特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(3)/商社編/多種多様な取り組みで/蝶理/一村産業/旭化成アドバンス/豊島/瀧定名古屋/ヤギ/スタイレム瀧定大阪
2025年07月30日 (水曜日)
〈各段階で取り組み強化/蝶理〉
蝶理は北陸産地との取り組みをさらに強化する。独自の差別化糸販売を伸ばすとともに、テキスタイルの強化や産地の生地を製品につなげる展開にも力を入れる。
糸から生地、製品まで一貫展開する強みを生かし、各段階での取り組みを強化する。産地との取引拡大では、特に「プロダクトアウトとマーケットインの融合」による開発を重視。糸とテキスタイルの部署が連携して開発を進める素材イノベーションチーム(MIT)のほか、製品事業部内にも素材開発チームを置いて素材開発を強化している。産地品の出口づくりでは、製品の顧客を産地に連れていく機会も増やしている。
糸販売では差別化糸の比率が半分を超え、足元も高伸縮糸「テックスブリッド」やピン仮撚り糸「SPX」、機能紡績糸「スパンラボ」などが堅調に推移する。さらなる拡販に向け、設備投資も行う。
SPXでは、北陸の協力工場にピン仮撚り機を導入し、今夏に稼働させる。量産機2台のほか、開発用の試験機も導入する。試験機を活用して開発のスピードをさらに上げる考え。
〈モノ作りを改めて見直す/一村産業〉
一村産業の繊維事業の4~6月は、前年比増収で売上高総利益率も向上した。ユニフォーム用途がけん引役で、新商品の打ち出しなどが奏功した。
ユニフォームでは、特に高伸縮素材「ラクストリーマ」をベースにした高通気素材「アミド」が好調で、4月に生機を積み増したことも奏功した。例年だと7~9月は端境期になるが、今年は来春夏向けが前倒しで動くなど堅調が続いている。
ポリエステル短繊維事業(紡績糸・織物)は、中東向けが引き続き堅調に推移した。ポリエステル紡績糸の強みを生かした多角展開も進み、「クアトロセブン」が展開アイテムを広げて順調に伸びている。
今後の産地との取り組みでは、糸や生機の安定供給をポイントに挙げるほか、グローバル展開の強みを生かした糸の紹介などにも力を入れる。産地貢献として、北陸から出る繊維くずを引き取って再利用する取り組みも始める予定。
産地企業との取り組みを深化して効率化や高付加価値化につなげる考えで、染色加工場との定期会議も始めている。互いの視点から意見を出し合いながらモノ作りを改めて見直し、最適な商品を創り上げていく。
〈アウトドア用が好調/旭化成アドバンス〉
旭化成アドバンスの衣料繊維の4~6月は、全体として低調な中でもアウトドア用途が好調に推移した。ファッションアウターも「ベンベルグ」使いを中心に堅調で、産地への発注量を増やしていく。
足元では学販ニットなど苦戦する用途がある一方で、アウトドア用途は好調を持続している。薄地高密度織物を中心に好調で、織布スペースは既に12月まで押さえ、さらにその先も視野に入れている。受注が好調な中、4~6月は染色加工のスペースが逼迫(ひっぱく)したことで出荷が滞った部分もあった。今後は染工場との取り組みを強化しながら対応策を探る。
下半期は、ベンベルグ使いの裏地やアウター用途も生産量を増やして拡販につなげる。市場環境が厳しい中でもベンベルグのアウター用生地は堅調に推移しているためで、特にフィブリルタイプの丸編みが伸びている。ベンベルグの糸の生産量が上がってきたことから、裏地も休止していた品番を再開するなど生産量を増やしていく計画。
一方でジアセテート繊維「ナイア」は、動きが鈍化している。
〈産地協業と“川下戦略”推進/豊島〉
豊島は国内産地企業との協業を重視し、高付加価値で差別化した素材の供給に注力する。産地に原料や糸を販売するだけでなく、共に開発しながら国内外へ生地を販売する“川下戦略”を推進していく。
主に取り組みを深めるのが合繊を軸とした北陸、ウールが中心の尾州、デニムを生産する三備だ。丸編み地を得意とする和歌山との協業も進む。
独自に手掛ける原料・原糸を使用し、付加価値の高い生地を開発・販売する。他社にない技術で和紙を糸にした「WAGAMI」(ワガミ)や、軽さや耐切創性、耐摩擦性を持つ高強力ポリエチレン繊維「Dyneema」(ダイニーマ)などの特徴や優位性を生かしたモノ作りも広げる。
今後は新たに開発する糸を中心に素材のブランディングを強化し、認知度向上を図る。原料・原糸を扱う一部・二部と生地を扱う三部、遠州産地と協業する十部との連携を強化し、素材部門全体で取り組む。
