特集 アジアの繊維産業(4)/ベトナム/内販、外・外拡大がテーマ/差別化、付加価値化も進む/STXベトナム/シキボウベトナム

2025年09月26日 (金曜日)

 ベトナムの2025年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率(推計値)は前年同期比7・96%で、前四半期(1~3月、改定値)の7・05%から伸び率が加速した。ただし一方で、国際通貨基金(IMF)は25年におけるベトナムのGDP成長率予想を従来の6・8%増から6・5%増に引き下げた。米国の関税政策や電力供給不安など、外的・内的要因が成長の下振れリスクになるというのが理由だ。

 こうした中で在ベトナム日系繊維企業の直近業績はおおむね堅調に推移する。対日縫製品の生産・品質管理は日本のアパレル市況が低迷していることを受けて全体として弱含みだが、内販や対欧米など外・外への準備を着実に進めてきた日系企業の一部では花が開きつつある。

〈資本・業務提携が奏功/内販など独自事業拡大へ〉

 内販を軌道に乗せる日系企業の筆頭は、伊藤忠商事グループのベトナム法人、プロミネントベトナムで間違いない。伊藤忠の香港子会社である伊藤忠テキスタイルプロミネント〈アジア〉(IPA)を通じてベトナム国営繊維企業グループであるビナテックスの株式を取得し、戦略的業務提携を結んだことや、社内にR&Dセンターを設置して独自開発に注力してきたことが、ここにきて威力を発揮している。

 内販の軸は地場ブランド向けOEM/ODMと、地場の生地商社や対日縫製工場向け生地販売だ。

 内販拡大も寄与して25年3月期の純利益は前期比30%増だった。今期はここまで、対日の別注ユニフォームや対米アウターウエアのOEM/ODMの苦戦を、内販を軸とした法人主体ビジネスでカバーする構図になっている。

 内販の縫製品OEM/ODMは、資本・業務提携するSPA、コーウィルとの協業が端緒だ。「コーウィルとの実績が評価されて他の地場アパレルとの取り組みが増えており、今後も拡大させていく」と自信を見せる。

 丸編み地と経編み地が中心の生地内販も、現地生地商社向け、対日縫製工場向けがともに伸びている。日本の学生服メーカー・商社がベトナムでの一貫生産を拡大させていることなども好調要因の一つのようだ。

〈「次の一手」を模索〉

 副資材の分野で存在感を放つのが、島田商事(大阪市中央区)のベトナム法人、島田商事ベトナムだ。25年1~6月の業績は前年同期比増収増益となり、連続増収記録を更新している。

 日本の大手SPAを含むカジュアル分野、スポーツ、ユニフォームなどいずれも伸びた。これら対日が事業全体の85%を占めるが、残り15%の欧米市場向けも拡大した。

 ただ、中国、台湾、韓国などの副資材企業がベトナムに進出してきていることを受け、「このままずっと伸びることは考えにくい」とする。そのため次の一手を模索してきた。

 「適時・適正・適切」をモットーに改めて自社工場や協力工場と共に商品開発に力を注ぐほか、ベトナム以外も含めた新たな仕入れ先の探索、新しい副資材の投入、展示会に出展しての多方面への訴求――などへの取り組みを強めていく。

 ヤギのベトナム法人、ヤギベトナムは、糸・生地・製品の各カテゴリーで地場アパレル向けなど内販拡大に取り組んでいる。

 「どれだけ利便性を感じてもらえるか」を念頭に置きながら現地展示会への出展などで訴求を強めており、引き合いも増える傾向と言う。

 グループの生地商社、イチメンとの協業で現地での生地備蓄も開始した。主に地場アパレルへの販売を想定し、初期は品番を絞りつつ複数の色柄をそろえる。「需要や市場の反応を見ながら品番を徐々に増やし、26年から本格展開する」構想だ。イチメンはベトナムに拠点を持たないが、ヤギベトナムが生産面と現地でのハンドリングを担う。

 クラボウのベトナム法人、クラボウ・ベトナムの直近業績は、主力のSPA向け生地販売の受注が伸びず苦戦したが、期後半は地場アパレルや縫製工場向けの受注拡大が見込めると言う。

 今後の事業拡大に向け、日本、タイ、インドネシアのグループ会社との連携をさらに強め、競合他社との差別化を図る。

〈STXベトナム/工場増強で受注伸ばす/いよいよ欧米市場狙う〉

 STXのベトナム法人、STXベトナムの直近業績(2025年度第3四半期)は、前年同期比増収増益を見込む。

 対日直貿が25春夏、25秋冬共に堅調な受注だったほか、7月に実施したタイニン省(旧ロンアン省)の自社工場SFLの増床、ライン拡張、設備入れ替えも奏功し、得意のレディース中軽衣料に加えてジャケット生産も受注を伸ばした。

 引き続き攻めの姿勢で臨む。来年に向けて自社工場の拡大・再構築を計画しており、日本市場だけでなく欧米市場からの受注拡大を狙う。関税問題はあるものの、「米国向け繊維製品のベトナム生産の需要は今後も拡大する」とみており、自社縫製工場を複数持つことがその際の強みになると言う。

 課題の人材確保については、「SFLでのライン拡張に際しても、優秀な工場スタッフを選抜、確保できている」。工場スタッフへのヒアリングでは、福利厚生や労働環境の充実、工場の雰囲気が魅力的――などの声が上がったと言う。

〈シキボウベトナム/糸備蓄が好評〉

 シキボウのベトナム法人、シキボウベトナムは、内販事業として引き続き現地での糸・生地販売拡大に取り組んでいる。ユニチカトレーディングからの事業譲受も追い風に品種も拡大させていく。

 同社は昨年から綿糸の備蓄販売を始めるなど内販拡大に力を入れている。精紡交撚糸、強撚糸などの差別化糸を中心に10品番を備蓄、「まだ数量は少ないが、着実に売れてきている」。

 糸の外・外ビジネス拡大も方針に掲げており、こちらは「欧米向けでバイオーダーの試作依頼が届き始めた」と言う。

 また「ベトナムでは希少でニーズも確認できた」とし、綿糸に加えてレーヨンの取り扱いを始める。綿・レーヨン混紡糸をインナー分野などに向けて提案し、商機につなげる。

 生地販売はこれまで編み地に絞って展開してきたが、ベトナムでは手つかずだった織物の生産・手配・販売を、ユニチカトレーディングからの事業譲受を機にスタートする。