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ペルチェ式ウエア市場/価格帯は二極化傾向か/品質のばらつきに課題

2025年08月06日 (水曜日)

 関心が高まっているペルチェ素子式冷却ウエア。今季は、連日の猛暑と企業への熱中症対策義務化が追い風となり市場の裾野が一気に広がった。この勢いを来季につなげることができるのか。課題と今後の可能性を探った。(甘利昌史)

 生産、流通いずれにおいても活況を呈している。繊維専門商社の豊島は、猛暑対策アイテム提案強化の一環でペルチェ式ウエアに注力。大手販売店への今季納入実績を足掛かりに、来季は受注規模を大幅に拡大させる考えだ。ウエアは自社生産しており、デバイスは仕入れで対応。商社ならではの幅広い調達網を生かして顧客の要望に応える。

 ペルチェ式ウエアOEMのリブレ(名古屋市中区)は、売り上げの7~8割を占める暑熱対策アイテムの来季向け受注が好調に推移しており、2026年3月期売上高は前期比1・5倍超となる22~25億円を見込む。冷却効果をさらに高めたいというニーズに応えるため、デバイス数を従来の3個から4~7個に増やしたり、電動ファン(EF)や水冷などとの複合型、バッテリーの強化など、製品ラインアップを拡充する。首元からウエア内に冷風を吹き入れるペルチェ式クーラーウエアの投入も予定する。

 流通面においては期初の販売計画を前倒しで達成するケースが出始めている。大手ではワークマンが10万点、ニッケグループのサンコーは4万点をそれぞれ7月中に完売した。

 一方、ペルチェ式ウエアの要となるペルチェ素子開発メーカーは、現在の動向をどのように見ているのか。ペルチェ素子製造販売のジーマックス(東京都港区)は「市場はこの先2、3年かけて拡大し、製品価格帯の二極化が進むだろう」と予測する。

 ペルチェ素子は、日系と中華系メーカーでは単価に倍以上の差があり、当然最終製品の価格、品質にも相応の開きが出てくる。低品質のペルチェ素子を採用した場合、1、2シーズンで経年劣化が始まり冷却効果を得られなくなるケースもある。価格を優先したいユーザーと、高価格でも品質が良い製品を求めたい層のそれぞれに合わせた製品開発に移行していく可能性は十分ある。

 また、昨季から今季にかけてペルチェ式デバイスの冷却効果を疑問視する声が少なからずあった。その点についてジーマックスは「ペルチェ素子の性能が最大限生かされていない可能性もある。デバイスの構造設計に改良の余地があるのではないか」と指摘する。ウエアに装着するという限定条件下で、ヒートシンクの表面積拡大や排熱ファン機能、ウエア形状、デバイスの配置箇所など、全体的なバランスを考慮しながら性能を向上させていくことが重要と言う。

 バッテリーの電圧強化も一つの手段だが、冷却効果を得られる半面、デバイスも発熱するため、効率的な排熱機構が必要となる。さらにデバイスのプレート表面の冷却温度は環境温度からマイナス40℃程が限界とされ、肌に接触した場合などの安全面に配慮した設計が求められる。バッテリー容量の拡大は、サイズ、重量の問題を乗り越えられれば、ペルチェデバイスの駆動時間延長やEFウエアなどとの複合型の普及に有用となるだろう。

 今季は企業の熱中症対策義務化という特需の恩恵が大きかった。来季に向け今回の特需分をカバーし、上回るためには、さらなる認知度の向上が欠かせない。