別冊ジーンズ(10)/デニム関連有力企業に聞く 国内デニム、ジーンズ業界の今
2025年09月29日 (月曜日)
〈コトセン 社長 渡邉 将史 氏/原反加工で多様な表情を〉
三備産地内では、シャトル織機で織るセルビッヂデニムの生産が盛況です。一方、革新織機で織るダブル幅のデニムはセルビッヂデニムほどの活況さはありません。そこで、当社では同じ生地でも加工によってさまざまな表情を付与できる原反加工の提案を強化しています。
顔料や樹脂コーティングのほか、アルカリ処理を施してデニムの綾目を際立たせるMC加工、経年変化による変色を表現できる熟成加工など、さまざまな加工技術を持っています。取引先の生地拡販に向けた提案材料の一つとして、貢献していければと考えています。
デニムは織る前に糸の強度向上や毛羽を抑えるために糊(のり)付けであるサイジングを行います。織り上がったデニムの糊を抜けば加工時に薬剤が染み込みやすい。ただ、デニムでは糊が付いたままのリジッドデニムが求められることも多いです。当社では織り上がったままの風合いをキープするために、経験値による繊細なコントロールによって、糊が付いたままの状態で原反加工が行えます。これが強みです。
海外への販路開拓に向け、国際的なオーガニックテキスタイル認証の「GOTS」を8月に取得しました。生地の整理加工場単体としての取得は国内でも初ではないでしょうか。
生地においては、素材や生産背景が重視される時代になりました。海外向けのビジネスでは国際認証を求められるケースも増えています。これが取れたから商売になるとは思っていませんが、モノ作りにおける信用の獲得とともに世界に対して売っていくための一つのツールにはなります。また、GOTSを取得している企業とのつながりにも期待しています。
〈ユケンケミカル 企画開発部 課長 武田 晴樹 氏/デニムに特化した薬剤〉
当社は、デニム加工に特化した薬剤を扱う、日本唯一の企業です。
従来の洗い加工は大量の水資源や、有害物質を使用することなどから環境への負荷が高いといわれていました。これまで使用されてきた有害物質を排除し、有害化学物質排出ゼログループ(ZDHC)の適合証明を取得した薬剤を幅広く開発しています。
さらに水の削減につながる製品開発でサステイナビリティーに尽力します。
サステに配慮した薬剤の中で売れ筋となっているのが、軽石を使わずストーン加工の風合いを表現する薬剤です。
液状の「バイオラーゼN-39」と粉状に改質した「リアルストーンEW8」の2種類があり、使用後に産業廃棄物となる軽石が必要ありません。既存の設備で加工できる利点もあります。水や燃料の削減にもつながります。
一部の染料メーカーが生産を中止した硫化染料の代替となる反応染料「リアクティブKR」と組み合わせる還元脱色剤「カラーブリーチBL」の開発も進めています。染め後のストーン加工が不要になります。糸の表面だけが染まる中白染めの再現性が高まるほか、硫化染料では出せない発色の良い色も表現できます。
中国の大連保税区に愛利化学という拠点を構え、ジーンズ加工用薬剤や各種染料、顔料などの製造・販売を行っています。日本と同等の設備を備え、独自の研究開発室を設置しています。日本人駐在員が管理し、日本から送った原料を使って薬剤を製造します。
中国国内向けだけではなく、指定した東南アジアの工場と直接契約して輸出販売も可能です。
〈ワン・エニー 社長 清 大輔 氏/“偏ったモノ作り”を志向〉
2025年6月期は減収減益でした。前の期の業績が好調だったことの反動に加え、顧客から早期の出荷を依頼されたことが原因です。この影響を除けば微増収でした。
売上高は新型コロナウイルス禍以降、右肩上がりで増えています。この要因は海外ブランド向けの商売が伸びているためです。コロナ禍でも海外に足を運びながら顧客を開拓してきたことが奏功しました。前期の売上高に占める海外比率は7割ほど。切っても切れないビジネスに育ちました。
これまでに、1940年代に米国陸軍が採用したチノパン、「41カーキ」の色をオーガニックの茶綿や緑綿をブレンドして紡績した糸で表現した「トゥルーオーガニックコットン」や、海島綿使いのデニムなど、特徴的な生地を数多く開発してきました。今後も企画に力を入れつつ、“偏ったモノ作り”を進めていきます。
当社では毎週、企画会議をしています。これまでは私がモノ作りをやってきましたが、今は各スタッフの企画レベルも上がってきました。彼らの企画提案も売り上げとしてフィードバックされてきており、自分にはない別の視点でのモノ作りという意味で学べる点が多いです。
今後も引き続き、メインの市場である欧州での新規開拓を進めます。これからは社員にも海外出張を任せながら、顧客獲得につなげたい。ラグジュアリーブランド向けだけでなく、違うリソースを育てていく必要もあります。海外開拓に力を入れてきた一方、国内ブランドが世界に羽ばたけるように後押しもしたいと考えています。
インフラ面の投資も視野にあります。社内が手狭になってきたため、移転も含めて物件探しを進めています。
〈ドアーズ 社長 鳥谷 泰嗣 氏/「メード・イン・ジャパン」守る〉
当社は東京・原宿に事務所を構え、デニム製品を中心にOEM・ODMを手掛けています。デニム生産は工程ごとの分業制で成り立っています。どこかの分野が一つでも衰退すれば「メード・イン・ジャパン」のデニム製品は作れません。そのことについて、危機感をずっと抱いていました。
この問題は1社で考えても解決できません。そこで当社が発起人となり昨夏、デニム製造や染色、縫製、洗い加工、副資材などのデニム関連企業が連携した合同展示会「デニム・クリエーション・サーカス」(DCC)を開き、国産の魅力を発信しました。
分業制のデニム業界で、川上から川下までしっかり水が流れるよう協力し合うことが必要との考えに賛同してくれた10社超の企業が出展してくれました。
今夏もほぼ同じメンバーで2回目のDCCを開催しました。多くのデニム関係者や一般の方が来場し、盛況でした。デニムメーカーからの新規受注に結び付いています。
既に来年の第3回目に向けて動き出しています。「デニム・クリエーション・サーカス」という商標を取得し、デニム製品を販売しようと考えています。展示会用のサンプル製品を一点物として、あるいは受注生産で一般消費者に販売し、その売り上げを展示会の運営費に活用する計画です。
そのため、来年はインフルエンサーや芸能人の発信力も借りて、より多くの一般消費者をDCCに呼び込むことを目指します。
売れ行きや反応が良ければ将来的には本格的にブランド化して、メード・イン・ジャパンを売りに海外のセレクトショップで販売したいと考えています。目標は5年後の2030年です。





