特集 安心・安全(5)/高強度/これからの社会・産業を支える/クラレ/大和紡績
2025年08月06日 (水曜日)
高強度繊維は、これからの産業や社会インフラを支える上で、ますます重要な存在となりつつある。労働安全や防護用途に加え、耐震・補強材といったインフラ分野、さらには優れた強度と耐久性による製品寿命の延長によって、サステイナブルな社会の実現にも貢献。高強度繊維はより身近な存在へと進化しつつある。
〈「ベクトラン」用途開拓/難燃ビニロンを海外に/クラレ〉
クラレは、高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」や「ビニロン」など独自性の強い素材を強みに、産業資材を中心に高い評価を得てきた。さらに最近では衣料用途への提案にも力を入れ、用途開拓に努めている。
ベクトランは2025年度(12月期)から生産能力を20%増強した。太線度糸を中心にスリングや船舶用ロープ用途を中心に堅調な販売が続いており、生産能力増強分も順調に立ち上がっている。
さらに新規用途開拓にも力を入れる。特に注目するのが洋上風力発電設備で使用される係留索。需要の拡大が期待できることから、必要な物性や機能の確立に向けて大学など研究機関と共同研究を実施している。
また、細繊度糸でアウトドア向けリップストップ生地といった用途への提案にも力を入れる。鞘部分にポリアリレート以外の樹脂を配置することで染色可能な芯鞘タイプも開発し、意匠性への対応力も高めた。
もう一つ、同社を代表する素材がビニロン。コンクリート補強材など建材用途で高いシェアがあるが、難燃繊維としても国内では官需を中心に豊富な実績を持つ。これを生かし、海外市場でも難燃ユニフォームや一般衣料に向けた提案に取り組む。海外ではほとんど普及していない繊維のため、親水性などビニロンの特性を打ち出すことで新規素材として、また着心地の向上にも貢献する難燃繊維として訴求する。
原着タイプも開発し、これまで原着の難燃繊維を使用していた需要家が、既存の製造ラインを使ってスムーズに難燃ビニロンを採用できるようにした。こうした取り組みを通じて海外での市場開拓を目指す。
〈拡販進む「マーキュリー」/コンクリート補強材で/大和紡績〉
コンクリートは現代の都市基盤を支える一方で、劣化やCO2排出など多くの課題を抱える。こうした中、大和紡績が展開するセメント用ポリプロピレン(PP)短繊維「マーキュリー」は、その解決策として建設業界で注目されつつある。
マーキュリーは1990年代、石綿(アスベスト)の代替材として登場。屋根材や壁材用のセメントボード、左官材料などに使われてきた。繊維が細く短く、セメント中に均一に分散しやすい特性を持つことから、ひび割れ抑制や高強度コンクリートの補強材としても需要を広げている。
特に高層ビルの柱や梁に使われる高強度コンクリートでは、火災時に内部圧力が急上昇して爆裂する危険性がある。マーキュリーはこの爆裂リスクを抑える効果があり、高層建築向けの補強材分野で「高いシェアを維持している」と言う。
近年は、断面が十字形の高機能品「マーキュリーC」の販売も好調だ。2023年度比で販売量は倍増している。特殊な断面によりセメントとの付着性が高く、のり面への吹き付け工事では張り付き性が向上。従来課題とされていたリバウンドを抑え、材料費や清掃・廃棄コストの削減にもつながる。
ひび割れ部分に炭酸カルシウムを析出して閉塞させる自己補修機能も持つ。軽量かつ少量配合で効果を発揮し、インフラの長寿命化とメンテナンス負担の軽減に寄与できる。