特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(1)/利は川上にあり/商工一丸で難局打破

2025年07月30日 (水曜日)

 衣料品を作るのに欠かせないのが生地。衣料品に限らず寝装や生活・産業資材など多様な分野で生地は使われている。それを生産するのが、全国に点在するテキスタイル産地や染色加工場だ。

 「どれだけ時代が変化しようとも人間は服を着る」との指摘があるにも関わらず、日本のテキスタイル産地の生産数量は減少の一途をたどる。少子化による市場縮小や海外への生産シフトが止まらないことがその理由だ。

 播州織産地は2020年に大きく生産量を減らして以降、下げ止まりの兆しがない。18年に2500万平方メートルを超えていた年間生産数量は、25年には1千万平方メートルを割ることが確実視されている。

 北陸産地の織物生産は他産地に比べて堅調だが、用途や素材による好不調の波は激しくなっており、景況感はまだら模様。染色加工のスペースも、いよいよ海外加工の検討が進んでいるとの指摘もある。

 三備産地のデニム生産数量は昨年、今年と堅調だ。ただ、17年に4千万平方メートルを超えていた年間生産数量は、24年には2600万平方メートルに減っており、漸減傾向は顕著だ。

 尾州産地も苦境にあえぐ。軽装化によるウール製スーツ需要の減退や暖冬によってウールコートの需要が激減したことなどが強く影響している。今年2月には産地を代表する織布工場の一角を占めていた鈴憲毛織(愛知県一宮市)が民事再生法を申請した。

 高島産地は高島織物工業協同組合としてサイジング事業を運営しているが、足元の稼働が芳しくない。産地内織布工場からのサイジング依頼が減っているためだ。受注堅調な織布工場も存在するが、全体のムードは良くない。

 三河産地では糸染めの藤浜染工(愛知県蒲郡市)が6月末で廃業した。価格改定が進まず利益を出せない状況にあったことが理由だった。これにより同産地から糸染め工程が消滅した。

 日本の繊維生産は分業で成り立っているため、一つの工程が消えるとたちまちボトルネックが発生する。「サイジング工程が産地から消えた」といった“刃こぼれ”の事例は枚挙に暇(いとま)がない。

 一方、こうした現状に危機感を持ち、産地への直接的な設備投資に踏み切る商社も現れ始めた。蝶理は北陸産地の協力工場に今春、ピン仮撚り機を導入した。「安定した生産体制を作っていく」必要性に迫られた上での決断だ。

 スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)は、尾州産地の小塚毛織(愛知県一宮市)と旧式シャトル織布工場のカナーレジャパン(同)を、北陸産地のシモムラ(石川県小松市)と糸加工のWS(同宝達志水町)をそれぞれ合弁で新設した。これまでは「当社は商社。メーカー機能を持つつもりはない」との考えを示していたが、自ら資本を投じてでも産地機能を維持させるべきとの方針に切り替えた。

 生地商社の宇仁繊維(大阪市中央区)は播州織産地や北陸産地の提携工場に、自ら購入したジャカード織機を貸与しており、子会社にはハクサンケミカル(石川県白山市)という染色加工場も保有する。「日本で売られる繊維製品の縫製はほとんど海外だが、生地ぐらいは日本で作りたい」との思いがある。

 産地企業は零細規模の事業所が多く、大手商社や素材メーカーなどと比べて資金力にも乏しい。そのため、設備投資もなかなか進まず、開発力や生産力は衰え、諸外国との競争に勝てなくなる。

 他方、「産地のモノ作りの現場を見たい。それをストーリー化して製品を売っていきたい」といった声を上げ、産地工場に足を運ぶアパレルが増えている。生地商社らによるテキスタイルの海外販路開拓も進展している。「生地は日本製」というタグを付けたがる海外アパレルもいる。国内外で「日本製生地」は高く評価されている。

 商社やアパレルの多くが「日本で生地が作れなくなると当社にとってもまずい」との危機感を高めている。従って今後、有形・無形の商工連携が増えていくのは間違いなさそう。「時既に遅し」になる前に、危機感の打破を行動で示すべきだ。

〈産地に人が集まる所を/玉木新雌〉

 玉木新雌(兵庫県西脇市)が、播州織産地に人が集まる仕掛け作りを始めた。顧客が滞在できる場を作ることで、ブランド「タマキニイメ」の目指すモノ作りや世界観を顧客が体感できるようにして伝える。

 8月9日開業の「新雌邸」を皮切りに、23日には繊維や染料の原料となる植物を育てる「新雌の森」を、その後、玉木新雌の“きもちいい”を集めた宿泊施設「新雌の家」、さらに天然温泉宿「新雌の湯」を設ける。全施設を年内に開業する予定だ。

 新雌邸は、景観形成重要建造物である岡澤薰郎氏の旧宅を憩いの場として改装した。今後、玉木新雌本社の工房見学も含め全ての同社施設、現場は満月、新月の日に公開、利用できるようにする。

 古来、人間が月の満ち欠けを生活の暦に使っていたことにちなむ。新雌邸は同社ならではのイベントを開いたり、ファンやスタッフが語り合う公民館のような場にする。

 こうした施設を設ける背景には、2020年以降、同社本社が西脇観光ツアーに組み込まれたり、工房を遠方から見学に来る顧客が増えたことがある。

 玉木新雌代表は「これまで顧客をもてなして一緒に語り合う場がずっと欲しいと考えていた。宿泊場所が少ない西脇市に人がとどまる新たな場を作ることは地域経済にもプラスの影響があるはず」と話している。