSDGs(持続可能な開発目標)と連動した素材開発が進む一方、他の機能素材との複合開発も活発化している。
ポリウレタンを使用しない特殊ストレッチ加工「パワール」との組み合わせでは、一部のユニフォームメーカーが採用。特殊紡績糸を用いた「クールボディ」は毛羽が少なく、すっきりとした表面感と高い接触冷感性を持ち、アゼックと組み合わせることで通気性と快適性をさらに高めた。
ファッションブランド「アンリアレイジ」との業務提携を通じ、アゼックは新たな販路でも採用事例が広がっている。大阪・関西万博ではNTTのパビリオンスタッフ用ユニフォームに使用され、電動ファン付きウエア「空調服」との組み合わせが来場者の注目を集めた。
さらに世界的アーティストであるビヨンセの最新ワールドツアー衣装にも採用。アンリアレイジが手掛けたこのドレスは、光によって色や柄が変化する液晶のような仕上がりとなっている。