特集 安心・安全(6)/東レの防護服「リブモア」/熱中症対策で注目高まる
2025年08月06日 (水曜日)
東レの新タイプ使い切り防護服「リブモア」への注目が高まっている。2018年の本格発売以来、VOC(ボイス・オブ・カスタマー)に基づく開発と改良を続けたことでユーザーの間での支持が高まる。特に近年は、夏の猛暑を背景に熱中症予防対策にも適合する防護服として、注目が急速に高まっている。
〈防護性と通気性を両立/「トレミクロン」で機能実現〉
有害な粉じんなどから作業者を守る防護服は、製造、メンテナンス、食品加工、ペイント作業、建設、アスベスト対策、ダイオキシン対策などさまざまな現場で広く使用されており、フラッシュスパン不織布やフィルムラミネート不織布などを使用した防護服が高いシェアを持つ。ただ、これらの不織布は気密性に優れる一方で通気性がないため、例えば夏季の高温多湿な環境下では防護服内の温度が上昇し、汗による蒸れなどで着用者の肉体的負担が大きいといった課題があった。
防護服に求められる性能は、日本産業規格(JIS)によってタイプ1(気密服)、タイプ2(陽圧服)、タイプ3(液体防護用密閉服)、タイプ4(スプレー防護用密閉服)、タイプ5(浮遊固体粉じん防護用密閉服)、タイプ6(ミスト防護用密閉服)に分けられているが、このうちタイプ1からタイプ3に関しては物理的な気密性や密閉性が必要なことからフラッシュスパン不織布や特殊フィルムラミネート製の防護服などが不可欠と考えられる一方、タイプ4からタイプ6に関しては、JIS規格が定める防護性能を確保した上で、通気性など着用者の負担を軽減する機能が求められていた。
こうした要望を受けて東レが開発した防護服がリブモアだ。衣服内に有害な物質が侵入するのを防ぐ防護性と、高い通気性を両立した。これを実現したのが東レの特殊不織布「トレミクロン」。極細ポリプロピレン不織布を特殊な方法でエレクトレット(電石)化したもので、フィルター用途で豊富な実績がある。
リブモア高通気タイプは、トレミクロンをスパンボンド不織布で挟み込み帯電層とすることで空気を通しながら粉じんなどは帯電層が吸着して衣服内に侵入するのを防ぐ。これによって粉じんなどに対する防護と、衣服外から空気を通し、衣服内の湿気などを衣服外に逃がす通気性が両立することになり、高温多湿環境下での作業者の負担を軽減する。
さらに特殊耐水層を挟み込んだ耐水圧タイプも開発した。こちらは耐水性と通気性を両立しており、廃棄物処理場や製造設備の定期修繕作業など耐水圧を必要とする作業現場で使用することができる。
リブモアは現在、高通気ハイスペックタイプ「3000」(JIS規格防護服タイプ5適合)、高通気スタンダードタイプ「2000」(同)、耐水圧高機能タイプ「4000AS」(タイプ5、6適合)、同シームテープ付き「4500AS」(タイプ4、5、6適合)、耐水圧スタンダートタイプ「1000AS」(タイプ5、6適合)、さらに油汚れが付きやすい部分にフィルム積層不織布を使った耐水・耐油タイプ「4300AS」をラインアップする。
〈WBGT基準順守に貢献/作業の安全性と効率性を高める〉
ここに来て急速に注目が高まっているのが、リブモアの“熱中症予防対策”としての側面だ。厚生労働省が定める労働安全衛生規則が改正され、6月1日から施行されたことが背景にある。改正労働安全衛生規則では、事業者は熱中症予防対策の体制整備、手順作成、関係者への周知が義務付けられた。
対象となる「熱中症の恐れのある作業」の基準として「WBGT値(暑さ指数)28以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれるもの」と規定する。このため、熱中症予防には、作業環境のWBGT値を下げることが重要になる。防護服を使用する作業の場合、ポイントになるが「着衣補正値」の存在だ。
防護服は作業着の上に重ねて着用するため、労働安全衛生規則は作業現場で測定したWBGT値に着衣補正値を加算することを定めている。例えば「単層のポリオレフィン系不織布製のつなぎ服」を使用する場合は+2、「フードなしの単層の不透湿つなぎ服」にいたっては+10の着衣補正値が加えられる。このため防護服を使用する作業でWBGT値を下げるのは容易ではなく、熱中症予防対策のハードルが高い。
これに対してリブモアの高通気タイプと耐水圧タイプは、ともに「単層のSMS不織布製のつなぎ服」に分類されるため着衣補正値がゼロ。重ね着してもWBGT値が加算されない。実際に通気性の高さから熱中症予防に効果が期待できることに加え、労働安全衛生管理上の規制の順守にも貢献する。
このためリブモアに対する注目が急激に高まっており、採用に向けた動きが強まった。東レは現在、リブモアの試供品を無料で提供する「お試しサンプルキャンペーン」を実施しており、実際に作業現場での試用を経て採用が決まるケースも多い。リブモア着用を社内の業務規定に組み込む企業も出てきた。熱中症予防は労働安全衛生管理の重要事項だけに、今後もリブモアの採用拡大が期待される。
〈VOCを生かす/目指すは防護服の“代名詞”〉
リブモアの提案を通じてVOCを開発に生かすことにも力を入れている。耐水・耐油タイプの開発もその一例だ。油汚れが付きやすい作業現場のユーザーの声を生かし、着用試験などを繰り返すことで汚れが付きやすい部位を特定し、そこに耐油素材を使用することで通気性を損なわずに耐油性を高めるアイデアが生まれた。
現在もさまざまなVOCが寄せられている。例えば電動ファン付きウエアやフルハーネスタイプ安全帯との併用といった要望がある。こうしたニーズを実現するための製品仕様の改良や付属品の開発などに取り組んでいる。
動画などを積極的に活用し、機能を可視化したプロモーションを進めている。こうした取り組みを通じて、リブモアの“ファン”を増やすことを目指す。リブモアが、熱中症予防対策に貢献する防護服の代名詞となることを目指す。