特集 介護ウエア(1)/ケアに役立つ快適ウエア

2025年09月29日 (月曜日)

 「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者となる2025年を迎えている。介護関連サービスの需要がさらに高まってくることは避けられないだろう。一方で現場は人手不足が常態化しており、介護従事者の負担軽減は喫緊の課題だ。

 そのような状況の中、介護ウエアにできること、その役割、業界の展望について、岐阜市立女子短期大学副学長・デザイン環境学科教授の福村愛美氏に聞いた。

〈特別インタビュー/岐阜市立女子短期大学 副学長 デザイン環境学科教授 福村 愛美 氏/働く人に寄りそう開発を〉

  ――衣服と人の心理の関係を探る「被服心理学」と、衣服の設計・製作を扱う「服飾造形学」の両面から介護ウエアの変遷を25年にわたって見続けられてきました。どのような変化を感じますか。

 日本ユニフォームセンターの助成を受けた共同研究をきっかけに、施設や居宅介護に携わる介護ウエアについて調査を始めました。時代に応じてさまざまな変化が生じていることが分かってきました。

 例えば2000年ごろは白やピンクといった明るい色が好まれましたが、17年の調査では紺や黒など落ち着いたかっこいいと評される色が人気を集める傾向がありました。これは、働く人の意識やユニフォームに求めるイメージが時代と共に変化していることを示しています。

 デザインはポロシャツだけでなく、スポーツウエアのようなものからスクラブといったものまで多様化してきていますが、それでも看護職向けユニフォームと比較するとまだレパートリーが少ないと感じます。

  ――介護ウエアに求められる役割は。

 介護職のなり手不足という根本的な課題がある中で、ユニフォームができることはあくまで一助です。それでも若い人が「このユニフォームを着て働きたい」と思えるような、かっこよさや介護職に対する誇りを持てるデザインは、職のイメージ向上につながる重要な要素です。

 一方、実際に現場で働く中高年の女性への配慮も必要です。年を重ねるにつれて変化する体形をカバーし、ゆったりと着心地よく働けるデザインを求めています。体のラインが出にくく透けない素材であることも働く上での安心感につながります。

 地域によりますが、自宅からそのまま通勤できるような、日常着としても違和感のないデザインも有効かもしれません。着替えの手間が省け、勤務中に少し外出する際にも気兼ねなく着られるスタイルは、多忙な介護職にとって大きなメリットです。

  ――介護ウエア業界の今後の展望は。

 洗濯耐久性や吸水速乾性、防シワ、ストレッチなど生地の機能性は必須ですが、国内メーカー品は技術開発が進んでおり、品質に大きな差はなくなってきています。

 そのような中で大切なことは働く人の心に寄り添った製品開発です。ユニフォームは組織の一員であることの証しであり、仕事への誇りを育むツールです。介護という重要な仕事を担う人たちが、自信を持って生き生きと働ける一着を、これからも研究者として、また生活者の一人として期待しています。

 近年は、児島や岐阜などの縫製工場を訪れると事業環境の厳しさを感じます。ユニフォームメーカーはじめサプライチェーン全体がしっかりともうけることができるような仕組みを作り上げていくことも重要であると思われます。

〈広洋物産/入所者の着脱負担軽減〉

 無地Tシャツ製造卸の広洋物産(東京都千代田区)は、病院・介護施設向けウエア「リフレッシングウエア」を展開している。

 厚過ぎず薄過ぎないふんわり柔らかな肌触りが特徴。汗をかいても裏地が素早く吸収し、表地から発散させる。ゆったりとしたデザインでリハビリ時も動きやすく、開閉が簡単な耐熱スナップボタン採用で着脱や検査時の負担を軽減できる。

 施設側から求められる実用性も重視。従来の布帛製品に比べて耐久性が向上し、洗濯と乾燥を繰り返しても生地の傷みや色落ちが少なく長期使用できる。防シワ生地でアイロンがけも必要ない。

 このほか、透析向けのオリジナル透析着もそろえる。必要な部分だけボタンを外せるため腕まくりせずに治療ができる。色、形、サイズのラインアップも豊富にそろえる。

〈YKK/強く滑らかな面ファスナー〉

 YKKの「POWERHOOK」(パワーフック)は、連続射出成形によって作る面ファスナーで、薄く滑らかな表面を特徴とする。

 滑らかな肌触りでありながら、高水準の引張せん断強度を発揮する。

 面ファスナー表面のフックの形状をⅩ状に設定した。フック同士の間隔を狭め、数を増やすことで、面ファスナーのフックとループが係合したときの引張せん断強度を高めた。

 標準的な面ファスナーと比較し、薄く主張も少ないため、アウトドアやスポーツといった軽さを求めるアイテムに向けて提案を進めてきた。

 今後は、滑らかな手触りと強度を併せ持つ特徴を訴求し、医療・介護の分野にも用途を広げていく。

〈ペットの介護ウエア/犬も高齢化時代へ〉

 大手学生服メーカーのトンボは、犬用ウエアの企画・販売に注力している。新ブランド「ララリラックス」では、遠赤外線効果による血行促進を訴求し、シニア犬の健康維持をサポート。国内にとどまらず、海外での販路拡大も視野に入れている。

 犬用衣類・用品製造卸のライフライク(東京都台東区)は、ファッション性と医療・介護ニーズを両立。術後服は伸縮性に優れ、犬種別にサイズを展開している。高齢犬向け帽子は日光対策に加え、つばがセンサー代わりとなり衝突防止にも効果を発揮。ゴーグル、靴など実用性を重視した製品もそろえる。

 ウォームハートカンパニー(東京都目黒区)は、犬猫用保護着「Tピース」を展開する。オーガニックコットン素材で動きやすく、ストレス軽減。デザインや色にも配慮し、寝具や雑貨、雨具まで幅広く扱う。