特集 アジアの繊維産業(3)/インドネシア/現地で高い付加価値を/大型の設備投資相次ぐ

2025年09月26日 (金曜日)

 インドネシアの日系繊維企業の大型設備投資がここ数年相次いでいる。中国企業の安価な繊維素材・縫製品の同国内への流入が続く中、日系企業は現地でそうした汎用(はんよう)品と差別化できる高付加価値品を作れる体制を整え、新たな市場や新規の顧客開拓を狙う。

 2023~25年にかけて、日系繊維企業で生産設備の更新や新たに導入する事例が目立った。シルケット加工機、裁断機、最新の織機・紡績機・連続染色機などを入れる事例が複数の企業で見られた。導入の狙いで共通するのは、生産効率アップ・コストの低減、そして生産の高度化や商材の高付加価値化だ。

 ローカル繊維企業が育ってきたことに加え、インドネシアの経済成長とともに人件費は年々上がり、その上、ここ数年は中国経済の不調から中華系の繊維企業が本国で売り切れない繊維製品(わた・糸・生地・縫製品)をASEANへと売り込む動きを強めている。“投げ売り”とも“捨て売り”とも表現される価格攻勢を前に日系はシェアを奪われる状況が続く。

 東レや東海染工グループなどの一部を除き、インドネシアの日系繊維企業の多くは日本市場向けのアパレル素材、縫製品を主力としている点も今の苦境の背景にある。例えば、ユニフォーム、ビジネスシャツ、スポーツウエアの素材や縫製を主力とする現地の日系企業は多い。だが、こうしたアイテムの日本市場の動きは近年、鈍い状態が続いている。

 唯一、最近好調が続いていたのが、日系の品質の良さが理解される中東の民族衣装生地の市場だった。ここ数年はどこの日系企業でも中東向けへの販売好調が聞かれた。しかし、今月の取材ではこの市場でも中華系企業の商材が増え、「ここ数年の旺盛な需要にも限界が見え始めた」との声も聞かれた。

 これまでの繊維事業のノウハウを生かしながらいかにコストを抑え、現地で作り出す素材やサービスの高付加価値化を図るかが今後の日系企業の成長のカギとなる。同時に繊維製品の消費の冷え込みが続く日本市場とは別の新たな売り先開拓も急務となる。

〈26年中旬までに工場移転/クラボウグループ〉

 クラボウグループの紡織工場、クラボウ・マヌンガル・テキスタイル(クマテックス)は2026年中旬までにバンテン州タンゲランの工場を移転する。

 クラボウは今年6月末に紡織の安城工場(愛知県安城市)を閉鎖し、同工場の設備をタイとインドネシアの拠点へと順次移送している。クマテックスは工場移転を機に生産設備の見直しとレイアウト変更を実施する予定。

 同社は「来年中旬までに移転を終え、より安定した品質にて原糸の供給を行い、魅力ある工場として再スタートを切る」としている。

 同社の主力生産品は紡績糸で用途はタオル、靴下、インナー、セーターなど。一部の生機はユニフォーム用途がメイン。直近の商況は米国向けのセーター原糸の受注が好調に推移する。インドネシア向けの受注状況は「比較的静か」としている。

〈紡績・染色に設備投資/日清紡グループ〉

 日清紡テキスタイルはインドネシアの繊維工場の生産設備を増強する。紡績・織布のニカワテキスタイルの紡績工程と、紡績・染色加工を手掛ける日清紡インドネシアの染色工程でそれぞれ新たな生産設備を導入する。

 ニカワテキスタイルに、渦流紡績機「ボルテックス」を増設する。同機の導入で糸の付加価値を高め、同時に生産コストを抑える。ボルテックス糸を使っても柔らかな風合いが得られるノウハウを新たに採用する。

 ボルテックス糸の織物は一般的な紡績糸の織物と比べると風合いが固くなる傾向があるといわれる。同グループの紡績、ブラジル日清紡が現地で開発したボルテックス糸使いの生地を柔らかくする手法をインドネシアで応用する。

 日清紡インドネシアは年内に連続染色機1台を新たに導入し2台体制にする。生産量は現状の2倍近い月産80万ヤードを目指す。ユニフォームのカジュアル化に伴い、取引先から多彩な色展開や短納期対応を求められているため、設備を増やして対応する。

〈構造改革で増収増益へ/原料から縫製品まで一貫/東レグループ〉

 東レインドネシアグループは2026年3月期で増収増益を目指す。サービスや製品の高付加価値化を進め、新たな売り先や用途開拓を進める。生産性改善や経費削減など構造改革にも取り組むことで反転攻勢に出る。

 現地グループ会社を統括する東レインドネシアの上半期(25年4~9月)は減収減益の見通しだ。中東情勢の悪化や繊維製品の世界的な市況低迷の影響で販売数量が落ちているため。中国の安価な素材の流入がグループ全体の業績低迷の主な要因の一つ。こうした中、商材の高付加価値化やグループ同士の連携強化による新たな商流の構築、新規顧客の開拓により業容拡大・改善に取り組む。

