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東レ/素材力で猛暑対策に貢献/「サマーシールド」などけん引

2025年09月08日 (月曜日)

 2025年の夏、群馬県伊勢崎市の気温は41・8℃に達し、国内最高気温を更新した。酷暑・猛暑は恒常化しており、暑熱対策が喫緊の課題としてさまざまな業界、企業に突き付けられている。その社会課題解決に素材の力で貢献しているのが東レだ。遮熱性などに優れる「サマーシールド」をはじめとする高機能素材を市場に投入している。

〈遮熱性など高いレベルで〉

 東レは、25年度(26年3月期)に現中期経営課題を終了し、26年度から新たな中経を始動する。スポーツ・衣料資材事業部は、新中経で大きく三つの取り組みに力点を置く方針を示し、猛暑対策をその一つに挙げている。けん引役となるのがサマーシールドをはじめとする高機能素材で、用途開拓を積極的に進める。

 雨傘の消費量は年間で1億本を超えているといわれている。日傘の消費は400万本以上と推計されているが、使用者はほとんどが女性だった。しかし、この1、2年で男性が日傘を差すケースも珍しくなくなり、市場は拡大傾向にあるとみられる。拡大する市場で存在感を示しているのがサマーシールドだ。

 同素材は、ポリエステル糸を使った傘地と白色の遮光フィルム、黒色の遮熱フィルムの3層構造を持つのが特徴。これによって一枚の生地で遮熱性と紫外線カット、遮光という機能を高いレベルで実現している。体感でマイナス4℃の遮熱性を発揮し、紫外線カット率99・99%、遮光効果99・99%を誇る。防炎加工を施した「サマーシールドPB」もラインアップする。

 開発・販売を開始したのは10年以上前で、これまでに自治体との取り組みや大妻女子大学との産学連携プロジェクトなどを実施してきた。販売自体も順調な推移を見せ、スポーツ・衣料資材事業部の「キラーコンテンツ」の一つに育った。生産能力も既存用途・新用途に対応できるとしている。

 日傘用途以外にもイベント用テントやターフ、パラソルなどに使われ、そのほかの用途も積極開拓を図る。傘地としての提案だけでなく、「東レが製品(傘)を作り、自治体や工場などに向けて販売していきたい」と話し、26春夏に向けて既に動き始めていると言う。

〈原糸と生地開発力融合〉

 「ボディシェルEX」や「ドットエア」なども猛暑対策に寄与する重点素材に位置付けている。ボディシェルEXは、酸化チタンを応用して機能を付与した。一般的な素材は酸化チタンの含有率が4%程度だが、複合紡糸技術「ナノデザイン」を駆使することで含有率を10%以上に高められる。

 特殊原糸の使用とテキスタイル設計によって遮熱性、防透け性、紫外線遮蔽(しゃへい)を発揮し、従来の汗染み防止機能とは異なる「濡れ色抑制機能」も付与した。光の吸収と反射の特性によって汗染みを見えにくくする。ゴルフパンツのほか、ビジネス用ニットシャツなどでもニーズが増えている。

 「ボディシェルEX高通気タイプ」もそろえる。一般的に隙間を閉じる紫外線遮蔽性と、隙間を開ける通気性は相反する特性であり、両立は困難だった。同社は、独自のポリマー設計技術と紡糸技術、テキスタイル技術を駆使することで、通気度150CCとUPF50+の両立を実現した。

 ドットエアは、特殊原糸と織物構造をベースに独自の加工技術によって「通気孔」を発現させた高通気快適機能素材。通気性によって衣服内の快適性を保ち、メッシュ調の織物が軽量感を演出する。耐久撥水(はっすい)や吸水加工などの機能性が付与でき、スポーツからカジュアルウエアまで幅広い用途に展開できる。

 サマーシールド、ボディシェルEX、ドットエアに共通するのは、東レの原糸開発力と、加工を含めた北陸産地のテキスタイル開発力を融合していること。「北陸産地の力があるからこそモノ作りができている。東レとしても北陸をはじめとする国内産地を守っていく」と強調した。

 働き手不足や原材料・原燃料高もあって現状は厳しい。産地企業が利益を上げられる仕組みが必要になるが、奇手はなく、「産地の企業との連携を深めて付加価値の高い生地を作り、適正な価格で販売することが重要。それを産地に還元していく」と話した。

〈東レの暑熱対策/国内生産拠点で取り組み進む〉

 2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則(事業者の熱中症対策義務付け)に着実に取り組んでいる東レ。熱中症リスクのある作業に従事する従業員への対策を強化しており、冷風機の設置や作業管理の徹底などに加え、自社製品の使用勧奨も行っている。

 熱中症に関連する言葉に暑さ指数(WBGT)がある。湿度や日射・輻射などの周辺環境、気温を組み合わせた指標で、このWBGTが28以上、または気温31℃以上の環境下で連続1時間以上もしくは1日4時間を超えて作業する場合が「熱中症リスクのある作業」に位置付けられる。

 同社では、国内生産拠点での暑熱対策として、改正労働安全衛生規則施行への対応はもちろん、WBGT値に基づく作業管理(作業時間制限、休憩、水分・塩分補給、作業中止)、冷風機やクーラーの設置、遮光用すだれ、遮熱シート、クールベスト、冷却ベストの使用などを進めている。

 国内生産拠点の具体的な取り組みを見る。A工場では、既存の小型スポットクーラーでは遮熱不足として、社外の他工場・倉庫内作業で効果実績がある気化熱式冷風機の運用を開始。気化熱による冷風のため排熱が出ず、スポットクーラーと比べて消費電力も少ない。気化熱式冷風機とは別に空調も設置した。

 B工場では、冷風吹き出しダクトを作業エリア近くまで延長した。これによってWBGT値が31から28・1に改善した。そのほか、スポットクーラーと冷風機、扇風機、サーキュレーターを組み合わせて設置。ソフト面ではアイスベストの配布や携帯用WBGT計を配布した。

 C工場の取り組みでは、始業開始前後(休日中の状況を含む)の体調確認を行うほか、こまめな水分・塩分の補給と休憩計画の再周知を行っている。早朝作業時は体調チェック表に記録して作業を開始する。

 そのほか冷却持続性があり防爆エリアでも着用可能なドライアイスジャケットの導入を推進している。

 ドライアイスジャケットは24年度から本格運用を開始し、着用時には酸素濃度計を併用するなど、使用者に事前教育と理解度テストを実施している。また、電動ファン付ウエアやネッククーラーなどとセットで使用することで暑熱対策の効果を高めている。

 自社製品の「LIVMOA(リブモア)高通気タイプ」、「hitoe」(ヒトエ)の使用勧奨も取り組みの一つ。使い切り防護服のリブモアシリーズは、3層構造素材を使用することで防じん性を付与しているほか、高通気性を備える。高通気タイプにはハイスペックタイプとスタンダードタイプがそろう。

 ヒトエは、生体信号を収集できる導電性素材。このヒトエを取り付けた胸部ベルトと、通信デバイス、クラウドサービスを利用することにより作業者の心拍数を遠隔で見守り、その変化を把握することで事故予防につなげる。