特集 2025年夏季総合Ⅱ(4)/わが社の情熱/東レ/帝人フロンティア/東洋紡せんい/豊島
2025年07月29日 (火曜日)
〈東レ/複合紡糸技術と環境配慮融合〉
東レの複合紡糸技術「ナノデザイン」は、同社繊維事業をけん引する重要技術の一つ。2016年に「ユーティーエス フィット」を市場投入して以降、ナノデザインを駆使した素材が次々に誕生している。いずれも高い評価を得るが、さらなる成長のため環境配慮型タイプの開発を加速する。
ナノデザインは、繊維の断面を任意かつ高精度に制御する複合紡糸技術。繊維の成分や形をナノレベルでコントロールすることが可能なため、従来では難しかったさまざまな特徴を付与することができる。滑らかな風合いを持つユーティーエス フィットが先陣を切った。
その後、シルクのような光沢感を持つ「キナリ」、和紙のような風合いの「カミフ」などを打ち出した。ナノデザインと環境対応の融合では、PFAS(有機フッ素化合物)フリーで高い撥水(はっすい)性を持つ「デューエイト」、一部植物由来PET原料を使った「シルック美來」を開発した。
キナリとカミフも再生ポリエステルを使った原糸の開発を終え、ユーティーエス フィットなども再生ポリエステルへの置き換えを進める。環境配慮型は海外市場での拡大を念頭に置いており、26年度(27年3月期)から輸出を本格化する。
〈帝人フロンティア/新事業創出へ新組織発足〉
帝人フロンティアは今年4月、事業イノベーション本部を立ち上げた。新事業推進本部を改称・発足した組織で、同社既存事業や他社と連携を取りながらイノベーションの創出を目指す。傘下の事業開発部Bizデザイン課が新事業の探索やブランディング戦略を担う。
前身の新事業推進本部は2023年4月から新事業創出に取り組んできた。ただ、自己完結型の側面もあり、帝人フロンティアとしての強みが生かせない部分があった。そうした課題を解消しつつ、イノベーションを生み出す組織として事業イノベーション本部が新たに始動した。
さまざまなミッション・方針を立てているが、それらを体現する組織がBizデザイン課だ。新事業の種を見つけてビジネスモデルを構築する役割を担うほか、ブランディング戦略やフィジビリティースタディーまでを担当する。新ビジネスはセンシングと健康・美容領域を軸に探索する。
4月に4人体制(8月から5人体制)でスタートし、アイデア出しや市場調査を行っている段階。阿磨由美子課長は「優秀なメンバーが集まった。個々の強みを生かせる組織にしたい」とした上で、「今後2年ぐらいで新事業を立ち上げることができれば」と目標を話した。
〈東洋紡せんい/独自の紡績技術で産資開拓〉
東洋紡せんいは独自の紡績技術を生かし産業資材分野の開拓に取り組む。熱可塑性炭素繊維複合紡績糸「CfC yarn」、熱可塑性ガラス繊維複合紡績糸「GfC yarn」がそれに当たる。
CfC yarnは炭素繊維と熱可塑性を持つナイロン6繊維の3層構造糸からスタートした。芯部分のナイロン6長繊維を炭素繊維で覆い、さらにナイロン6短繊維を鞘部分に配した上でナイロン6長繊維が再度、糸全体をラップする。衣料用の3層構造糸「フィラシス」の技術を応用した。
複合紡績技術によって、熱可塑性樹脂の課題であった含侵性を高めることに成功。多彩な形状に成形しやすく、VF(繊維体積含有率)もコントロールできる特徴がある。熱可塑性樹脂は耐衝撃性・耐候性・低吸収性・寸法安定性・透明性に優れるポリカーボネート(PC)繊維使いも開発。PPS(ポリフェニレンサルファイド)使いも技術確立済みで、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)使いの開発も着手する。
同技術を応用したのが、GfC yarn。ガラス繊維と熱可塑性繊維にはポリプロピレンを組み合わせた。炭素繊維に比べ安価で、炭素繊維ほどの強度が不要な汎用(はんよう)分野を開拓する。
〈豊島/独自機能や特性持つ素材で〉
豊島は独自性の高い特性や機能を付与した素材を展開する。ファッションだけにとどまらず、スポーツ、インナー、寝具などに採用領域が広がる。特徴ある素材の供給で、生地や製品の価値向上に貢献する。
世界でも希少な製法で製糸した和紙糸「ワガミ」は複数の特徴に加えて環境配慮型素材としてもアピールする。均一にした薄い原紙を細かくテープ状にスリットしながら、スリット糸は巻き取らずに直接撚りを掛けるという技術で糸を作る。世界で一台だけの希少な機械で生産している。
特性は主に5種類で、吸水速乾性、消臭性、紫外線防止、接触冷感、軽量性を持ち合わせる。最近ではデニムのボトムに採用された。寝具向けにも使われる。
薬剤が自ら働き掛けて、抗菌防臭・制菌・消臭効果を発揮する加工「リピュール」は、実用衣料やスポーツウエアに使用実績が広がる。冷感、撥水(はっすい)、防汚などの機能も追加できる。メンズカジュアルのトップスにも採用例がある。
体から放射された遠赤外線を吸収し、輻射(ふくしゃ)効果で保温機能を高める繊維「フィルセラ」も訴求を強める。防寒着の中わたやリカバリーウエアの素材としても使われる。素材特性を生かしたレッグウエアにも引き合いがある。