特集 差別化ヤーン/次世代の需要に応え、新たな市場をひらく糸/シキボウ/豊島/東洋紡せんい
2025年09月04日 (木曜日)
不要になった服の廃棄が社会課題として注目され、若者を中心に、買うことより「使い続けること」に価値を置く動きが広がっている。そんな価値観に寄り添うのが、持続可能性と独自性を兼ね備えた差別化ヤーンである。
〈フェアトレード綿糸普及へ/Tシャツ販売で認知拡大/シキボウ〉
シキボウは、国際フェアトレードラベル機構が認証したフェアトレード綿を8%以上使用する糸「コットン∞」(コットンエイト)の普及に力を入れている。糸の拡販に加え、今期(2026年3月期)からTシャツ販売にも乗り出し、消費者への認知拡大を図る。
コットン∞は豊田通商や信友と連携して展開し、青山商事の紳士シャツやサンエス(広島県福山市)のワークウエアに採用されている。価格が割高なフェアトレード綿の混率を8%に抑えることで導入しやすさを確保。「採用事例を増やし、最終的な使用量の拡大につなげる」
昨秋からは業務提携するファッションブランド「アンリアレイジ」と協業し、Tシャツブランド『EMP「」Y』(エンプティ)を立ち上げた。コットン∞を用いた黒・白2色の無地Tシャツを展開し、「何にでもなれるTシャツ」をコンセプトに、プリントや刺しゅうの加工がしやすい仕様とした。
展示会ノベルティーなど企業向けを中心に提案を進め、SDGs(持続可能な開発目標)に共感する企業から支持を集めている。ラジオや音楽業界での採用も広がり、認知度は着実に浸透してきた。
消費者への認知度向上を目的に、アンリアレイジのグループ会社AZ(東京都港区)のサイトで一般販売も開始。グラフィックプリント入りのラインも加え、普及を後押しする。
糸と製品の両面から市場に訴求し、フェアトレード綿の浸透と持続可能な取り組みを広げる。
〈機能付与型の合繊糸訴求/着心地・衣服内環境を快適に/豊島〉
豊島は綿糸だけでなく、合成繊維を原料とした糸や天然繊維との複合糸などもそろえる。中でも訴求を強めるのが合成繊維製で伸縮性や気化熱冷却といった機能性付与型の差別化糸だ。着心地や衣服内環境を快適にする糸で販路開拓を進めている。
伸縮性や弾力性を持つナイロン糸として「AXTEX N100」(アクシテックス N100)を開発した。特殊な製法により、ストレッチ性をもたらす。石油製由来原料だけでなく、植物由来原料のナイロンを複合することで、環境に配慮した素材としても打ち出しを強める。柔軟性と接触冷感機能も備わる。
気化熱冷却ポリエステル糸「EVERCOOL」(エバークール)も引き合いが増えそうだ。再生PET原料を親水性のある原料に改質し、水分含有率を高める。異形断面により、軽量化と吸水速乾性を両立する。
アクシテックス N100やエバークールは、長期化する高温期に求められる冷感機能を持つだけでなく、衣類にした際の着心地の良さも兼ね備える。カジュアル衣料だけでなく、スポーツやインナー向けなどさまざまな生活シーンへの使用に適している。
豊島は合繊糸のブランディング強化も急ピッチで進行中だ。販売先への訴求を軸に、製品部門やプロモーションをつかさどる営業企画室との連携を深めて、多角的にアピールを図る。
〈天然繊維の課題克服/「マナード」技術を活用/東洋紡せんい〉
東洋紡せんいは、独自の長短複合紡績糸「マナード」の技術を応用し、天然繊維と合繊長繊維の利点を融合した「ネイチャーブリッジマナード」を打ち出す。
近年、スポーツウエアやスポーティーカジュアルウエアの分野では、綿やシルク、リネン、ウールなど高級天然繊維をラグジュアリーゾーンに使用したいというニーズが高まる。一方、天然繊維は合繊と比べて強度やイージーケア性などで課題も少なくない。
この問題を解決するのが、マナードで豊富な実績を持つ同社独自の長短複合紡績技術。短繊維と長繊維を均一に配置した複合紡績が可能で、天然繊維と合繊それぞれの特性や利点を高バランスに融合することができる。
これを活用して開発したのがネイチャーブリッジマナード。天然繊維には高品質な綿やシルク、リネン、ウールを使い、合繊は再生ポリエステルやケミカルリサイクルナイロン「ループロンC」を採用することで品位、機能、環境配慮いずれの面でも高水準な長短複合糸となる。
今後、国内の展示会などで積極的に提案するほか、テキスタイル輸出に取り組む和歌山ニット産地の編み地メーカーなどへの販売を通じて海外市場への展開も視野に入れる。