課題は納期対応だ。原料・原糸・生機を適切に備蓄する。販売先との情報共有が鍵だとし、細かく対応を図る。
〈自家生産で多彩な生地開発/瀧定名古屋〉
瀧定名古屋(名古屋市中区)の婦人服地32課は、自家生産で開発した多彩な生地を提案している。尾州産地で素材からのモノ作りをすることで高い品質と独自性を実現。サステイナビリティーを意識した生地もそろえる。
メーカー機能強化の一環として、2015年から自家生産を進めてきた。社内の原料素材部と連携しながら、尾州の産地企業と協業し紡績や撚糸、織布、整理加工などを手掛け、オリジナルの生地を作り上げる。
梳毛を中心に60品番の生地を備蓄販売する。売り先は主に国内セレクトショップ向けで、同課の中での売上高比率は2割弱となっており、一本の柱として成長しつつある。最近ではサステ生地の提案・開発に力を入れる。
バイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)による人工たんぱく質繊維「ブリュード・プロテイン」使いでは、リネンやウール、和紙などと組み合わせた。織物で6品番そろえ、ハイゾーン向けに提案を加速する。
新たな生地の開発も進める。再生ウール100%の生地「knot the wool」(ノット ザ ウール)を来年秋冬向けに販売する計画だ。10月の婦人服地部の展示会でお披露目する。コートやジャケット向けに3~4品番展開する。
同課の中で自家生産に携わる人員は3人。尾州産地や素材への知識が豊富な20~50代がそろう。
〈糸・生地で北陸産地と深耕/ヤギ〉
ヤギは、環境配慮と機能性にこだわった素材ブランド「UNITO」(ユナ・イト)の拡販に努めている。付加価値化実現に寄与するのが、北陸産地企業との取り組みだ。
同ブランドは五つの種類で展開するが、中でも北陸産地の糸加工技術と再生原料使いの融合によって付加価値化を図ったのが、「ユナ・イト ポリエステル」と「ユナ・イト ナイロン」だ。
ユナ・イト ポリエステルではリネン調、ウール調、カバーリング、DTYなど21品種を展開中で、ユナ・イト ナイロンではDTY、FDY、カバーリングなど7品種をそろえる。いずれも別注品番と備蓄品番に分けて展開する。今後も北陸産地の糸加工場が持つ職人技と融合しながら品種拡大を図っていく。
社内生地部門との連携によりこのほど、五つのユナ・イトブランドそれぞれで18種、計90種の見本生地を作った。展示会などでの評価を参考にしつつ絞り込みや改良を行い、生地でも備蓄販売体制を整えていく。
同社は歴史的に織物よりも丸編み地を得意とするが、北陸産地や海外などで織物を生産するスキームも強化する。
これらユナ・イト糸を使った織り・編み地を9月に出展を予定する国際素材見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ」で大々的に披露して拡販を達成し、それを産地への発注量拡大につなげていく。
〈「ならでは」の開発を追求/スタイレム瀧定大阪〉
スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)は「深いサプライチェーンを作っていく」(西山伸一常務)とし、今期(2026年1月期)から服地の国内向け販売部門を組織改正した。グループでの動きを強めることでサプライチェーンのさらなる深耕を図るとともに、差別化開発を改めて強化していく。
同社は近年、「国内重要仕入れ先との取り組み深化」をテーマに掲げており、各産地の織り・編み工場や染色加工場との協業を進めている。そのためにはまとまった発注量が必要になる。一つの課で発注するのではなく、グループで発注することで量がまとまる。それが組織改正の狙いの一つだ。
一方、一部の製品OEMの課を服地部門の直轄に加えたのは、服地から製品までの一貫提案を加速させるため。「最終製品で納めてほしい」という国内外顧客からの要望に対応する。
日本のモノ作りについては「ならでは」重視の姿勢を鮮明にする。尾州に旧式シャトル織布工場のカナーレジャパン、北陸に糸加工のWSを、それぞれ産地企業との合弁で新設したのもこの姿勢を具現化したものだ。
西山常務によれば、「産地や工場現場を見たいというアパレルが国内外で増えている」。同社もこの流れを歓迎し、モノ作りに精通する人材の育成に改めて力を注ぎ始めた。仕入れ先に若手社員を研修に出す取り組みを昨年から始めたのは「工を重視する」という方針に基づくものだ。