別冊ジーンズ(11)/海外に挑む三備のデニム企業
2025年09月29日 (月曜日)
日本のデニムは、その高品質さで国内のみならず海外でも一定の評価を得るまでになった。そのような状況の中、岡山県と広島県にまたがる三備産地のデニム関連企業で海外への販路開拓に挑む動きが近年広がりを見せている。
〈海外展契機にビジネスへ〉
三備産地では、デニム製造国内最大手のカイハラ(広島県福山市)や、クロキ(岡山県井原市)、日本綿布(同)、ショーワ(同倉敷市)などがいち早く海外でのビジネスを広げてきた。近年さらに、織布や洗い加工場など、デニム関連企業での海外へ販路を広げる動きが活発化している。
デニム製造の篠原テキスタイル(福山市)は、同社としては初の海外展となったイタリアのミラノで開かれる服地見本市「ミラノ・ウニカ」(MU)へ2019年に出展して以降、同展に継続的に出ながら海外販路の開拓を進めている。同社の得意とする「テンセル」デニムなど、特徴的なデニムをそろえてアピールしながら、顧客獲得につなげる。
染色加工の山陽染工(同)もMUに継続出展しながら、海外への販路を徐々に広げている。今年は中国・上海で今月開催された生地展示会、「インターテキスタイル上海」に初単独出展。今後は中国市場の開拓も強める。グループ会社である、デニムを主力とする織物製造の中国紡織(同)とも協力しつつ、生地を訴求する。
個社だけでなく、産地のサプライチェーンをPRする動きも出てきた。篠原テキスタイル、ロープ染色の坂本デニム(同)、デニム整理加工のコトセン(倉敷市)は、今年2月にフランス・パリで開かれた繊維総合見本市、「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」に出展。「デニムユニオンジャパン」として、経済産業省中国経済産業局のブース内にスペースを設け、産地の特徴などとともに、各社の強みを発信した。
近年、海外向けの売り上げを伸ばしているのは、デニムを主軸にテキスタイルの企画・販売やOEM生産を行うワン・エニー(岡山市)だ。新型コロナウイルス禍でも現地に足を運びながら開拓に注力したことなどが実り、「コロナ禍以降、売り上げは右肩上がりで増えている」(清大輔社長)。前期(25年6月期)の時点での海外比率は7割ほどだ。
デニム、ジーンズ製造卸のジャパンブルー(倉敷市)も輸出に注力する。以前も海外展に出展していたが、英語が話せる人材の不足などが要因で出展が一時途絶えていた。出展を再開させ、23年からはPVパリなどに積極出展しながら実績につなげてきた。ヘビーオンスのセルビッヂデニムを中心に提案を訴求。テキスタイル事業における海外売上比率は昨年時点で23%となっている。引き続き海外展への出展を通し、顧客を開拓する。
洗い加工場の中でも海外へ攻める動きが進む。豊和(同)は昨年12月にイタリア・ミラノで開かれたデニムに特化した国際見本市、「デニムPV」に初出展。単独としては初となる海外展への出展となったが、実績がついてきた。今後も同展に継続出展しながらビジネスにつなげる考えだ。
美東(同)は欧州ラグジュアリーブランドからの受注を順調に獲得する。加工技術に加え、生産のスピード感が評価される。
今後、さらに海外開拓に力を入れる意向を示すのは山陽ハイクリーナー(岡山県浅口市)。現在、欧米などの海外ブランド向けの仕事が増えてきている。高木祐樹取締役部長は「当社の加工を気に入ってもらえている」と話す。
海外へ販路を求めるジーンズメーカーも。ドミンゴ(倉敷市)は展開するカジュアルブランド、「SPELLBOUND」(スペルバウンド)で、パリの「ウェルカムエディション」やドイツ・ベルリンの「ユニオンショールーム」などの海外展に出ながら、海外開拓への足掛かりをつかむ。
ベティスミス(同)とビッグジョン(同)は今年4月、オランダ・アムステルダムで開かれたデニム関連の展示会、「キングピン」に出展。製品における海外ニーズを探った。
〈海外ブランドも注目〉
海外のラグジュアリーブランドからも支持が集まる日本のデニム。古いシャトル織機で織るセルビッヂデニムはその風合いや色合いなどから評価が高まっている。昨今の円安傾向も輸出を後押しする。
デニムに欠かせない、経糸を染めるロープ染色工程を担う、坂本デニムの坂本量一社長は日本のデニムが評価される理由について、「長く紡がれてきた伝統の藍染めの歴史があってこそ」と指摘する。色への追求と技術の蓄積が現代のロープ染色などのノウハウにつながっており、「この部分が日本のデニムが優勢に立てる理由」と語る。
