ごえんぼう
2025年07月02日 (水曜日)
「蚕が桑の葉を食むようなしゃわしゃわというこの音はしばらく終わりそうにもなかった」▼船戸与一著の小説『砂のクロニクル』で、イランのリヤル紙幣の札束を数える音を表現した一節だ。1991年に書籍化された作品だが、蚕が桑の葉を食べる音を読者がイメージできるという前提で使われていることがうかがわれる▼蚕が桑を食べる音は、蚕時雨(こしぐれ)とも言われた。食べる音が小雨の音のように聞こえたことからできた言葉とされる。暮らしの中で蚕がそれだけ身近にあったことの表われだろう▼大日本蚕糸会によると、戦後の国内繭生産は68年の121㌧がピークで、以降減少傾向が続き、2024年の国内養蚕農家数は134戸、繭生産量は38㌧。さらに繭生産量の約4分の3を70歳以上の養蚕農家が担い、70歳以上の養蚕農家の約85%に後継者がいない状況となっている。実感の乏しい言葉になりつつある。