特集 環境(1)/それぞれの角度・視点で深化

2025年06月26日 (木曜日)

 サステイナビリティーを意識する繊維関連企業が増えてきた。繊維・ファッションが環境負荷の大きい産業と指摘される中、各社はそれぞれの視点・角度から取り組みを深化し、新たな製品・サービスが登場している。さまざまな連携も目立ってきた。サステの取り組みは着実に進展するが、欧州の規制への対応など、課題は尽きない。

 環境省によると、日本国内に供給されている衣料品のライフサイクルにおける水使用量は約83億立方㍍に達し、1着当たりに換算すると浴槽約11杯分になる。二酸化炭素(CO2)排出量は9千万~9500万トン。1着当たりでは500ミリリットルのペットボトルを約255本製造した分に相当するという。

 衣服の生産に大量の水が使われていることや温室効果ガス(GHG)排出量が多いことなどから国連貿易開発会議(UNCTAD)は、「ファッション産業は世界で第2位の汚染産業」(ワーストは石油産業)と指摘。ファイバーフラグメント(マイクロファイバー)による海洋汚染問題にも触れる。

 また、経済産業省が報告した繊維製品の資源循環の現状(2022年)を見ると、日本では年間79万8千トンの衣料品が新規に供給され、約73万トンの衣類が使用後に手放される。このうち、リユースや産業資材(自動車内装材、産業用ウエス)で活用されるのは約35%で、約65%が廃棄されている。

 他方でサステファッションへの消費者の関心は高まっている(環境省調査)。認知度は半数以上に上り、認知者の約7割が関心を示した。サステファッションの解決に必要なアクションでは「衣服処分時の回収のしやすさ」や「情報発信」が回答の上位に入った。

〈取り組む課題は山積〉

 こうした状況の中、衣料品を長く着るための補修サービスやリユース、アップサイクルなどは着実に進展している。とはいえ、将来的には古着ニーズが減少すると予想され、産業用途での需要増加も難しいとみられる。故衣料品廃棄量48万5千トンを削減するには新しい取り組みが不可欠となる。

 新たな取り組みの一つが、故衣料品を活用した繊維から繊維への水平リサイクル(繊維to繊維)だ。故衣料品の廃棄量削減のほか、原材料調達・廃棄で発生するCO2排出量の削減にもつながる。一方で、回収や複合品への対応など、多くの課題が残ったままと言える。

 衣料品の回収については、食品ロス・プラスチック削減などと比べると優先度が低いとされ、約4割(人口ベース)の自治体で衣料品の回収ができていない。また行政(神奈川県、東京都、静岡県)が回収した衣類のうち、リサイクルしやすい単一素材の割合は約27%にすぎない。

 副資材なども含めると、現状では衣料品のリサイクルは限定的なものにとどまる。こうした状況に対して、政府は繊維to繊維リサイクルの技術開発に関する補助金を検討しており、今夏にも予算化される見通し。補助金の規模は3桁億円になるという声も聞こえてくる。

 海外に目を向けると、米トランプ政権の発足で鈍化したといわれるものの、サステの大きな流れに変わりはない。欧州では「エコデザイン規則」によって衣料品廃棄禁止などの規制が進む。製品の履歴(どのような素材を用いて製造したかなど)を網羅的に記録するデジタルプロダクトパスポートの導入も始まる。

 日本の繊維企業にとってグローバル展開は大きなポイントであり、こうした海外の規制にも応じることが求められる。環境に配慮したかのように見せ掛けるグリーンウオッシュにも対しても目を向けなければならない。サステは環境だけでなく、人権も含まれており、国際的な人権基準への適合も不可欠になっている。

〈海外企業、異業種の取り組み〉

 日本では環境に関連するさまざまな展示会が開催されている。繊維企業の出展が目立つ展示会は多いが、最近は海外企業による環境対応が目を引くケースが増えた。繊維以外の産業がメインの展示会もあるが、異業種の打ち出しでも繊維業界で知られた技術が用いられている。

 24年春に東京都内で開催された日本最大級のファッション展示会「ファッションワールド東京」。その中の「サステナブルファッションEXPO」にタイパビリオンが設けられたが、来場者の関心を集めたのが、「地元」をキーワードにした環境対応だった。

 piyasilaは、ヘンプを使った生地・製品を製造する。タイ国内でのヘンプ栽培が解禁されて以降は、地域の集落内でヘンプを栽培し、繊維原料への加工、製織(100%手織り)、縫製まで一貫で手掛ける。染めも集落内で採取した植物などを染料に使う。

 NAT CRAFTは、地元の職人と連携し、縫製工程などで余った生地を天然の藍で染め上げ、生地や製品に仕上げる。一点物のため製造に時間はかかるが、日本のセレクトショップなどに提案。展示会でも良い商談ができたと言う。

 5月末に同じく東京都内で開催された「NEW環境展」は、繊維企業の姿は限定的だったが、繊維業界で知られた技術を応用して環境負荷低減に取り組む企業が少なくなかった。その一つが、サハシ特殊鋼(名古屋市港区)の紙おむつリサイクルだ。

 独自に開発した装置を用い、使用済み紙おむつを乾燥・粉砕。乾燥物を樹脂と複合してペレットを作り、プラスチック製品に再生する。乾燥時などで発生する臭いを抑えるため、シキボウの消臭技術「デオマジック」を用いている。