そのほか、新タイプのリサイクル綿糸「さいくるこっと」も引き合いが増えてきた。新方式の開繊技術によって従来の反毛原料では不可能だったリサイクル原料100%や細番手糸の紡績が可能になった点で注目が高い。こちらも生地輸出に取り組む産地企業への販売を通じて海外市場へのアプローチに力を入れる。
〈独自撚糸技術に優位性/ウールの機能含めて訴求/浅野撚糸〉
撚糸・タオル製造販売の浅野撚糸(岐阜県安八町)は、糸に膨らみやしなやかさを付与する特殊撚糸「スーパーゼロ」の優位性を生かす。綿糸やウール、リネンなど天然繊維と相性が良い。原料の特徴を生かしつつ、撚糸加工の優位性も兼ね備える。防縮ウールにスーパーゼロを施した糸の訴求も強める。
スーパーゼロは浅野撚糸の代名詞とも言える独自の撚糸技術だ。紡績糸とクラレトレーディングの水溶性糸「ミントバール」を交撚し、通常とは逆方向に2倍の撚りを掛けた後に水溶性糸を溶かして作る。元撚り方向に戻る特性を生かし、繊維間に空気を含みながら膨らみとしなやかさが加わる。
スーパーゼロの特徴を生かしたのがタオルシリーズ「エアーかおる」。2007年の販売開始から累計出荷枚数が2千万枚に到達するヒット商品だ。タオル以外にも服飾雑貨やアパレルなど採用例が増えており、国内だけでなく海外市場への参入を目指す。
綿の加工糸以外に訴求を強めるのが防縮ウール60番単糸をスーパーゼロ加工した糸。織物や編み地にすると、肌触りのしなやかさと光沢感が引き立つ。撚糸技術だけでなくウールが持つ消臭性や衣服内の調温性、調湿性を含めてアピールを図る。
浅野宏介専務は「ウールは暑い時期を含めて年間着用できる快適な素材。その特徴を生かして、新たな販路を狙う」と話す。ドレス性のあるアパレル、アウトドア、スポーツ衣料向けなどに訴求を強める。
〈水に濡れても反射する/「セッソンフリー」に注目/泉工業〉
ラメ糸製造卸の泉工業(京都府城陽市)が開発した再帰反射糸「セッソンフリー」への引き合いが増えている。水に濡れても再帰反射する特徴が注目された。
通常の再帰反射糸は表面に反射材であるガラスビーズが露出しているため、織・編み機や縫製機器の部材・部品を摩耗・損傷させることが多く、一般の織布・編み立て企業や縫製会社では扱いが難しい。
これに対してセッソンフリーは、再帰反射素材をスリット加工して撚糸したものに表面をポリエステルフィルムでカバーリングし、ガラスビーズが糸表面に露出しないようにすることで使用の際に設備が損傷するのを防ぐ。
また、ガラスビーズによる再帰反射素材は水に濡れると再帰反射性がなくなるが、セッソンフリーはガラスビーズが露出していないため、水に濡れても反射輝度の低下が少ない。このためウエットスーツなどへの提案も進めている。
ナイロンラメに綿糸を撚糸した「セルソマ」の提案にも力を入れる。肌当たりがソフトなナイロンラメと綿を組み合わせることで、インナーやレッグなど肌に直接触れるためラメ糸の使用が難しかった用途でも使用できる。後晒しや二浴染めによる染め分けも可能なことから、意匠性も高い。
〈グレー杢糸に新商材/品種拡充で需要喚起/新内外綿〉
新内外綿(大阪市中央区)は、主力のグレー杢(もく)糸に新たな商材を加える。国産杢糸の元祖とされる同社ならではの製造ノウハウの蓄積を強みに品種を増やし、改めて杢糸の需要を呼び起こす。
2025年内に3種類の杢糸を商材に加える。一つは綿50%・キュプラ繊維50%混、40番単糸の杢糸。厳選した原料でさりげない光沢感を演出する。“きらびやかな杢”と表現する。定番杢糸「GR1」「GR7」の“ワンランク上”の素材として展開する。用途はレディースアパレルを想定しカットソー、ニット製羽織、横編みのセーターといった製品に向く素材として提案する。
もう一つは綿50%と廃棄繊維の反毛わた(綿花)50%混の杢糸だ。一般的に反毛わたを使う紡績糸は、製織や編み立て工程で通常の綿糸よりほこりが多く出る難点がある。今回開発した糸は特殊な紡績方法によりほこりが出にくくした。20、16番単糸で展開する。定番杢糸「GR7」「GR3」の廉価版の商材として打ち出す。
最後はリサイクルカシミヤを使った新商材だ。環境に配慮した新たな杢糸として提案する。綿90%・カシミヤ10%混、30番単糸で展開する。色は生成りとグレーの2色。カシミヤ製品工場の製品を反毛したわたを原料に使用する。秋冬シーズンのレディースニット用途を想定する。