シリーズ事業戦略/クラボウ/挑戦できる風土築く/中計達成への道筋描く/取締役兼常務執行役員 繊維事業部長 中川 眞豪 氏

2025年09月09日 (火曜日)

 クラボウは、6月末に紡織の安城工場(愛知県安城市)の閉鎖という大きな構造改革を経て、新たな成長ステージへとかじを切った。6月25日付で繊維事業部長に就いた中川眞豪取締役は、今期から始まった3カ年の中期経営計画の目標を「確実に達成するための道筋をしっかりと描きたい」と話す。「社員一人一人が主体的に挑戦できる風土」を築き、繊維事業を成長軌道に戻す。

――新たに繊維事業部長に就かれました。まずは抱負を。

 何よりもまず、紡織を担っていた安城工場の閉鎖に伴う構造改革の成果を一日でも早く出すことです。その上で繊維事業全体の改革をやり遂げ、今期から始まった中計の目標を確実に達成するための道筋をしっかりと作りたいと考えています。

 戦略的パートナーの伊藤忠商事さんの企業理念である「三方よし」の精神に倣えば、まず「売り手」である私たち社員自身が満足し、自社の商品やサービスに自信と誇りを持って顧客に提案できる組織でなければなりません。エンゲージメントの向上や、提案制度などによる社員の組織運営への参画を通じて、社員一人一人が主体的に挑戦できる風土を構築していきたいと思っています。

――社長を兼務されているクラボウインターナショナルは、2025年3月期に2期連続で過去最高益を更新し好調です。

 今期に入ってからも前期同期並みで推移しています。7月1日で創立15周年を迎え、“個での戦いから組織で戦う集団へ”とステージが上がってきました。ちょうど15年前から新入社員が入り始め、今では30代の中堅層が成長し、事業の中核を担っています。アジアで培った幅広い生産背景と品質管理力、素材調達力が成果に結び付いています。

 今後はグループ全体でグローバル展開を進める上で、私が両社のトップを兼務するメリットを最大限に生かし、人材交流も含めて連携をさらに強めていきます。

――第1四半期(4~6月)業績は売上高が前年同期比4・6%減の118億円、営業損益が前年同期の8800万円の黒字から2億5900万円の赤字となりました。上半期(4~9月)の見通しは。

 基本的に第1四半期までと商況は変わりません。安城工場の閉鎖準備に伴う一時費用の発生が赤字の要因で、ほぼ想定通りの水準。安城工場の設備はタイ、インドネシアへ順次移管します。

 糸売りでは、原綿改質技術を生かした機能綿糸「ネイテック」の受注が好調で、全体の30%を占めるまで増えており、事業のけん引役となっています。吸湿発熱性「ウォーム」、吸放湿性「ブリーズ」、消臭性「フレッシュ」、保湿性「モイスト」に加え、UV遮蔽(しゃへい)・遮熱の「ダル」を投入したことで、当初は用途がインナー中心でしたが、春夏物やアウターへと広がり、通年で採用されるようにもなりました。今後も新機能を投入していきます。

 わたの改質技術をさらに磨き“わたから製品まで”の一貫ビジネスをしっかり作り上げていきたいと考えています。

 ユニフォームは、在庫調整の影響で定番素材の受注が低調でしたが、別注は堅調です。暑熱環境下の体調管理システム「スマートフィット」は前期に大型案件があった反動で販売は減少したものの、6月から熱中症対策が罰則付きで義務化になって以降、問い合わせが多く、来期に期待しています。

 カジュアルは国内SPA向けを中心に苦戦が続いています。気候変動の影響で市場全体が停滞していますが、クラボウインターナショナルで培ったアジアの生産背景や素材調達力を本体の事業にも生かしていきます。

――通期(26年3月期)では売上高435億円、営業損失7億円と前期比で大幅な減収減益を見込んでいます。下半期の方針は。

 今期は構造改革をやり遂げ、来期以降に成果を確実に出すための土台を立て直します。

――中計では最終ユーザーのニーズに基づく独自技術開発と商品の販促を掲げています。

 そのポイントの一つになるのが、7月にユニフォーム部で立ち上げたワークウエア専門の電子商取引(EC)サイト「ニューライフワーカーズ」です。サイトでは、当社の素材が採用されたユニフォームメーカーのカタログ定番商品を展開するほか、これから採用を目指す差別化素材を使ったオリジナルのワークウエアブランド「GOROKU」(ゴロク)の販売も開始しました。製品を売るというよりも、従来は届きにくかったエンドユーザーの声を吸い上げ、素材開発につながる潜在的なニーズを掘り起こしていくのが狙いです。

 クラボウインターナショナルでは、ライフスタイルブランド「tokidoki」(トキドキ)によるアパレル製品や関連雑貨でのライセンス事業を本格化しています。新しいビジネスに挑戦し商圏を広げ、成功事例を積み上げることで若手社員のモチベーション向上にもつなげていければと考えています。