 合繊糸・わた製造のITSは、上半期・通期ともに増収増益となりそうだ。差異化商材の供給拡大や経費削減が奏功した。今後も現地で素材の高付加価値化を進め、原糸原綿・生地・縫製まで東レグループで一貫した商流構築に関与することでグループ全体の収益最大化に貢献する。

 ポリエステル・レーヨン混紡糸・織布・染色加工のISTEMは、中東向け商材の市況悪化で苦戦している。インドネシア国内は中国製品の流入による供給過多な状況が続いており、ローカルアパレルも業績が振るわない。同社は今後、「品質と顧客満足度を高めることにより数量確保に努める」方針だ。

 アクリル梳毛紡績と糸染めのACTEMも日本向け、現地向けの両方で販売が振るわない状況にある。ISTEMと同様、中国からの安いアクリル糸の流入によって市場でのシェアを落としている。今後は付加価値の高い糸を顧客と共同で開発する方針。量産時は高品質な糸を安定供給して現状を打開する。

 ポリエステル・綿混生機を製造販売するETXは、主用途であるシャツ・ユニフォーム市場で欧米を中心に苦戦が続く。「中東民族衣装市場も市況が悪化しており、回復の兆しが見えない」。上半期業績は前年同期比減収増益を見込む。高付加価値商材の生産比率アップ、新たな用途・顧客開拓の推進、経費削減を進めて業容改善させる。

 東レインターナショナル・インドネシアも衣料用生地販売で中国の廉価な商材との競合が激化しており厳しい環境にある。同社は「インドネシア市場は非常に大きく、販売拡大の余地は大きい。差別化商材での新規受注獲得を進める」としている。

〈現地で素材開発加速/東洋紡グループ〉

 東洋紡グループがインドネシアで付加価値の高い生地の開発を加速させている。差別化した生地をグループの縫製工場で製品まで一貫で仕上げられることを強みに新たな取引先開拓を狙う。

 インドネシアの東洋紡グループは、生地や製品の販売を担う東洋紡インドネシア(TID)、生地の編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリング・インドネシア(TMI)、縫製工場のシンコウ・トウヨウボウ・ガーメント(STG)の3社で構成する。

 TMIは介護・ヘルスケア施設スタッフの制服を想定したユニフォーム用ニット地を開発した。縮率の管理を厳密に行った生地で、工業洗濯にも対応する機能が強み。主要セグメントの一つ、スポーツ衣料分野の苦戦をユニフォーム分野の供給拡大で補う。

 TMIとSTGで作るビジネスニットシャツ「Zシャツ」で綿混製品を開発した。綿30%混と50%混の2タイプがある。合繊の良さに良質な綿花の風合いや吸湿性といった天然の良さを加え、さらに自社のシルケット加工で見た目の美しさも持たせてこれまでよりも価値の高いシャツ地として提案する。

〈東海染工のTTI/新たに連続染色機1台〉

 東海染工グループの染色・プリント加工場、トーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)は連続染色機1台を導入する。10月中旬に稼働する。連続染色機は計3台になる。

 同社の主力は無地染めとプリント加工。既に稼働中の2台でこれまでシャツ向けの薄地の無地染めを受注してきた。今後、中肉・厚地の無地染めの受注を獲得するために新しい機械を入れる。染め上がりの品質の安定性や長期的なメンテナンスができる日本メーカーの機械を選んだ。

 今後、インドネシア国内に加え、ASEAN諸国・米国向け輸出用の中肉・厚地織物で無地染めの増加を見込む。チノパンなどのボトム用途で染色需要の拡大を想定する。

 TTIの上半期(2025年1~6月期)業績は前年同期比10%以上の増収営業増益。主力の無地染め・プリント加工の両方が堅調だ。インドネシア国内の生地問屋向けの染色・加工の受注状況は20年以降、低調が続く一方、現地のアパレル縫製工場や米国・ASEAN地域への輸出向けで受注が増えた。

〈パルパー、試験生産へ/シキボウのメルテックス〉

 シキボウの紡織・加工子会社、メルテックスはユニチカから機能糸「PALPA」(パルパー)の生産を引き継ぐ。閉鎖が決定したユニチカの在インドネシア紡績工場から一部の生産設備を移転し、このほど試験生産が始まった。

 紡績前の準備工程を担う機械を譲り受けた。需要が高いポリエステル65%・綿35%混30番単糸のパルパーをテスト生産している。近い将来、量産に移行する。パルパーはユニチカが発売して今年で50周年を迎える商材だ。

 メルテックスの2025年上半期(1~6月)業績は売上高が微増、営業利益は大幅に改善した。1~9月期は売上高が前期並みで増益となる見通し。ユニフォーム地が苦戦するものの、中東の「トーブ」用生地で好調が続く。

 トーブ地の好調は中東の在庫調整が終わり、需要期に入ったことによるもので22年ごろから続く。メルテックスで製織し日本で仕上げ加工をする商材の需要が高止まりしている。