綿紡績・繊維事業/変革で“稼ぐ力”を底上げ/「機能性」「海外」「現場起点」で安定黒字化へ
2025年09月08日 (月曜日)
綿紡績大手の繊維事業は、通期での黒字定着に向けて“稼ぐ力”の底上げを急ぐ。市場縮小や在庫調整といった逆風の中、各社は「機能性」「海外」「現場起点」を軸に構造改革を進めている。現行の中期経営計画の期間中に収益をしっかり出せる体質への転換に挑む。
(於保佑輔)
クラボウは今期(2026年3月期)から始動した3カ年の中計の下、繊維事業の立て直しに取り組む。6月末には紡織の安城工場(愛知県安城市)を閉鎖し、設備はタイやインドネシアへ順次移管した。生産効率とグローバル供給力を高める。
閉鎖に伴う一時費用が発生する今期は営業赤字を見込むが、高付加価値素材の拡販は堅調に進む。4~6月期の原糸販売は前年同期比28%増で、特に原綿改質の機能綿糸「ネイテック」がけん引した。用途が広がり、糸売りの3割を占める主力商品に成長しつつある。
今後は「わたから製品までの一貫ビジネスを加速させる」(中川眞豪取締役)方針の下、グループの商社機能を担うクラボウインターナショナルとの人材交流を活発化させ新規ビジネスの創出につなげる。
日清紡テキスタイルは、綿スパンレース不織布「オイコス」の生産を年内にも停止する。売上比率は全体の約2%と小さく、「撤退に伴う業績への影響はほとんどない」(村田馨社長)とする。
一方で、主力のシャツ地販売を除けば事業全体は回復傾向にあり、上半期(1~6月)の営業利益は計画を上回った。中でも、今年GRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)認証を取得したポリウレタン弾性繊維「モビロン」の輸出が、パンストやインナー需要の回復を背景に前年同期比50%増と伸びた。
ブラジルでは渦流紡績機を2台増設中で、計9台に拡充する。「現地ニーズに応える品質こそが競争力の源泉」(村田社長)として、高付加価値ニット糸で南米市場を深耕する。インドネシアでも染色設備の増強を進める。
シキボウは今期(26年3月期)から始まった中計の3年間で、売上高に占める海外比率を「倍増させる」(尾﨑友寿上席執行役員)。中東民族衣装向け生地の輸出が好調なことに加え、猛暑を追い風に高通気素材「アゼック」の販売を伸ばす。ベトナムやインドネシアを起点とする「外から外へ」の外販モデルも広がる。
8月28日にはユニチカからグループ子会社の事業譲受に向けた基本合意書を締結した。ユニチカトレーディングの衣料繊維事業の約8割がシキボウに移る見通しで、ベトナムや中国の子会社も含めてグローバル体制を強化する。「開発と販売の両面でシナジーを発揮できる」(尾﨑上席執行役員)と期待する。
将来の成長を担う人材育成も各社の重要課題だ。クラボウやシキボウはグループ間での人材交流を進め、現場主導の改革を促す。日清紡テキスタイルは、販売・開発・電子商取引(EC)を横断する体制づくりで、若手主体の組織への転換を急ぐ。「社員一人一人が主体的に挑戦できる風土を築く」(クラボウの中川取締役)ことが、安定成長を支える原動力となる。