特集 商社の原料・素材ビジネス(3)/独自性前面に需要喚起/ヤギ/蝶理/東洋紡せんい

2025年09月11日 (木曜日)

〈ヤギ/再生綿100%糸の展開拡大/生地も備蓄販売へ〉

 ヤギは、再生綿100%の紡績糸「ユナ・イト リサイクル100」を拡販する。環境配慮型素材の統一ブランド「UNITO」(ユナ・イト)の一つとして、昨年から備蓄糸の販売を本格化し、販売量を増やしてきた。年内には新たに編み地の備蓄販売も始め、提案の幅を広げる。

 同糸は、糸くずやB反・C反の生機を反毛した再生綿のみで紡績する。繊維長が短い再生綿100%の紡績は技術的に難しいとされてきたが、インドの協力工場との連携によって安定した供給体制を構築した。7~30番手のオープンエンド(空紡)糸を備蓄する。

 ドライタッチで、シャリ感のある独特の風合いも特徴だ。機能面だけでなく、風合いでも差別化を図り、三備、和歌山、播州など国内主要産地で採用が広がっている。

 これまで天竺、裏毛といった編み地や織物など18品番の試作生地を提案してきたが、年内には編み地の備蓄販売も始め、糸と生地の両面から提案を強める。

 アパレルとの協業も進み、TOKYO BASEのカジュアルブランド「パブリックトウキョウ」とオリジナルTシャツを製作した。同ブランドの直営店とオンラインストアで販売する。

 海外展開も広がりを見せており、欧州では再生綿100%という特性と風合いが評価されている。今後は三国間貿易を視野に入れ、バングラデシュやベトナムの拠点を通じた提案を強化し、採用拡大につなげる。

 品質や環境対応にも力を入れ、国際認証の「GRS」(グローバル・リサイクルド・スタンダード)を取得した。再生綿を20%使用すれば認証が得られるが、100%にこだわり、素材そのものの価値を発信している。

〈蝶理/ピン仮撚糸リブランディング/海外視野に供給体制整備〉

 蝶理は、ピン仮撚糸「SPX」のリブランディングに取り組んでいる。拡販に向け、北陸産地の協力工場内に最新のピン仮撚り機を導入し、10月中旬にも本格稼働を開始する予定。SPXを差別化商材の中核に位置付け、供給体制を整えながら、海外展開を視野に入れた発信に力を注ぐ。

 SPXはストレッチ性に加え、通常のポリエステル糸にはない軽量感や膨らみを持たせることができる。耐久性にも優れ、企業制服や学校の体操服などにも使用されてきた。

 蝶理は約30年前、低速で糸に熱を加えることで独特の膨らみ感を生むピン仮撚りの技術に着目し、北陸産地の工場と試行錯誤を重ね、SPXを作り上げた。以降、伝統技術で生み出す機能性糸として拡販を進めることで、技術継承を支援してきた。

 2022年にSPXのロゴを刷新し、リブランディングに着手した。視線を海外に向け、「日本の技術が凝縮されている」糸として国内外で販路を切り開く方針を打ち出した。

 多様な繊維製品に向けて提案を進める中、高捲縮(けんしゅく)糸の潜在的な需要を捉えることができるようになった。この動きを見た北陸産地の工場が、ピン仮撚りの再興に関心を抱くといった波及効果も生まれた。

 蝶理が導入したのは、最新のピン仮撚り機2台と試作機1台。試作に特化した機械を取り入れたのは、糸の開発を促進するためで、技術の発展による産地の再活性化を目指す。

 同社の繊維原料部は2月から、海外の展示会に継続して出展している。中国・上海、ドイツ・ミュンヘン、ベトナム・ホーチミン、米国・ポートランドの各地で開かれた展示会で、SPXの魅力を発信した。

 来場者からのサンプルの引き合いも多く、海外市場での需要開拓に向けて手応えをつかんだ。

〈東洋紡せんい/充実する環境配慮商材/素材軸の販売に注力〉

 東洋紡せんいのマテリアル事業部は、原糸からインナー用を中心とした生地、産業資材用途まで幅広い素材販売を担う。いずれも独自性の高い商材をそろえ、特に近年は環境配慮型素材のラインアップが充実する。素材を軸にした販売に力を入れる。

 現在、原糸分野で注目が高いのが新方式の開繊技術によって実現したリサイクル綿糸「さいくるこっと」。従来の反毛原料は繊維を物理的に引きちぎることでわた状に戻すため繊維長が短くなり、反毛100%糸や細番手糸の紡績が不可能だった。

 さいくるこっとは、新方式開繊技術によって繊維長を維持したままでわた状になった原料を使用。リサイクル原料100%糸や細番手糸の紡績が可能だ。糸表情も高品位で意匠性に優れる。協力関係にあるインドの大手紡績と連携して商品化した。

 合繊分野では、リサイクルナイロン繊維「ループロン」を商品化している。マテリアルリサイクルタイプの「ループロン―M」とケミカルリサイクルタイプの「ループロン―C」をそろえる。特にループロン―Cはマスバランス方式も導入しており、注目が高い。

 天然繊維と合繊いずれでも独自性の高い商材を持つ同社の特徴が発揮されたのが長短複合紡績糸「マナード」の技術を応用して開発した「ネイチャーブリッジマナード」。高品質な綿やリネン、シルク、ウールと再生ポリエステルやループロンを複合紡績することで天然繊維と合繊の品位と機能性が融合する。

 産業資材分野では熱可塑性樹脂による炭素繊維複合材の新規開発が進む。加工工程でのエネルギー使用量が少なく、糸段階で樹脂を含侵させているため通常の熱可塑性樹脂複合材と比べて強度が高い。車両資材や福祉用品、スポーツ用品に向け提案する。