米国関税政策と合繊メーカー/影響、いまだ見通せず/価格転嫁も重要に
2025年08月18日 (月曜日)
米国による追加関税措置が7日から施行された。日米間で一時は関税率を一律15%に引き下げることで合意したと発表されたが、両国それぞれの認識に齟齬(そご)があったもようで、依然として税率引き下げの実行の有無や時期が不明確だ。こうした中、合繊メーカーも対応に苦慮しており、影響を明確に見通しにくい状態が続いている。(宇治光洋)
関税の影響が具体的に見通せない中、ある程度の影響を暫定的に想定し、業績見通しなどに織り込む企業も少なくない。
東レは、2025年度(26年3月期)に関税の影響として売上収益400億円、事業利益150億円の減少を業績予想にそれぞれ織り込んでいたが、4~6月期終了時点でも当初予想を据え置いた。関税による需要減退を想定した結果だ。
旭化成は当初、25年度は関税の影響で約180億円のコストアップになると想定していたが、4~6月は大きな影響が出なかったため、7月から来年3月の9カ月間で約100億円のコストアップになるとの見通しを示す。影響が本格化するであろう7月以降は仕入先変更などの措置を取る。
米国の関税による影響は、対米輸出の競争力低下だけでなく、米国での調達コスト増加に結び付くことも無視できない。一般的に関税を負担するのは米国の輸入企業だが、日本で生産した原材料を米国子会社が輸入し、加工・販売するケースも多く、その場合はグループで関税負担の全てを負う形となるためだ。
例えば帝人は、日本で生産した炭素繊維のプリカーサーなどを米国法人が輸入し、加工・販売している。このため関税負担分を販売価格に転嫁することで収益への悪影響を最小限に抑える考えだ。旭化成も米国に拠点を持つカーインテリア事業が、一部資材を米国外から調達しているため、やはり価格転嫁を進める構えだ。
各社とも可能な限りの対応策を進めているが、米国の関税政策の影響の全体像を見通すのが難しい状態だ。米国政府に対する政策予見性が著しく低下していることも対応を難しくしている。
また、先行き不透明感から需要家が調達を手控える動きや、逆に関税施行前に駆け込みで発注するといったケースもさまざまな分野で発生しており、4~6月は想定外の荷動きとなった商品も多い。こうした商品の販売は今後、反動が生じる可能性が高く、これも事業計画の不確実要因となりそうだ。
日米の関税交渉の最終的な着地点も不透明な中、もうしばらくは事業への影響を見極める状態が続きそうだ。