特集 スクールユニフォーム(12)/商社/次につながる“種”仕込む/チクマ/牧村/ナカヒロ/イシトコテキスタイル/アカツキ商事/伊藤忠商事
2025年05月29日 (木曜日)
「今年の入学商戦はかつてなく静かだった」――学生服メーカーの在庫調整の影響で、商社は苦戦を強いられている。ただその一方で、これまで提案できていなかった素材や取り組みの発信に力を入れ始めた。「静かな今だからこそ、できなかったことに挑戦する」として、次につながるビジネスの“種”を仕込んでいる。
〈服育と環境でシェア拡大/チクマ〉
チクマ(大阪市中央区)のキャンパス事業部は、「服育」と環境対応を軸に学生服市場でのシェア拡大を図る。上半期(2024年12月~25年5月)は学生服メーカーの在庫調整の影響で計画を下回るが、下半期以降は増収に転じる見通しだ。
25年の入学商戦では、制服モデルチェンジ(MC)を実施する学校への生地供給は前年並みの約200校とみられる。今後は少子化やMC案件の減少を見据え、「件数よりシェア重視」へと販売戦略の軸足を移す。
「服育」では、啓発活動として昨年8月に大阪市でイベントを開催。約200人が参加し、教育現場との接点を強めた。今年も8月1日にAPイノゲート大阪(大阪市北区)で「服と目指す多様性、服と取り組むサステナビリティ」をテーマに講演会などを企画、教育現場との交流を深める。
環境対応ではウールや再生ポリエステルなどのエコ素材を提案。「チクマノループ」による制服リサイクルも推進する。
小学生服の市場開拓にも取り組む。小学校制服の採用率は全国で約2割とみられ、自治体による無償化支援を契機に提案の強化に乗り出す。
〈「全方位型」で受注獲得/牧村〉
牧村(大阪市中央区)のスクールユニフォーム事業の2025年5月期売上高は、学生服メーカーによる在庫調整の影響を受け、既存校向けの供給が減少し前期を下回る見通し。ただ、今春の入学商戦では、制服のモデルチェンジ校の獲得で前年並みを維持し、スラックスやスカート向けに柄物を厳選した見本帳「ジュニア・パレット・プラス」による拡販が下支えした。
同見本帳は、ボトムス向けのチェック柄に特化。掲載生地を基にペア柄やオリジナル柄も提案できる。自治体単位で制服仕様を統一する「エリア標準服」にも対応しやすく、ブレザー化の進行に伴う柄物需要も捉えやすい。見本反や色糸を一定量備蓄しており、小ロット対応にも強みを持つ。
専用サイト「牧村デジタルアーカイブ」では数千点の柄を公開し、画面上での生地選定や別注提案が可能。生地はウール30%・再生ポリエステル70%素材を中心に構成され、環境配慮の観点からも訴求力を高める。
制服の多様化に対応し、ニットを中心とした製品供給の体制も構築。生地の集約によるコスト削減を進めつつ、差別化に力を入れる。アパレル各社との情報交換も密にしながら「全方位型」の営業体制で新規受注の拡大を図る。
〈今入学商戦も200校超へ供給/ナカヒロ〉
ナカヒロ(大阪市中央区)の今年の入学商戦は、昨年に続き200校超へ生地を供給した。来年も制服モデルチェンジ(MC)が高水準で推移すると見込まれ、素材や学生服メーカー、販売店と連携しながら、学校に対し細やかなニーズに応える供給体制を維持する。
今入学商戦は、学生服メーカーによる前倒し生産によって、制服供給がスムーズに進行。昨年に比べても「輪を掛けて静かな商戦だった」。2023年には生産部を新設し、ビジネス事業部で活用していた縫製拠点を生かして、ブレザーなどの製品供給も強化。昨年からの価格改定の効果も出た。
一方で、前倒し生産の反動から在庫調整の局面に入りつつある。少子化による多品種・小ロット化が進む中、生地を集約し「今だからこそできる取り組み」に注力。新商品の開発についても長期的に安定して売れる商品作りを意識する。
