特集 商社の原料・素材ビジネス(1)/独自性前面に需要喚起/MNインターファッション/帝人フロンティア/スタイレム瀧定大阪

2025年09月11日 (木曜日)

 繊維商社のほとんどが、原料や糸、生地の販売を祖業とする。今は製品事業が売り上げの大半を占める商社が多いが、海外との競合や輸出拡大、需要喚起のために「差別化」「付加価値化」の必要性が高まり、原料や糸、生地の存在感や重要性がここにきて高まっている。繊維商社が展開するイチ押しの原料・糸・生地を紹介する。

〈MNインターファッション/高密度織物拡販に力/「パーテックス」と「ベンタイル」〉

 MNインターファッションは、三井物産時代の2005年に合繊軽量高密度織物「パーテックス」の商標権を得て、国内外に販売してきた。今年5月、スイスのStotz&Co.AG社、大和紡績との合意のもと、商標権を譲受したのが綿高密度織物の「ベンタイル」だ。2種の高密度織物を国内外に拡販していく。

 パーテックスは、販路の約9割を海外が占めている。まず、欧米のアウトドアブランドで採用が進み、スポーツ、ファッション、ユニフォームと順に販路を広げてきた。国で言えばここ1~2年、中国の伸びが著しい。以前からアプローチを続けていたが、ここにきてブランド知名度の向上とともに実売が増えてきた。

 パーテックスには、ダウンウエアなどで採用が相次ぐ最も軽量な「クァンタム」、透湿防水性に優れる「シールド」、二重構造で肌離れの良さを実現した「イクイリブリアム」など幾つかの種類がある。まずクァンタムが売れ、次にシールドが売れたという歴史。次の拡販に力を入れるのがイクイリブリアムだ。

 クァンタムとシールドではそれぞれ、耐水圧を持たせて寝袋の裏地などに使われる「プロ」、高通気性が特徴の「エア」というサブブランドを展開する。イクイリブリアムはこれまでサブブランド展開をしてこなかったが、拡販に向けてサブブランド展開していく。

 合繊のパーテックス、綿のベンタイルは、素材は違えど機能は近似しているため競合することもあった。しかし販売元がMNインターファッションに一本化されたことで今後はすみ分けや相乗効果が見込める。「ベンタイルでも同じスキームを作っていく」とし、生産・販売の両面でパーテックスを模倣する戦略だ。

〈帝人フロンティア/グローバル戦略を加速/原糸も“種まき”に成果〉

 帝人フロンティアの衣料繊維部門衣料素材本部は、原糸からテキスタイルまで生産と販売の双方でグローバル戦略を加速させ、業容の拡大を目指す。これまで取り組んできた“種まき”の成果への期待も高まってきた。

 ポリエステル長繊維を主力とする原料事業は、インテリア用途で大手SPA向けがリードしていたが、2025年度(26年3月期)に入って、勢いが鈍化してきた。インテリア製品の流通在庫増加が背景にあると考えられる。ただ、機能糸へのニーズは依然として高い。

 テキスタイル事業は、ニット生地を中心にスポーツ用途での輸出が堅調に推移する。欧米市場の市況が回復基調にあることに加え、さまざまな機能を実現した高付加価値テキスタイルを開発している点でメガブランドからの評価が高い。織物に関しても中国の南通帝人の生産品を中心に販売が堅調だ。

 一方、国内のスポーツ用途はまだら模様。日系アパレルのグローバル販売品に向けた生地は好調な受注となっているが、全体としては勢いがない。ユニフォーム用途は企業別注や防塵(ぼうじん)服など特殊用途、官需などが好調だが、定番ワークウエア向けは採算面も厳しく、積極的な拡大が難しい状態だ。

 テキスタイル事業は今後、スポーツ用途の販売で国内外を一体運営することを視野に入れる。日系スポーツアパレル向けの生地も、海外販売する製品に向けた生地提案の重要性が高まっているためだ。また、タイ子会社のタイ・ナムシリ・インターテックスの生産品を生かし、ASEAN縫製への販売拡大を進める。

 原料事業は吸湿発熱繊維「サンバーナー」など独自素材を生かした差別化商品の開発を進めるなど“種まき”を進めてきた。SPA向けに加えて、こうした差別糸による販売拡大を目指す。

〈スタイレム瀧定大阪/多様な切り口で新素材開発/独自の有機栽培綿や培地〉

 スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)は2021年にR&D部を立ち上げ、原料や素材の研究開発に力を入れてきた。ウール原料を扱う歴史の長いマテリアル課とR&D室で構成し、「ウール原料」と「ウール原料以外」の開発を加速させる。そこからサステイナビリティーを軸にさまざまな原料・素材を生み出してきた。

 全く新しい切り口で立ち上げたのが、種、畑の段階からトレーサビリティーを確保するインド産オーガニックコットンのプロジェクト「オーガニックフィールド」だ。インドの小規模綿花農家は認証取得に必要な3年を待つ経済的余裕がない所がほとんど。その支援として種の段階からトレーサビリティーを担保しながら農園の無農薬化を継続的な形でサポートするのが同プロジェクトの趣旨。収穫した綿花は全量をスタイレム瀧定大阪が買い取り、提携するインド最大の綿花の種販売会社であるNSLグループで綿糸にする。この趣旨に賛同する国内外のアパレルで採用が進展している。

 ポリエステル培地「トゥッティ」も同部から生まれた新素材。「身近なポリエステルという繊維をどう再生するかは重要な課題」とし、再生ポリエステル糸に続く新たな取り組みとしてプロジェクトを立ち上げた。現在は「プラスグリーンプロジェクト」として展開しており、こちらも多方面で採用が進んでいる。

 このほか、麻の葉を原料にした紙皿「asanoha」(アサノハ)や、ソニーと協業する米のもみ殻を原料とした天然由来の多孔質炭素材料「トリポーラス」などさまざまな切り口から新たな商材を開発している。

 今後も「SDGs(持続可能な開発目標)という世の中の流れに対応しながら材料の可能性をリサーチし、将来の変化に備えて研究開発を進めていく」(大川圭二R&D部長)。