Topインタビュー/クラレ 社長 川原 仁 氏/ワンクラレで100周年を/目標に向かって前進

2025年07月17日 (木曜日)

 クラレは、2026年度(26年12月期)を最終とする5カ年の中期経営計画に取り組んでいる。3年目の24年度連結業績は、過去最高の売上高を更新、営業利益も過去2番目を記録するなど好業績を確保し、中計最終年度の目標を上方修正した。川原仁社長は「世界経済は不透明感を増し、6月以降に業績への影響が出るかもしれない」としつつ、「目標に向かって確実に進んでいく」と強調した。26年には創立100周年を迎え、「ワンクラレとしての結束を強め、グループ全体で次に何をしていくのかを考える契機にしたい」と話した。

――現在の事業環境をどのように捉えていますか。

 今年も半分が経過しましたが、米トランプ関税の影響がじわじわと効いてきたと感じています。トランプ関税によるサプライチェーンの混乱は大きなインパクトがあります。ロシアによるウクライナ侵攻や中東問題をはじめとする地政学リスクなども世界経済にとって重荷になっています。

 年初の見通しでは、欧州は緩やかに回復すると予想し、中国も回復の方向に進むとみていました。実際には、欧州の景気は回復が遅れ、中国も不動産不況が続いて回復は想定ほどではありません。米国もインフレで個人消費が厳しい方向に進みつつあり、今年後半から厳しくなるかもしれません。

――クラレの事業への影響は。

 当社の場合、売上高全体の約25%を欧州が、20%強を米国が占めていますので、欧米の動向は無視できません。中国は、競争相手として企業の動きに注目しています。インドも政治などの複雑さが解消していけば将来的には市場として期待できますが、同時に競争相手にもなります。

 トランプ関税については、主力のビニルアセテートや活性炭など、米国で作り、米国で販売している事業には影響はないのですが、「ネガティブな要素ではない」程度と捉えています。それよりも報復関税などによる世界経済の変調の方が当社のビジネスに大きな影響を与えます。

――現在は5カ年の中計を推進中です。

 24年度までの3年間は順調に進展していると言えます。業績面では、24年度は過去最高の売上高を計上し、営業利益も過去2番目という高い水準でした。売上高は為替が円安に振れ、かさ上げされた部分があります。原燃料の高騰に関しても強い事業を中心に、販売価格の適正化で対応することができました。

 施策については、ビニルアセテートや活性炭、メディカル、イソプレンに経営資源を集中し、必要な設備投資も実施しています。その一方で、ピークを越え、将来的に拡大が見込めない事業は縮小・撤退を決断しました。これは今後も続けますが、事業ポートフォリオ高度化の道筋は付けることができました。

――中計では三つの挑戦を掲げましたが。

 「機会としてのサステナビリティ」「ネットワーキングから始めるイノベーション」「人と組織のトランスフォーメーション」です。三つとも進展したと認識しています。

 機会としてのサステナビリティでは、温室効果ガス排出量について、35年をターゲットにスコープ1、2で新たな排出量削減目標を設定し、スコープ3の目標も加えました。具体的な設備投資や技術開発はこれからの部分もありますが、50年のカーボンネットゼロに向けて進んでいきます。

 ネットワーキングから始めるイノベーションでは、イノベーションネットワーキングセンターを新設し、活動の成果も出ています。顧客とのネットワークや社内のネットワークによってこれまでとは違ったアプローチができています。米ベンチャー、ネルンボ社の買収にもつながりました。

 人と組織のトランスフォーメーションでも多くの取り組みがあります。例えば、M&A(企業の合併・買収)で新たに仲間になった社員を含め、人材の発掘・育成に力を入れています。来年には創立100周年を迎えます。ワンクラレとして結束を強め、次に何をするのか、グループ全体で考える契機とします。

――中計4年目の今期は。

 世界経済の不透明感が増しているのは事実ですので、6月以降の業績に若干影響が出てくるかもしれないと懸念しています。

 中計を見直した理由は、織り込んでいなかった事項が出てきたためです。機会としてのサステナビリティでチャレンジングな目標設定にしたのもそうですし、この数年で変化した社会的要請への対応もそうです。それに合わせて業績も上方修正を行いました。

――繊維事業の方向性は。

 昨年の不織布事業再構築に続いて、今年6月にポリエステル樹脂とポリエステル長繊維の生産終了を発表しました。両分野は、クラレトレーディングの縫製品や差別化品に絞ったビジネスが中心です。クラレトレーディングの縫製品はしっかりとした収益性を維持した事業ですので、外部調達に切り替えながらビジネスを続けていきます。

 繊維資材関連では、ポリビニルアルコール繊維「クラロン」「クラロンK―Ⅱ」、液晶ポリマー繊維「ベクトラン」、人工皮革「クラリーノ」、面ファスナー「マジックテープ」、ポリエステルわた、メルトブロー不織布などを展開しています。足元の状況は良くありませんが、一定の収益を確保して事業を続けます。

――クラレのけん引役はビニルアセテートセグメントが務める。

 ビニルアセテートは、強固なサプライチェーンを組んでグローバルに展開しており、収益獲得力を考えても当社ビジネスの中心です。活性炭についてもPFAS(有機フッ素化合物)規制で需要が拡大すると予想しています。

【略歴】

 かわはら・ひとし 1984年クラレ入社。2010年樹脂カンパニー企画管理部長、16年執行役員、18年常務執行役員ビニルアセテート樹脂カンパニー長、19年3月取締役などを経て、21年1月代表取締役社長就任

〈昭和時代の思い出/元気があった〉

 「昭和は元気な時代だった」と振り返る川原さん。バブル経済が崩壊する前であり、経済全体が成長を続ける中、「やればやるだけ成果が得られた。がむしゃらに働いた」と言う。時間を忘れて働くこともあったが、「その中で学ぶことも多かった」と話す。一方で自分の時間を持つことの大切さを説き、自身はウインドサーフィンを楽しんでいた。大阪・南にあったスポーツ店でボードやウエットスーツを購入し、「土、日は福井県高浜町や滋賀県の琵琶湖に出掛けていた」と話す。