ビジネス向けに展開する環境配慮型素材群「エコサス」の学生服地への展開も図る。年内に内見会を開き、27年の入学商戦での供給を見据える。エコサスの訴求に合わせてニッケの不要ウール衣料を回収・再生する循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)と連動し、廃棄ゼロを目指す環境提案にも力を入れる。関係各社との連携を強めながら、前年並みの生地供給を維持する。
〈小回り生かし市場深耕/イシトコテキスタイル〉
イシトコテキスタイル(大阪市中央区)は来年の入学商戦に向け、SDGs(持続可能な開発目標)対応と暑熱対策を軸とした素材提案に力を入れている。スクール市場では少子化で小ロット化が進む中、顧客の要望に「小回りが利く」対応によって市場を深掘りする。
SDGsに対応した素材としては、シキボウのフェアトレードコットンを8%以上使用した糸「コットン∞」や、生分解性ポリエステル短繊維「ビオグランデ」、東亜紡織のウールと生分解性ポリエステルの複合素材「バイオハーモニー」などを訴求。「インナーからアウターまで一緒に選べる」強みを生かし、採用につなげる。
近年は高温の期間が長くなり、学生服分野でも暑熱対策のニーズが高まっている。高温対策としては、シキボウの特殊高通気織物「S(エス)クール」や、吸水速乾性と透け防止を兼ね備えた「エアモーション」などを提案。今回、新たに作成した見本帳では「盛夏向きセレクト」のページを設け、夏に適した生地を多数掲載。「アパレルメーカーが学校に提案しやすい」素材群をそろえる。
〈安定した生産体制目指す/アカツキ商事〉
アカツキ商事(東京都墨田区)の今春の入学商戦は、受注減だったものの価格改定が進捗したことで増益を確保した。一方で新規案件の獲得や、各得意先の在庫過多により原反販売の動きは鈍かった。
今年度も国内外の縫製協力工場の整備を進め、安定した生産体制の構築に取り組んでいる。国内では関東地域の中小アパレル企業との共同縫製を行っているほか、将来的には共同仕入れ体制も視野に入れる。さらに昨春から縫製の一部をベトナム、中国の協力工場に委託。状況によってはさらに海外縫製を拡充していく必要性もあるとした。
物流面では、効率化とコスト対策の一環として茨城県内の物流センターへの集約を進めている。大阪、名古屋の物流拠点についてもメリット、デメリットを見極めながら茨城に移管する方向で調整中。
デジタル技術で企業を変革するDXで総合的な学校サポート体制を強化している。教職員の業務効率化や、多様性のある学びと交流の場を提供するメタバース、人工知能(AI)チャットなどを展開。電子商取引(EC)システム「ニッケメイト」は今春200校以上で利用されており、ニッケグループ全体でさらなる拡販を目指す。
新ブランド「マリ・クレール」の制服が来年度は小学校2校で採用される。
〈学販市場を切り開く/リユース需要にも対応/伊藤忠商事〉
伊藤忠商事は、学生服・学用品電子商取引(EC)プラットフォーム「学校生活」を活用する学校数を徐々に増やしている。現在は、私学15校、公立4校の計19校。学校商材を扱う販売代理店の出店がキーポイントとなるため引き続き提案を強化していく。同システムをベースにしたリユース学生服のCtoCプラットフォーム「学リレ」は現在約30校で利用されており、2026年度までに100校を目指す。
学校生活は、学校向け商材を扱う販売代理店を通じて、学校指定の学生服や学用品の販売を利便性の高いECで展開。学校内でIDとパスワードを持つ保護者らだけが閲覧、利用できるようにするなどの高いセキュリティーと、AI(人工知能)チャットボットによるカスタマーサポートで代理店の業務軽減につなげられる点が特徴。
20年の立ち上げ当初は新型コロナウイルス禍の三密回避の手段として注目されたが、現在は過疎地域への対応にも有効との認識が広まりつつある。将来的には同プラットフォームを生かして企業向けも展開していきたい考えだ。
初の年度替わりとなった今春の商況では早速手応えがあったようだ。同社では両サービスを通じて学販市場における新たな流通経路を確立していく方針だ。