同社では天然藍100%使いでも濃色を出せる技術を持つ。現在、染色に使われるのは石油由来の化学合成インディゴが主流な中、天然藍染めを訴求しており、「採用がじわじわと増えている」と言う。
海外ブランドからの国内デニムへの評価という点で一つトピックとなったのは、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループのグループ会社で、モノ作り産業の成長と活性化を目的とした取り組みを行うLVMHメティエダールと、クロキとの23年のパートナーシップ提携だ。LVMHメティエダールにとっては日本初のパートナーシップとなった。
クロキは06年に出展したPVパリでLVMHと接点を持って以降、ビジネスを継続してきた。パートナーシップ提携によって関係強化とともに技術交流などを進める。クロキの黒木立志社長は「交流によって当社の考え方も進歩できるし、大きなプラスになっている」と話す。
LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンジャパンでLVMHメティエダールのジャパンディレクターを務める盛岡笑奈氏はクロキについて、「伝統と革新をバランスよく持っている」と評する。日本でのデニムの生産は主に分業制で成り立っているが、クロキは染色から織布、整理加工まで一貫でこなすことができ、「素材開発などで管理が行き届きやすい」と説明する。
LVMHメティエダールが取り組む、新進アーティストの育成と、伝統工芸への革新的なアプローチを継続的に支援するプログラム「アーティスト・イン・レジデンス」の一環として、今月には同社工場でデニムを使ったアート作品を展示した。アーティストの米澤柊さんが6カ月間、同社を拠点にデニムの専門知識などを学びながら制作した。
黒木社長は「産地の歴史を振り返ってもなかなかなかった取り組み。会社としても勉強になった」と話す。盛岡氏も「職人技は文字だけでは伝わりにくく、サプライヤーは光を浴びないことが多い。アートの表現力でモノ作りの素晴らしさを伝えていきたい」と述べる。
このほか、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン系の投資ファンド、Lキャタルトンが、倉敷市児島を拠点とするデニムカジュアルウエアメーカーのキャピタルの株式の過半数を取得するなど、海外のラグジュアリーブランドが国内のデニム関連企業に注目するケースが増えている。
〈国際認証取得広がる〉
海外販売に向けては、課題も多い。その一つが国際認証の取得だ。特に欧州のブランドとのビジネスでは環境や人権に配慮した生産に取り組んでいることの証左として認証を求められることが多い。現在は「環境対応はしていて当たり前であり、話題に上がることもなくなった」との声も聞かれる。
産地内ではこの間、認証取得に向けた動きが進んできた。国際認証の中でも認知度が高いのが「グローバルオーガニックテキスタイルスタンダード」(GOTS)で、同認証を取得する工場が増えてきている。
GOTSは繊維製品を製造、加工するためのオーガニック認証で、オーガニックな原料から環境的、社会的に配慮した方法で製品をつくるための基準だ。トレーサビリティーや環境配慮、雇用倫理や労働環境の整備などが求められる。
GOTSの公式サイトによると、国内での認証取得は52件(9月18日時点)。産地内では、カイハラが22年に同認証を取得。24年にはクロキ、豊和の玉野工場(岡山県玉野市)が認証を受けた。今年に入ってもカジュアルテキスタイル商社の菱友商事(福山市)、坂本デニム、コトセン、縫製のナイスコーポレーション(倉敷市)が取得するなど、取得に向けた動きが進む。
菱友商事では国際認証の取得は初となる。海外へ生地を販売していくにあたり、商社からの依頼もあったことから昨年から計画を始め、今年から取得に向けて動き始めた。染色から織布、整理加工、流通までの同社の協力企業4社もユニットとして取得した。岡田英伸取締役は「海外市場に打って出る際にうたうことができる」と話す。
篠原テキスタイルも同認証の取得に向けて動いており、「おそらく取れそうだ」(篠原由起社長)としている。





