技術の眼/サンコー/東洋紡せんい/PEGASUS/東洋紡/サハシ特殊鋼/花王

2025年06月18日 (水曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈サンコー/風量が60%アップ〉

 ニッケグループのサンコー(東京都千代田区)は、電動ファン(EF)付きペルチェ式冷却ウエア「圧倒的に冷える冷蔵服4」を販売している。今作は、高出力の電源を供給できるUSB-PD電源に対応し、旧モデルから風量が60%アップ。従来のベストタイプに加えて半袖タイプも用意した。

 環境温度から最大19℃冷える冷却プレートを背中に配置し、腰もとの左右2カ所にEFを搭載。服の内部を風が循環し、約3秒で体を冷却する。

 2段階の風量と、ペルチェのオン・オフの切り替えはリモコンで操作可能。電源はUSB給電方式で、PD対応の2万ミリアンペアアワーのモバイルバッテリー使用時で「強」動作時約3.5時間、「弱」動作時約8時間稼働する。

 ベストタイプの本体は1万9800円、半袖タイプの本体は2万1800円。PD対応モバイルバッテリーは別売り(3千円)。いずれもカラーはネービー、シルバーグレー、ストームホワイト、ウッドランドグリーンの4種で、フリーサイズ(M~LLサイズに対応)、3L、5Lの3サイズを展開する。

〈東洋紡せんい/熱可塑複合材の第2弾〉

 東洋紡せんいは熱可塑性ガラス繊維複合紡績糸「GfC yarn」を開発した。2027年度からの本格販売を目指し、自動車部材や建材、各種補強材料向けに提案する。

 衣料用3層構造紡績糸「フィラシス」など独自の複合紡績技術を応用し開発した。糸構造は昨年発表した熱可塑性炭素繊維複合紡績糸「CfC yarn」と同じだが、炭素繊維よりも安価なガラス繊維を使い、熱可塑性繊維にはポリプロピレンを組み合わせた。CfC yarnに比べ糸値が大幅に安くなり、CfC yarnほどの強度が不要な汎用(はんよう)分野を開拓する。

 ガラス繊維複合材料(GFRP)の中間基材として、組みひもやUDシート、編み地に加工でき、球体やパイプ型など複雑な形状に対応可能。熱可塑性のため、長期保存や再成形ができ、生産性や環境負荷軽減にメリットがある。現在の主流である熱硬化性ガラス繊維複合材の代替を狙い、自動車部材や建材などの開拓を進める。

 通常はガラスとポリプロピレンの組み合わせは含侵性に課題があったが、複合紡績糸によってクリアした。

〈PEGASUS/美しい縫い目、簡単に〉

 PEGASUSは、均等で美観に優れる縫い目を簡単に作るユニット(機器)を開発した。これまで手作業が必要だった縫製ライン(一連の縫い目)の仕上げを完全に機械に置き換え、工場の省人化を後押しする。

 近年、スポーツウエアやインナー市場で、本体の生地に映える色合いの縫製ラインをデザインとして取り入れる企画が流行していることを受け、美しい縫い目を作るための専用機を開発した。

 同社の1本針2本糸使いのオーバーロックミシンと均一で美しい縫い目を安定して作る、独自開発の機器「シームオープナー」とをセットで提案する。一部の工場では、オーバーロックミシンで縫製後、縫い目の仕上げを手作業で行っている。シームオープナーで、この手作業をなくすことができる。

 意匠性の高い縫い目を作るために広く普及しているのは、平らな縫い目ができる特殊ミシン(フラットシーマー)を使う手法だ。ただ、このミシンは高額な上、メンテナンスや縫製にも高度な技術が要る。だが、同社が提案する機器の導入なら、コストを半分以下に抑えられ、特殊ミシンほどの技術は必要ない。

〈東洋紡/高性能ウイルス除去膜〉

 東洋紡はこのほど、大塚化学(大阪市中央区)と高性能ウイルス除去膜を共同開発した。バイオ医薬品製造工程の精製プロセスに使用するもので、従来品と比較して単位時間当たりの医薬原液透過量が約2倍に増加し、処理時間を約3分の1以下に短縮することができる。

 東洋紡と大塚化学は2024年に中空糸膜による医薬品製造プロセス領域での連携契約を結んでいる。今回の共同開発は、その成果の一つ。東洋紡の孔径制御技術を応用し、膜を構成する中空糸の内側と外側で異なる傾斜構造を実現した。有用成分を透過しながら夾雑(きょうざつ)物が膜内部で目詰まりするのを抑え、安定したろ過が可能になる。

 また、大塚化学のポリマー技術を組み合わせた膜原料は、膜表面にウイルスや夾雑タンパク質が堆積するのを抑える。これにより単位時間当たりの医薬原液透過量を増やし、ウイルス除去処理の作業時間を3分の1以下に短縮でき、生産効率向上とコスト削減につながる。

〈サハシ特殊鋼/紙おむつリサイクル実装へ〉

 特殊鋼材の販売などを行うサハシ特殊鋼(名古屋市港区)は、使用済み紙おむつのマテリアルリサイクルの事業化に取り組んでいる。摩擦熱を利用した粉砕乾燥技術とシキボウの消臭技術を組み合わせたスキームを構築しており、3年後をめどに実用化を目指す。

 独自に開発した粉砕摩擦乾燥装置を用いる。使用済み紙おむつを分別や洗浄することなく同装置に投入。処理物を粉砕する時の摩擦熱で一気に乾燥粉砕する。乾燥物をポリプロピレン樹脂などと複合してペレットを作り、プラスチック製品に再生する。

 乾燥する際などに発生する臭気を抑えるためにシキボウの「デオマジック」を利用する。香水のメカニズムを応用して生まれた消臭技術で、不快な臭いに「香り成分」を組み合わせて“良い香り”に変化させる。今回のリサイクルスキームには、シキボウの技術も重要な要素となる。サハシ特殊鋼によると、1キロの使用済み紙おむつを約2分で乾燥粉砕できると言う。

〈花王/大型の積層シート〉

 花王のスキンケア研究所、加工・プロセス開発研究所は、大型のシート状にファインファイバーを紡糸する技術を確立し、この技術を応用して、不織布にファインファイバーを吹き付けた2層構造の「ファインファイバー積層シート」を開発した。

 ファインファイバー膜の特性を保持しながら、高い強度と伸縮性を兼ね備え、広い面積や動きの大きい部位にも対応可能。これまで使用が難しかった用途への応用が期待される。

 2018年に直径1マイクロメートル以下の極細繊維を肌に吹き付け、極薄膜を形成する「ファインファイバーテクノロジー」を発表した。膜は柔軟で通気性があり、製剤を均一に広げる効果がある。一方で、従来法は凹凸部位や広範囲の適用が難しく、大型シート状での工業的生産技術の確立に取り組んでいた。

 今回の技術では、加熱で溶融し冷却で固化するポリプロピレン樹脂を用い、エレクトロスピニング法に風力を加えた独自の紡糸手法を開発。従来の100倍以上のファインファイバーを大量に生産できるようになった。