特集 商社の原料・素材ビジネス(2)/瀧定名古屋/タキヒヨー/豊島
2025年09月11日 (木曜日)
〈瀧定名古屋/近赤外線吸収繊維を訴求/次世代の太陽光対策素材へ〉
瀧定名古屋は近赤外線吸収繊維「ナイロール」の提案に力を入れている。紫外線(UV)防止などに次ぐ次世代の太陽光対策の素材として訴求する。ナイロール使いの生地ブランドを複数展開しており、今後の需要増を見込み拡販を狙う。
住友金属鉱山と協業して開発した。同社が展開する、近赤外線を吸収するレアメタル由来のナノ素材「ソラメント」を使った。再生ポリエステルにソラメントの原料を練り込んでおり、日本や中国で紡糸する。2020年から本格販売を始めた。
近赤外線は太陽光に含まれる光の一種だ。UVが太陽光に占める割合はわずか6%だが、近赤外線は42%を占める。UVと比べて波長が長いため、体の奥深くに届く上に熱を伝える性質もあることから、シワやたるみ、熱中症の原因となる。
これまでの太陽光対策としては、シミや日焼けを引き起こすUV防止が一般的だった。酸化チタンを含んだフルダル糸使いなどがUVカットの素材として普及。近赤外線は太陽光に多く含まれ、体への影響があるにもかかわらず見過ごされてきた。
そこで、この近赤外線に着目し、生まれたのがナイロールだ。近赤外線を吸収することで、体の奥へ届く前に光を遮断し、熱中症や肌の老化などの防止に貢献する。近年は地球温暖化が進んでおり、世界中で気温が上昇するなど社会的な課題とも言え、今後の需要も期待できる。
ナイロール使いの生地は機能別に複数そろえる。その一つ、「トゥルーボーテ」は近赤外線の吸収に加えて、UV防止の機能も持たせた。シワやシミなどの光老化や熱中症対策に効果がある。小学校の体操服向けのほか、アウトドアブラントのポロシャツ向けにも採用された。
〈タキヒヨー/販売先に合わせた生地供給/製品部門、縫製企業連携も〉
タキヒヨーは素材開発/販売グループ(G)が主体となり、販売先の要望や規格に合わせた生地の販売事業を担う。協業による糸の開発に始まり、製織や編み立て、染色整理加工を含む生産面のネットワークを駆使して、多様な需要に応える。製品で納品依頼への対応も強化する。製品部門や縫製企業と連携を深める。
主な国内の販売先は高級ゾーンや百貨店などで展開するアパレル企業やブランドなど。今後は中価格帯のセレクト系ブランドや、アウトドア、スポーツ向けに販売増を狙う。それぞれの志向やコンセプトを反映した生地の供給に徹する。
紡績・素材メーカーや商社と協業しながら、差別化糸の開発も強化している。冬物の計画が減少し、長期化する猛暑期の対応として、冷感が持続する機能や紫外線防止などの機能も求められる。風合いを柔らかくしながらもピリング防止や保形性をかなえる整理加工を複合しながら企画と生産を進める。色柄を含めた意匠性を高める配色を意識し、付加価値を上げる。
国内の産地企業や縫製企業との取り組みも強化する。一例として希少性が高く、生産容量が限られるシャトル織機での製織や、デニムなどの洗い加工を担う企業との連携も深まる。生産計画や、最終製品のイメージを共有した「出口戦略」で取り組みを深める。
素材開発/販売Gの中嶋正樹執行役員は「丁寧な対応と、モノ作りを熟知することが生地販売事業として最も重要だ」と話す。製品での供給実績も増えるため、縫製企業との連携も強化する。
海外向けの生地販売では、原料の追跡可能性や国際認証の取得を軸にした生産経路の構築は必須。栽培に関する禁止薬物不使用など、フェアトレードに関する整備も進める。
〈豊島/環境配慮素材はロングセラー/合繊や機能素材、訴求強化〉
豊島は環境配慮型素材を業界に先駆けて打ち出してきたという自負を持ち、その知見をビジネスに生かす。環境に配慮した原料や生産手法で生み出された天然繊維使いの素材はロングセラーとなり、販売精度やプロモーションの高度化に着手している。合繊使いや機能性を付与した素材の打ち出しも強める。
同社は1989年から木材パルプの再生セルロース繊維を主原料とする「テンセル」リヨセルの販売を開始して35年以上が経過した。オーガニックコットンの普及を通じて社会に貢献するプロジェクト「オーガビッツ」はこのほど、販売開始から20周年を迎えた。これまでにオーガビッツの主旨に賛同した140以上のブランドが参加し、累計1千万枚以上の販売実績を数える。
食品の製造工場・飲食店などで製造過程からやむなく廃棄される残渣(ざんさ)を染料として再利用する「フードテキスタイル」も販売開始から10周年を迎えた。天然繊維だけでなく合成繊維使いの原料や素材にも染色が可能。ファッション向け以外にも寝装品や靴などへの採用が広がった。
環境配慮型素材として訴求を強めるのが、独自の製法で作られる和紙糸「WAGAMI」(ワガミ)だ。消臭・吸水速乾・紫外線防止・接触冷感性など複数の機能や特徴を持つ。衣料品以外にもインナーや靴下への使用に適する。
ファッションだけでなく、多様化するライフスタイルや用途に合わせた、機能付与素材もそろう。軽さや耐切創性、耐摩擦性に優れる「Dyneema」(ダイニーマ)は建設やスポーツ向け、工業系資材への引き合いが増える。長期化する高温期に衣服内環境を快適にする異形断面の再生ポリエステル糸「エバークール」も打ち出す。スポーツ衣料や肌着を含めて幅広く訴求を図る。