中国・深センの南油服装市場/高級シフト鮮明に/日系生地商社が開拓強化

2025年06月18日 (水曜日)

 広東省深センの南油(ナンヨウ)服装卸売市場は、中国きってのアパレル卸売市場だ。独自のエコシステムを形成し、アパレル市況が振るわない中でも活況を呈す。ここ数年は高級シフトが鮮明になり、日系生地商社が同市場に出店する顧客の開拓を強化している。(岩下祐一)

 深センには、2500超のブランドがあり、3万人ものデザイナーが活躍しているといわれる。ファッション都市と呼ばれるゆえんだ。「歌力思」(エラッセイ)や「珂莱蒂爾」(コラディオール)などの老舗高級レディースは、いずれもここに本社を置く。

 ファッション都市としてのもう一つの顔が、南油服装卸売市場だ。「改革・開放」政策が始まった1980年代初頭、南油地区に輸出向け縫製工場が集まったのが同市場の始まり。現在は約20万平方メートルの土地に10棟を超えるビルが立ち並び、その中に10~20平方メートルの7千店舗もの小規模店がひしめく。

 中国の代表的なアパレル卸売市場は、南油市場のほか、浙江省杭州の四季青服装市場や広東省広州市の十三行服装卸売市場などがある。中でも南油市場では、最も高価格帯の製品が売られている。

 こうした市場と、中国のネット通販ブランドの発展は切っても切れない関係だ。市場は、ネット通販ブランドに大量の製品を供給している。アリババのネット通販サイト「タオバオ」(淘宝)が杭州で2003年に立ち上げられた当初から、アパレルを主力アイテムとしてきたのは偶然ではない。

 南油市場は、ファッション産業のインキュベーターでもある。全国から腕に覚えのあるデザイナーが集い、ブランドを次々に立ち上げている。「自分たちのブランドの可能性を確かめるのに最適な場所だ。市場の反応をダイレクトかつ素早く確認できる」と、高級レディース「フレーム・ファン」創業者の範麗麗氏は話す。競争は激しく、実力がなければすぐに淘汰(とうた)されると言う。

 大手ブランドはここを、ODMの委託先探しや、トレンドのリサーチの場としても活用している。

 南油市場は以前、欧州ブランドのコピー品が多く出回っていたが、知的財産保護が厳格化し、消費者意識が高まるのに伴い、17年ごろからオリジナルを追求するブランドが増えている。特にここ数年は高級シフトが鮮明だ。

 最も高級なゾーンで成功しているのが、フレーム・ファンと、聯合拡展設計〈深セン〉の高級レディース「幾様」(ジーヤン)だ。イタリアや日本の高級素材を使ったミニマルデザインの製品を展開し、南油市場などの店舗を通じ、全国のセレクトショップやネット通販のショップに卸売りしている。

 「集言」は、年初に深センで立ち上げられた高級レディースだ。オールドマネースタイルで、カシミア使いのコートは1万元を超える。今夏以降、南油市場に出店する計画を持つ。

 こうしたブランドはいずれも日系生地商社と取引している。サンウェル、豊島などがここ数年、深センでの営業を強化し、成果を上げている。