シリーズ事業戦略/ユニチカ 社長 藤井 実 氏/事業再生計画やり抜く/技術ベースに素材展開

2025年06月06日 (金曜日)

 ユニチカは、地域経済活性化支援機構(REVIC)の支援の下、今期(2026年3月期)から事業再生計画に取り組む。4月30日付で就任した藤井実社長は「計画の達成が最低限の目標であり、最大の目標」と強調する。フィルムや樹脂など高分子事業、ガラス繊維・ガラスビーズと活性炭繊維など無機系素材事業、ナイロン中空糸などモノフィラメント事業を軸に「技術をベースに素材展開する企業」を改めて目指す考えだ。

――REVICの支援の下、事業再生計画がスタートしました。

 計画自体は出来上がっていますから、あとはこれを実行していくことになります。ただ、今回の計画では撤退する事業があり、金融機関にも債権放棄を求めることになっています。このため社内外のステークホルダーの皆さんに多大なご迷惑をおかけすることになりました。それだけに、何としても計画をやり抜いて、事業を再生しなければならないと考えています。撤退する事業もあることで従業員にも不安を与えてしまいました。可能な限りケアしながら、同時に意識を改革することで計画の達成のために全力を上げます。

――24年度(25年3月期)は営業黒字と経常黒字に回復しました。

 事業再生計画に先立って価格改定や在庫の圧縮などを進めた成果が出ています。そうした中で市況も回復に向かいました。特に高分子事業のフィルムは食品包装用途を中心に流通在庫の整理が進んだことで販売も回復しています。機能資材事業はガラス繊維・ガラスビーズが半導体関連用途で大幅に回復しました。不織布やポリエステル短繊維、高強力ポリエステル糸も価格改定を進めています。繊維事業も価格改定を進めたことで赤字が半減しました。

――事業再生計画では繊維事業などの譲渡が盛り込まれています。

 計画の実行自体は順調な滑り出しとなっており、撤退する事業の譲渡に関しても、まだ具体的な話はできませんが、既にいろいろな話があるのは事実です。事業譲渡の条件は経済合理性が大前提となりますが、同時に従業員の雇用維持や取引先との取引継続など事業の継続性も重視しています。

――事業再生に向けて各事業の今後の戦略は。

 フィルム・樹脂などの高分子事業とガラス繊維・ガラスビーズと活性炭繊維など無機系素材事業、そしてナイロン中空糸などモノフィラメント事業に集中することになります。特にフィルムは食品包装用途で強みのある商材であり、今後も中核事業と位置付けて拡大を目指します。高ガスバリア性フィルムなどの販売を伸ばしていきたい。樹脂・コンパウンドは、ナイロン6で特殊グレード品を重合から一貫生産していることが武器になります。また、変性ポリオレフィンなど独自性があり、さまざまな用途で可能性のある素材もあります。

 ガラス繊維も半導体関連用途の需要が旺盛ですから、この動きに対応して販売を拡大させます。ガラスビーズは高精細タイプが半導体製造工程で使用されており、こちらも好調が続いています。活性炭繊維に関してはフィルター用途が中心であり、VOC(揮発性有機化合物)除去装置向けは伸び悩んでいますが、浄水処理用途で需要の拡大が続いています。最近では汚染物質としての可能性が懸念されているPFAS(有機フッ素化合物)の除去にも効果がある点で注目されてきました。

 モノフィラメント事業は、特にナイロン中空糸に力を入れます。ほぼ当社しか製造していない素材であり、有機溶剤系でも使用できる中空糸膜として不純物分離・除去や目的物濃縮などさまざまな分野で活躍が期待できます。

――生産体制も見直します。

 ナイロンフィルムを製造しているインドネシア子会社のエンブレムアジアは規模を適正化します。その上で国内工場の宇治事業所(京都府宇治市)は高付加価値フィルムの生産中心にシフトし、汎用(はんよう)品をエンブレムアジアに移管します。エンブレムアジアでも複層タイプを生産できるように設備の改良も進めます。

――“新生・ユニチカ”として、どういった企業を目指しますか。

 事業再生に取り組まなければならなかったことで、内部のステークホルダーである従業員が不安を感じるのも当然です。これに対しては、しっかりと業績を回復させるという実績を通じて自信を回復させていきたい。同時に、REVICやそのほかの株主、金融機関、取引先など外部のステークホルダーに対しては責任を果たして事業再生計画を完遂することが最低限の目標であり、最大の目標となります。その上で、プラスアルファの事業も作っていきたい。やはり高分子の合成、重合、溶融、加工まで一貫した技術を持つことが当社の強みですから、今後もこの技術をベースに素材展開する企業を目指します。

【略歴】

 ふじい・みのる 1987年、ユニチカ入社。2018年執行役員ガラス繊維事業部事業部長代理、19年執行役員ガラス繊維事業部長、22年上席執行役員、23年上席執行役員技術開発本部長兼生産統括本部長、同年上席執行役員技術統括部長、25年4月30日付で社長