特集 環境(7)/社会要請に応える先進の取り組み/東レ・ライクラ/小松マテーレ/クラボウ
2025年06月26日 (木曜日)
〈高温下でも快適性追求/広がる「ジェットエアー」/クラボウ〉
ここ数年、夏季の高温化が進み、熱中症リスクの高まりが社会課題となっている。こうした環境下において、現場作業者向けに暑熱対策製品の需要が拡大しているが、設備や業種によってはこれらのウエアを着用できないケースもある。そうした場面で注目されているのが、高通気性を備えた素材であり、クラボウの「ジェットエアー」もその一つだ。
ジェットエアーは織構造と風合いに工夫を凝らし、通気性・軽量感・清涼感に加え、ストレッチ性を兼ね備えたポリエステル・綿混素材で、快適な着心地を実現。ポリウレタンを使用せずに15%以上の伸縮性を持たせている点も特徴だ。2025年3月期には売り上げが前期比でほぼ倍増し、今期もさらなる拡販を計画する。
また、ジェットエアーに他の機能素材を掛け合わせた展開も進む。モダクリル・綿混による防炎・帯電防止性素材「ブレバノ・プラス」との複合では、難燃性を持ちながら通気性を確保。IEC(国際電気標準会議)に対応した「エレアース」と組み合わせた素材も開発し、製造業や電力・インフラ関連など幅広い現場での採用が進む。
一方でユニフォーム用途では、環境配慮型素材を求める声が高まっている。クラボウは独自の開繊・反毛技術を活用した再資源化システム「ループラス」の展開も強化。トリドールホールディングスと連携し、うどんチェーン「丸亀製麺」の使用済みユニフォームを回収・再生し、新たな前掛けとして再活用する「つなぐ制服プロジェクト」を始める。
さらにリネンサプライ大手のワタキューセイモア(京都府井手町)とも協業し、患者衣の製造過程で生じる裁断片を再資源化。再び患者衣として製品化する取り組みも始めている。
〈繊維to繊維も準備/ラボ機で量産技術開発中/東レ・ライクラ〉
ザ・ライクラ・カンパニーと東レの合弁でポリウレタン弾性糸「ライクラ」を製造販売する東レ・ライクラは、ポリウレタン弾性糸の繊維to繊維リサイクルの実用化に向けた開発を進めている。また、バイオ由来原料を使用した糸の販売も始まった。
同社は2022年6月から「企業としての責任」「製造工程における環境負荷の低減」「未来を守る持続可能な開発」に取り組む「東レ・ライクラグリーンプロジェクト」を開始し、リサイクルや次工程の環境負荷低減を可能にする機能糸などのラインアップを拡充している。
現在、市場で普及するリサイクル繊維の多くは製造工程で発生する端材などを再利用するプレコンシューマー型だが、同社はサーキュラーエコノミーの実現には使用済み繊維製品を“繊維to繊維リサイクル”するポストコンシューマー型が不可欠と考えている。
このため23年度末に滋賀事業場(大津市)にラボ機を導入し回収した繊維製品を分解、複数の繊維素材からポリウレタン成分を取り出す技術開発を進めた。24年度からはラボ機を活用した実機テストで量産に向けた技術確立に取り組んでいる。
5月に開催された「サステナブルマテリアル展大阪」にも出展した。新規用途や新規開拓を狙いに既存商品を展示したが、環境配慮素材に関心が高い来場者に向けてポストコンシューマー型リサイクルの取り組みも紹介し、今後の実用化に向けたきっかけにしたいとする。
24年からバイオ由来原料を一部使用したポリウレタン弾性糸「ライクラT―926Cファイバー」の販売もスタートした。バイオ由来原料の使用だけでなく、ヒステリシス(伸縮時の応力差)を小さく抑えることで、着用時の快適性を向上させた。また、既存のソフトストレッチタイプと比較して約5℃低い温度で熱セットできるため、生地加工の際の使用電力量や二酸化炭素排出量の削減にも寄与する。
〈微生物で余剰汚泥をゼロに/処理費用など大きく削減/小松マテーレ〉
小松マテーレは排水処理で発生する余剰汚泥を微生物の力で低減する汚泥減容化バイオ製剤「ベリフォーマー」の提案に注力する。自社内での使用では、余剰汚泥をなくして処理に関わる費用やCO2排出量を大きく削減した。積み上げたノウハウを生かし、外部企業へのコンサルティング販売も開始している。
ベリフォーマーは、汚泥の原因となる死んだ微生物の固い殻を分解酵素で処理する。槽内の必要な生菌は殺さず死菌のみを分解し、汚泥総量を増やさず一定に保つ。特別な設備投資は不要で、投入から半年ほどで余剰汚泥をなくすことができると言う。
使用する微生物は複数種類あり、どれも納豆菌や乳酸菌などと同水準の安全性を確認している。有機汚泥であれば全てのケースに対応でき、工場ごとに異なる排水の特徴に応じてオーダーメードで供給する。剤を投入するだけでは効果が期待しにくく、適切な運転管理ができるようコンサルティングとセットで販売する。
まずは自社で効果を実証した。同社の1日の排水量は約2万5千トンで、以前は年間6千トンの余剰汚泥が発生していたが、ベリフォーマーに切り替えることでゼロにした。余剰汚泥をなくしたことで乾燥などのエネルギー使用もなくなり、CO2発生量600トンの削減につながった。処理費用も従来の年間1億5千万円から4千万円に減らしている。
自社での使用で積み上げたノウハウを生かし、外部への販売も始めている。採用実績はさまざまな業種に広がり、自治体(下水処理場)や繊維産業(天然繊維含む)のほか、化学工業、食品製造業、飲料製造業、医薬品製造業などでも使われている。
今後はより早く効果が出るようにするなどさらなる開発にも取り組み、海外市場も視野に入れて広げていく。